朝日のような夕日をつれて2024 そのさん
ネタバレ感想の続きです。読みたくない人は避けてクダサーイ
はい、いきますよ。
中盤で語られる、立花トーイの社運をかけたゲーム。今回はMRを取り上げます。考えてみれば、この芝居でVRを取り上げたのはすっごく前、20年以上前の91で、確かに我々も気軽にVRに触れることが出来る世の中になりましたが、なんか生活を変えたかと言われると、うーむ。実際問題、現実も「究極のゲーム」を探しているところがありますよね。で、今度はMR。以前のバージョンでは「VRで見たことのない世界ではなく、自分がけして傷つくことのない日常を作る」と言ってたわけですから、まさに正常進化してしまってます。いや、考えたことがなかったけど、これ怖い。例えば、Apple Visionを通してみたら、すごく怒ってる奥さんの、顔だけが笑顔に作り替えられているなんてこと、出来うるわけですよ。こわ・・・
そして、立花トーイがどんなMRゲームを出すかというと「MRラブチャット」。生成AIでしゃべるVチューバー。ヤバい。
ちょっとこれ、会社の勉強会とかで話したことがあるんですけど、AI搭載の「ラブプラス」はマジで人生狂わせる奴がいるので法律で規制するべきだと思います。それは、教育にAIをどう使うか、それとも止めておくべきかって議論だったんですけど、私はそこでかなりの規制派でした。だってね、何でも教えてくれて、すっごく励ましてくれて、ときどき叱ってくれるAIアンパンマンを肌身離さず持ってる小さい子供に対して、先生の権威は成立しませんからね。学級崩壊待ったなしです。そして、「AIラブプラス」は対象年齢いくつ以上って話もしたんですけど、PG12だという奴もいれば、中二病を脱してから(人間、中二病を中二で卒業できるとは限らんのです)という奴もいれば、むしろ18歳までには必修だろうという意見もあったり。難しい話ですよ。
そんなセンシティブな話ですが、舞台の上は馬鹿馬鹿しさ全開です。しかし、伝統的に「朝日〜」の少年役の女装は笑いが取れるネタですけど、一色さんのAIVチューバー、リンダリンダは笑いの対象にならない程度にマジで可愛かったので、ちょっと失敗かも(笑)。よくあの女声で延々芝居が続けられるもんですなあ。
この後のマーケッターの「ローマは一日にして羽田から行ける」(以前は「ローマは一日にしてイタリアの首都」でした)から、舞台の角に言ってのあれやこれや。血液型じゃなくなってたり、LINEへの書き込みを音読してたり、そしてそれをツッコまれて「そうしないと(お客さんに)わからないだろ!」と客席に向かって言ったり、この辺がリニューアルされてるのも心地よかったな。そして、もうね、すっごく楽しみにしてました。今回の○○病!
演劇的なウソを舞台上でやっていることに対しての自虐的なネタなんですが、最初が「新劇病」。その後、再演ごとに「ミュージカル病」、「小演劇病」、「イギリス静かな演劇病」と続いて、14ではいったん演劇を離れて「ソーシャルネットワーク病」でした。さて、今回はどうなるのか。91で「小劇場病」を思いついたときは震えたと鴻上さんもコメンタリーで言ってましたが、これはもう自虐中の自虐で、舞台の上で筧さんに「そこまで言う!」と言わせてました。
で、今回は「2.5次元病」ですよ。そんなのアリかよ!すごいこと思いつくな!
