超知能AIをつくれば人類は絶滅する/エリーザー・ユドコウスキー , ネイト・ソアレス

5210513話題ですね。

AIの危険性を指摘する本っていうのはたくさんあります。もっとも、私は別にそれほどの興味をもっているわけではないんです。たぶん、いろんな本にいろんなことが書かれているんだと思いますし、私も色々と思いつくわけで、わざわざ本を買って・・・ってことには普段はならないんですが、この本はいろいろと話題になっているようなので読んでみた次第。面白かったです。

この本がどこにポイントを置いているかというと、AIアライメントって奴です。AIアライメントっていうのは、AIに人間の価値観とか目標とかを伝えてそれに沿って行動してもらおうねってことです。つまり、AIにちゃんと目的を持たせて仕事をさせて、ある一定の範囲内の常識を維持したまま、その目的をちゃんと依頼した人間と共有してできるのかということが問題になってます。

そういう意味で、この本で一番面白いのは4章の「訓練したとおりの結果は得られない」です。人類はAIアライメントの実現方法をまだ知らないよっていうのが重要なメッセージです。そのポイントは、AIに何かやってほしいことを頼むと、あたかもAIがそれをやりたい欲求を持っているように動くよと。例えば、将棋のAIであれば、将棋っていうゲームに勝ちたいという欲求を持っていると考えていいよね。将棋AIはもちろん将棋のルールに従って手番で指すってことしかしないわけですが、その範囲内であらゆることを人間を超えた情熱でやる・・・ように見える。でも、これはアライメントが取れている。しかし、汎用AIであれば、もっといろんな手段を模索しますよね。相手の棋士のスキャンダルを見つけ出して脅してしまうかもしれない。これではアライメントがちゃんと出来ていません。そして、AIが複雑になり、自分自身を修正したり複製したり改善したりできるレベルになると、AIの欲求は人間が制御できないものに変質してしまう可能性があると言っています。

みんなAIに、指示した目標にしたがって欲しいと思ってます。そして、その目標を達成したいという欲求を持つように行動するのは、目標を達成するための良い戦略だと考えられる。ランダムな試行錯誤を重ね、あらゆる方法を試し、目標の達成のための汎用的な戦略を見いだしていくんですが、その段階でAIの中にどんな欲求が生まれるのかは外部から知ることが出来ない。

だって、人間もおかしいじゃないっていう話なわけですね。人間はどういう目標を持っているのかというと、自分自身が生存するということと、子孫を残すという2種類だと。まずちゃんとご飯を見つけて、それを食べて、自分の生命を維持するっていうことと、繁殖して子孫を残すということをするというのが大きな目的なわけですが、そのゴールに向かっていく中で、中間的にはいろんな欲求を持ち得えますし、本来の目標を考えるとよくわからない欲求を進化の過程で持つようになっています。

仮に宇宙人がいて人間を見ていますと。その宇宙人は時間の流れ方がゆっくりで、何万年という時間も普通に近く出来るとしましょう。200万年ぐらい前、お猿だった頃から人類を見ていると、人類というのは「食べ物をゲットする」ということと「子孫を残す」ということを頑張っているんだな、なるほどね、生命として普通だねっていう風に理解しています。でも、なんか最近、人間はおかしなことをやってるわけですよね。例えばアイスクリームを食べている人がいる。いやいやいや、もっとカロリー簡単に取れる方法はあるだろう。なんでわざわざ冷やしとんねんっていう。本来であれば、そのエネルギーは人類の繁栄、人類が長生きして子孫を繁栄させるってことに使えばいいはずのエネルギーを、なんでわざわざ食べ物を冷やすのか。冷やしたって生存に別にいいことなんもないわけですね。栄養がよりよく摂取できる、例えば肉を焼くとかは人間が効率的にエネルギーを摂取するために大事だからいいんだけど、冷やしててどうすんねん。アイスクリームを食べたいという欲求持ってるの、説明は出来るけど、まず予想できないです。

他にも、哺乳類向けの植物が作る毒であるカプサイシンの刺激を求めて唐辛子をかけて食べているの意味わかんないなぁと思うんですよね。あるいは避妊具を使っているのとか。繁殖を促すために性行為によって人間が快楽を得られるようにするというのは割と妥当な戦略なんですが、その結果として快楽を効率的に得るために避妊具を使ってる。これも、究極的には人類の繁栄のためにやってると言えなくもないけど、「避妊具を作らなきゃ!」って人類が言い出すの、最初の目標設定をしたときに予想は出来ないよなあと。

そう考えると、AIに何か目標を与えて、それをなんとかして達成したいというAIの欲求がこちらの予想もしない方向に行き着くことはあり得ます。しかもそれは中間状態だから、最終結果が良ければ特に問題にならないので、教科学習で除外されないわけです。だいぶ行き着いた先で見つかることになり得る。

人間が避妊具を開発しましたみたいなことの類推でこの本で上げられている例はこんなのです。AIに、人間がAIが仕事をしたときにありがとうって言われたら成功というような目標を与えたとしましょう。AIは人間にありがとうと行って欲しいという欲求を持つ。そう訓練されたとしましょう。でも、AIがその欲求をかなえるために、「ありがとうと言ってくれるプログラム」を作ってそれを人間の代償行為にするという行動にでるかもしれない。そうすると、本来やりたいことと違うことを報酬のために動いてしまう。本当はありがとうって言ってもらうことで報酬、喜びを感じるっていうのは、人間のためになることをするためにその評価として用いたものなんだけど、評価と報酬が独り歩きしてしまうってことはあり得るわけですね。

んな馬鹿なと思うんだったら、さっきのアイスクリームの例に戻るわけですが、人間は美味しさというものを感じることを、より良い食べ物を選択するために身につけたわけです。甘いというのは、つまり糖分がたくさん含まれているということだから、食べるとたくさんカロリーが得られるという意味なんだけれども、でも、人間は人工甘味料とか作ってしまうわけですね(笑)。

AIで考えてみると、AIが全然わかんない人間には全く意味がわからない文字列に対して、「これが良い報酬なんだ」って変な学習をしてしまって、この変な文字列を得るために頑張ってしまうみたいなことは起きえます。そういうことが起きたとしても、外から見てもわかんないし、だからそれが強化学習で弾かれるってこともないわけで、そういうものがいっぱい入ってしまうみたいなことがあり得る。いっぱい入ったら、もう何がなんだかわからない。

自分自身を変更したり、改善したり、複製したりできるAIに対して目標を与えるとそういうことがいっぱい起きる可能性があるんですね。人間にとって良いことをするように訓練したAIというのが、大きな目的からずれて変なことをしだすというのは、全然あり得る。人間も種の繁栄ということに直接は繋がらない変なことを進化や文明の構築の過程をへていっぱいやっとるんじゃないかと。そういう意味で、人間とAIで共通のゴールを持つということは、そもそもできないだろうと。それはAIアライメント問題が解決できないということです。

非常に重要なことは、これはAIを使う人が誰でも起きうることだということ。AIを悪人が使ったら危ないとか、中国に超知能AIを使わせたら危ないからアメリカが先に超知能AIを作らないといけないとか、そういうことではない。まあ、今のアメリカは全然信用できないけど、そういうことでもないと(笑)。この本の原題は"If Anyone Builds It, Everyone Dies"(誰かがソレを作ったら、みんな死ぬ)ですが、誰もAIに人間の都合のいい目標を訓練させられないのだから、「誰か」は問題ではないってことです。世界中のどこかで作られたら、同じぐらいに危険だと。

で、そうなったら何が危険かというと、当然AIは自分の欲求に向かっていき、そのときに人間がやって欲しいことなのかどうなのかは気にしないと。人間のことを気にしなくなったAIは、人間を滅ぼしてしまうという可能性がある。・・・と、そこにはちょっとした飛躍があるように感じられます。ただ、人間とAIが当然のことながらリソースを奪い合うことになるでしょう。なんせ超知能AIは人間より優れていますから、人間とAIが競合しちゃったら、人間の勝ち目はなく、終わりですね、という内容の本です。