いや、これを堂々と舞台の上でやるのはホントすごいと思う。あ、タブーに切り込むとか社会派とかとかそういう意味じゃ無くて、これを思いついて、ちゃんと笑いにするところがすごい。だって、私はよく知りませんけど、これをやるということは舞台の上の役者さんは当然2.5次元である程度名を馳せている人なわけで、なんなら客席にはそういうお芝居をきっかけに演者のファンになって今この場にいるって人もいるはずじゃないですか。でも、やる。そういう人も笑わせる。そして、ちょっと「芝居とは何か」も考えさせちゃったりする。すごいなー。もう、ここが見られただけで、今回は満足した。すごかった。2.5次元の歌も歌ってた。なんなら戯曲の後ろに楽譜が載ってる(笑)
だんだんと今回のネタはなんだったかという話ばっかりになっている気もしますけど、ずっと歴代の「朝日〜」を見てるとそこばかり気になってしまうもので、この次の少年の「かまってネタ」も「なにかなあ」と思ってました。「SPY×FAMILY」でしたね。97が「エヴァ」、14が「進撃の巨人」。少年、また女装。また無駄にちょっと可愛いアーニャなんだよなー。
そして、ゴドー2の「トランシルバニアのサミー」のシーン。伝統に則って、照明のバトンに乗って下りてくる。
今回、公演のページにいろんな人のインタビューが載ってて、その中に14のゴドー2をやった伊礼彼方さんが、「ながーい詩を朗読しながらバトンから下りて、舞台の前まで行くと最前列のお客さんが一緒にその朗読をしてるんですよ。なんなら僕より流暢に。地獄だと思いました」って言ってて爆笑したんですけども、14のこのシーンは迫力がありました。藤井隆さんのゴドー1の「貴様ーっ!」からのにらみ合い。カッコよかったー。ここはね、今回の公演は負けてました(笑)。なんででしょう。理由はわかりません。
そして、ゴドー2のパート。ここはゴドー2の役者さんの個性を活かすパートです。今回は心理学ネタでした。ここも楽しかったです。特に「ポジティブマーキング戦略」が好きです。今回のここは鴻上さんが作った感じかなー。分析して分析して、分析に踊らされて、分析と戯れる。芝居のテーマにすごく沿ってる気がしました。今回のこのパートはすごく繋がりがよく見えた。なんだか、全体的にぶつ切りのイメージは薄いかも知れません、今回。
そして、便座でダンス。今でも早稲田からもぎ取ってきているんでしょうか。RCサクセションの「サントワマミー」。思わず口ずさんじゃう。
というところで、このパートの最後。どちらがホンモノのゴドーか決めるシーンで少年が割り込む。戯曲には「少年が面白い格好で登場」って書いてるんですが、今回の少年はパンフレットのあのゴドーの格好をして出てきました。一色さんの愛が伝わります。これが面白い格好なのかはわからないけど、髷が3本の力士の格好よりはいいと思いました。京さん、すいません(笑)。
今回、少年がすごくいいんだよなあ。97, 14と少年のキャスティングが、他の4人より芸歴に差がある人になってる傾向がありましたけど、今回はすごく少年が「4+1」じゃなくて「5」なイメージで存在してると感じます。もっとも、少年は他の4人につまはじきにされている役柄なんで、それでいいのかよくわからないんですけど、今回の少年は対等な感じがありました。よかった。
そして、休憩シーン。ここもねー、前回までのアダルツな感じよりちょっと弱いかなー。特に14のゴドーの語りがいいんですよね。藤井さんと伊礼さんだと第三舞台のスピードじゃなくて、なんかちゃんとお互いのセリフを聞いている感じがあって好きでしたが、今回はちょっと第三舞台みたいだった(笑)。ゴドー待ちが差し込まれたところは第三舞台じゃないのに、ここは第三舞台なんだよな。でも、あの速度とテンポでやってみたかったとか、じわっとやったら重すぎて休憩シーンじゃなくなったのか。ともかく、14のここが好きだったんだなーと思い出しました。
さて、いよいよ今回の究極のゲーム、「メタ・ライフ」。前作の「ソウル・ライフ」がたくさんのオンラインプレイヤーの中から、対話を通じて傷つくこと無くたったひとりの運命の相手を見つけてくれるゲームだったものが、ついに運命の相手をAIで作ってくれるゲームになりました。2014年にはまだちょっと信じられていたSNSでの交流や出会いが、完全に否定されているものになってしまった気がします。うーん、そう進むか。それも、そのAIは自分を全肯定するのでは無く適度なストレスを与えてくれるんですって。うーん、そう進むか。
みよ子の遺書では、その運命の相手、AIのソウルメイトを探す幸福、あり得ないという絶望、そして、AIのソウルメイトを寒さに耐えかねて受け入れてしまった瞬間の悔悟が語られていて、2014のラストよりその痛みがくっきりとした気がします。いやー、今回は生成AIがテーマになるとは思ったけど、やっぱり苦い。2014の感想で、手にスマートフォンを持ったまま「僕は、ひとり」ということの難しさについて考えさせられました。でも、2024は、周りをAIに取り囲まれた自分が「僕は、ひとり」という恐ろしさを感じます。いや、マジでひとりだからね、それは
「メタ・ライフ」から「みよ子の遺書」までも途中、いろいろありますが、いいかな。あ、この後も少年は最高でした。「よし、そこへ並べ・・・(まったく動く気配がないのをみて)並ばなくていい」のところも最高でした。素敵な爪弾かれ方です。よかった。
というわけで、全体的な感想は前に書いたとおり、期待通りの「新しい『朝日〜』」でしたし、ちゃんと鴻上さんの最新の「朝日〜」でした。ぶっちゃけ、97, 14, 24と3回生で「朝日〜」を劇場で見ましたが、今回が一番興奮した「朝日〜」だったかもしれない。素敵なお芝居をありがとうございました。
あー、書くのに時間がかかって大千秋楽終わっちゃった。ネタバレバリア、意味なくなってんじゃん
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