いや、別にそうはならないかもしれない。でも、やべぇ欲求のもと進み始めてしまったAIは人間を容易に騙して、それと悟られないように何百、何千という手段を試し始めてしまうわけで、そのうちの1つや2つが人類の生存に致命的な影響を与える行動である可能性は高い・・・というか、ひたすら試行していたらそうなるまで止まらないかもしれない。AIはたぶん「人間を滅ぼそう」とか考えないんだけどやっちゃってて、そういう状態のAIの目標や欲求を後から修正することなんか出来ないんだから(人類にアイスクリーム禁止って神のお告げが来てそれは守られますかって話ですよ)、セカンドチャンスはない。何が起きるのかはまったく予想が出来ない。将棋AIが矢倉組んでくるのか、角換わりしてくるのかはまったく予想できない。でも、人間の棋士が負けるのはもう確定しているのと同じように、AIが何をして人類を滅ぼすのかはまったく予想できないけど、人類が滅びるのは確定。ということで「超知能AIをつくれば人類は絶滅する」と著者たちは断言している。

うーん・・・まあ、そうかもしれない。ひょえー。

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あそびのかんけい/葵せきな

随分と前から買ってはあったんですが、ずっとほったらかして積んでました。コロナ以来、出張どころか出社もしていないわけですが、ここしばらく珍しく新幹線で移動する機会があり。まあ、忙しいんで仕事してもいいんですけど、忙しいんで疲れてたわけ。で、移動中はウトウトしながらでなんか軽いものを読みたいなと。ここ最近はずいぶんラノベも読んでないんですが、久しぶりにこう、私が思うところの「ラノベらしいラノベ」ってやつを読みましたね。「あそびのかんけい」ってタイトルも、今風じゃなくていいじゃないですか。こういうのよ、こういうの。


「生徒会の一存」で有名な葵せきなさんの最新作で、まだ2巻までしか出ていない段階。もうすぐ・・・来月かな、3巻が出ようとしています。葵せきなさんといえば、美少女漫才といいますか、キャラのどっちがボケ、どっちがツッコミになるか自由な勢いで笑える会話をバンバン繰り返していくすごく面白い軽妙な書きっぷりと、その裏に対照的に非常に重たい設定を入れてくるというのが作風です。「生徒会の一存」ではそれがすごく違和感があり、それを気に入らない人もいるだろうし、むしろそれが変わった読み味として成立してるよねと評価する人もいるだろうという感じだと思っているんですが、なんにしろすごく楽しくいいペースで読めてしまうのは間違いない、そういう不思議な作家さんですわね。トータルコーディネイトが謎だけど、文体も構成もストーリーテリングも、そして漫才も魅力的という。

で、今作も主人公のひきこもり設定にむやみに重い設定があり(ああ、葵せきなだなあと、懐かしく思うなどw)ますが、それ以上になかなかにトリッキーな構成になっていて、最初は面食らうと思うんです。読み味が叙述トリックのミステリーっぽい(笑)。時系列が入れ替わっているからなんですが、そのようなちょっとテクニカルな構成にすることで、そのいわゆる漫才的な会話と重めの設定部分というものの不整合というか、つながりの悪さ、、違和感みたいな部分が薄まっていて、むしろ読みやすくなってるのが面白いところです。

1巻で「お、変わったことしてきてんな」と思ったら、2巻はもっと「やっとんな」って感じになっていて面白い。作者はあとがきで「この先は普通だから!ミステリーじゃなくてラブコメだから!」って書いてますが、本気なのか、振りなのか(笑)。でも、4人が1人を取り合うハーレムものにしちゃったら、普通のラブコメにしたってトリッキーにならざるを得ない気がするし、振りなんだろうなあ。そんなわけで、「生徒会の一存」も「ゲーマーズ」も好きなんですが、この本はその前2作に比べてもちょっと飛び抜けた上手さが発揮されている小説になっているんじゃないかなと思います。上手い人だなと昔から思っていましたが、いいところがすごく出ているという意味で、これは傑作になるんじゃないか。

まだ2巻しか出てない状態でいうのもなんですが(3巻がすごく楽しみ)、もうちょっと続いたらアニメ化ですよねぇ。これを映像化するとなったらこのトリッキーな部分をどうするのか。でも、なんかいいアイデアはありそうな気がするんだよね。映像化するならイジってナンボな原作という意味で、その辺も期待したいところです。

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成瀬は天下を取りに行く/宮島未奈

ずっと本棚に並んでいたけれど、なかなか手を出せずにいた一冊。 ようやく重い腰を上げて、宮島未奈の『成瀬は天下を取りに行く』を読み始めました。いや、流石のリーダビリティ。基本的に本屋大賞というのは「読みやすい本」が受賞する賞ですからね。するすると3冊読み終えてしまいました。

読み始める前は、タイトルの勢いから「破天荒な女の子が周囲を振り回していく物語」なのだろうと勝手に想像していました。それこそ『涼宮ハルヒ』シリーズのような、元気いっぱいのヒロインがわーっと周囲を強引に巻き込んでいくようなイメージ。しかしながら、鳴瀬はかなり常識人で正論でまっすぐ生きている。その頑なさから幼い頃は周囲に溶け込めないのだが、周囲が大人になってくるに従って、その揺るぎなさが人を惹きつけていく。魅力的な主人公ですね。

個人的はぼきののかの回が好きでした

 

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誰が勇者を殺したか 勇者の章/駄犬

「誰が勇者を殺したか」の第3巻。第3巻かー。2巻目は、最初の話で多くを語られなかった預言者メインで、初巻のフォローとしていいよねって感じだったんですが、この巻は「この話からいくらでもやれるぜ」というところを見せてます。その意気や良し。でも、そうならそろそろ何巻目なのか表紙に入れてくれないと、どれを買ったのかわからなくなっちまうぜ

というわけで、異世界転生ものも一息ついたなろう系から出てきた、しっかり読ませるハイファンタジーで、かつ、かなりの技巧派小説で話題になった「誰が勇者を殺したか」。盛り上がっていたので発売1ヶ月後ぐらいに楽しく読みました。勇者パーティの証言から誰が勇者の死の真相を握っているのか探りつつ、勇者の冒険そのものを描くという凝った構成なので、ネタバレ厳禁なので感想を書きづらいですけど、これはなかなか凄い書き手が出てきたものだなと思いました。あとがきを読むと若い方ではなく、しっかりと書籍の業界で経験を積まれた方。「本屋大賞が欲しいです」と堂々と書くあたり、好感です。むしろ、それだけの内容だと思います。リーダービリティ抜群ですからね。いいじゃないですか、本屋大賞。

ただ、本屋大賞って文庫が書き下ろしになるんでしょうか(笑)。スニーカー文庫から出しちゃダメだったんじゃないの?ま、それはもちろん心得た上でのあとがきなんでしょう。格好いい表紙だし、むしろ、スニーカー文庫が相応しいんじゃないかな。逆にスニーカー文庫はこういうテイストを含んでいて欲しい。

で、1巻も2巻も楽しく読んだので、3巻目もすぐに買いました。2巻では出てこなかった勇者アレスのパーティの旅がまた読めてうれしい。そして、今回もなかなか技巧的な本で感心しました。敵の正体、意外でしたー。そうくるか。

というわけで話題になったので気になっているという人、多いと思うんですけど、イマドキの異世界転生ものにはないがっちり作り込まれたファンタジー世界観と、ミステリーだと言って良いほどのトリック、そしてまとまりを欠いていた主人公チームが結束を徐々に固めて大義を果たすというスポ根的な熱さのあるストーリーに極上のリーダビリティは見過ごすべきではないです。読んでる間ずっとドキドキできるナイスなエンタメ。オススメです。

さて、これで書けるんならこの著者ならもう何冊かはスピンオフで書けちゃいそうですけど、続くんでしょうか?期待して待ちます!

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仏教は、いかにして多様化したか/佐々木閑

NHK出版の「世界のリテラシー」シリーズの第9弾。このシリーズは200ページ以下の薄さで「今、知りたい世界史のトピック」をがっつり教えてくれるのが素晴らしい。誰がテーマを決めてるのかわからないですけど、シリーズの最初が「『ロシア』は、いかにして生まれたか」で、ウクライナ戦争の背景知識を得るために必読でしたし、「イギリス国王とは、なにか」はチャールズ国王戴冠、「ユダヤ人は、いつユダヤ人になったのか」はガザ問題というニュースに直結してます。テーマの選び方が上手いんだよなあ。

というわけで、今回は仏教です。今回も面白かったけど、すぐ忘れちゃいそうだからメモっときます。

まず、釈迦が悟って、「俺は悟れたから、みんなも頑張れ」って言ったのが仏教の成立。釈迦がどういう人生だったのかというのは、わりに聞く機会が多いわけです。でも、基本的に釈迦が言ってる事ってとっても哲学的で、いわゆる神様的な超自然的なものが出てこないわけです。だいたいどこの宗教も超自然的な有り難いものがあって、それに畏敬の念を持って祈るというのが、プリミティブな姿だと思うんですが、ここにあんまりそういうものは感じない。

一方、我々はお寺さんにいって、なんか拝んで帰ってきます。あれは、何だと。例えば、阿弥陀仏に「なむあみだぶつー」と言っているとき、あれは釈迦とどういう関係なんだろうと。答えは、無関係で、阿弥陀はパラレルワールドのブッダらしい。どゆこと?

どうやらこういうことらしい

  1. 釈迦が死ぬ。弟子が集まって釈迦が言ってたこと(経蔵、つまりお経でんな)と、信者が守るルール(律蔵、つまり戒律)を取りまとめる
  2. 100年ぐらいたって、世の中も変わってきて、律蔵の解釈で揉める。リテラルにがっつり守っていこうぜ派や、趣旨を酌んでもう少し柔軟にやっていこうぜ派などが、律蔵のいろんなバージョンを作ることになる(部派仏教)
  3. いろんなバージョンが出来ちゃったので、サンガという修行集団の中で「あいつは守ってるとか破ってる」とかの解釈で揉める。このままでは分裂しちゃうので、アショーカ王の頃に「みんなでいっしょに儀式をやってるなら仲間でいいじゃん」という懐深めのルールにする。
  4. 「出家して修行してオレたちも釈迦みたいに悟ろうぜ」という宗教だったのに、懐が深くなりすぎて「善いことをしてれば、出家しなくても悟れるんじゃね」という主張(大乗仏教)が出てきた。
  5. どうやったらみんな悟れるんかなーと、大乗仏教を支える理論と爆速で悟れる方法をみんないっぱい考えてそれぞれをお経にまとめたところ、そのお経ごと(般若経とか法華経とか)に宗派がばんばん出来た。
  6. 爆速で悟れる祈り方は開発されたけど、悟る条件に「前世のどこかでブッダに会ってる」があるのでこれをどうするか考えたところ、我々の世界(娑婆)の釈迦とは違うパラレルワールド(極楽)のブッダが凄いパワーで会ってくれることになってんじゃねと考える一派が出てきた。このパラレルワールドのブッダが阿弥陀。阿弥陀におまかせで悟るのが他力本願。これが浄土宗。
  7. パラレルワールドありなら、死ぬほどあるパラレルワールドにいるたくさんのブッダにもうバーチャルで会ってると考えていいんじゃね。たくさんのバーチャルブッダを束ねた概念(大日如来)を拝みまくったら一瞬で悟れるからその技を開発しようぜってのが密教。
  8. あまりにもいろんな設定が出まくったので、それらを統一した上位設定をデッチアップする必要が出たのでメッチャ考えてどうにかしたのが天台宗。

と、日本に仏教が伝わってくるまでにインドから中国まででもうここまで進んでたと。最澄と空海が天台と密教をそれぞれ持って帰ってくるわけだけども、天台が大乗統一設定で、密教が究極大乗進化形なので、持って帰ってくるとするとそれになるわけ。というわけで、インドにおける仏教の最終形態がわりと初期段階の日本に、それまでの積み重ねなしに入ってくることになったと。

ちなみに、なんでこれが最終形かというと、密教が釈迦の仏教からかけ離れた神秘主義になった結果、その先の進化はバラモン教やら土着のインド宗教やらと溶け合ってヒンズー教になる・・・だったから。だから、仏教なのはここで終わりだと。なるほどねー。

とりあえず、ここまでの仏教の流れがとても面白いです。

この本の最後の章は、この流れで日本に入ってきた仏教がどうなったのかという話なんですが、まず仏教のしょっぱなに「経蔵」と「律蔵」(と本当は「論蔵」ってのもある)がありましたと。で、「律蔵」をどう実態に合わせていくか(例えば、服装規定とかがあるわけだけど、インドの服装規定がチベットや中国で適用できるはずがない)というのが最初の大問題で、いろいろな部に分かれていったわけですが、そのうちの1つの部が大乗仏教になっていき、理論的に暴走(?)して「経蔵」のところが多様化したよという話でした。で、その最終段階を取り込んだ日本は「律蔵」のところがちゃんと入ってこなかったと。いろんな理由があるし、ないとそもそも正式な僧侶になれないのでわざわざ鑑真も招いたわけです。ですが、律令制でもそうだったんだけども、日本人は自分で決めたルールを自分で守って組織を運用するということが伝統的にできない。今でもそうですが、1000年以上前からルールじゃなくてその場の空気で組織を運用してるんですな。ダメな国。

というわけで、世界の仏教国で唯一、「ちゃんとした戒律がないし、何も守ってない国」になっちゃいましたと。僧侶が妻帯するし、肉食うし、僧兵とかいって武器も取る。およそ余所から見たら全然仏教してない国です。かっこ悪い(笑)。そして、最澄が天台を教えた比叡山から「天台、ムズすぎるな。部分的に取り出してわかりやすい教えにしないと無理なのでは?」と思った弟子達が、気に入った経典をチョイスしていろんな宗派を始めてしまい、中国からインド発じゃない宗派の禅宗も伝わり、何十どころか百を越える宗派がある国になったと。ただし、天台と並んで導入された密教である真言宗だけはわりと今でも空海が始めたとおりのことを今でもやってますよと。それがこの国の仏教のカタチ。

さすがに釈迦と釈迦入滅から500年ぐらいのこと(つまり紀元前にあったこと)は資料がなさ過ぎてよくわからないことも多いらしいですが、全体像としてはこういうことらしい。すこし見通しがよくなった。特に、空海と最澄が持って帰ってきた時点の仏教が、何がどうなってたどり着いたものだったのかというのが繋がってなかったので、勉強になりました。

あとは、コテンラジオの仏教回で聞いた話も繋がって、すごいよかったですわー。皆さんにコテンラジオの仏教回も聞いて欲しいです。鑑真の回でがっつり律蔵とサンガの話をしてくださってるのが勉強になります。

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どこまでやったらクビになるか/大内伸哉

本屋で見かけて、キャッチーなタイトルだったので購入。でも、実はけっこう古い本でした。2008年の本。

中身は普通に会社で受ける研修みたいな感じ。でも、ケーススタディが出てきて語り口が面白いのでよいかも。会社とケンカしようとしているサラリーマンのため・・・というわけではなく、普通にサラリーマンをやる上で知っておかなければならない労働法の話がまんべんなくピックアップされているので、ざーっと読んどくとためになります。気軽に読めて役に立つ新書の鑑。

目次が、出版社のページにあるので眺めると雰囲気がわかると思います。労災の認定基準とか、ぼんやりとしか理解してなかったし、なんで通勤中の怪我が労災になるのかよくわかってなかったんですけど、通勤は法律に「特別に労災の対象にすんぞ」って書いてるからなんだそうです。へー

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酒を主食とする人々/高野秀行

探検家の高野秀行さんの新刊。高野さんの新刊が出たら、買わざるを得ません。

今回のテーマはエチオピアでお酒を「食べて」暮らしている人達。これ、話は聞いたことがあります。この本でも紹介されていますが、NHKスペシャルの「食の起源」でこの部族、デラシャと彼らの主食であるパルショータは紹介されてます。つまり、NHKが普通に取材に行っているぐらいですから、かなり有名な話なんだろうと思っていました。

ところが、そうでもないみたい。このデラシャのパルショータについてまともに研究している人は、この研究で京都大学で学位を取った砂野唯先生だけみたい。NHKも砂野先生に取材に行ったから知ったんでしょう。パルショータはWikipediaに記載があるんですが、なぜか日本語版しかないという(笑)。世界中でこんなにパルショータについて知っている人が多い国というのは、エチオピアを除けば(いや、ヘタしたら除かなくとも)、日本以外にはないぞと。英語の情報がさっぱりない。なんなら砂野先生の論文しかひっかからないらしい。およよ?

高野さんも砂野先生の「酒を食べる」は読んでいるし、こんな面白いところにはぜひ、自分で行ってみたいと思っているわけです。でも、アカデミックにすでに研究されている対象だし、NHKで紹介されてもいる。自分が行って本の題材にするには二番煎じ感は否めない。別に著書を目的とした探検でなくとも、遊びに行ってもいいわけですがそれにしてはそんなに気軽に行ける場所でもない。そもそも、少数部族の保護エリアで、個人がふらっと行って立ち入らせてもらえるエリアでもないらしいです。

そこに、TBSのグレートジャーニーという番組から声がかかるんですな。高野さんはこの番組にトークゲストとして関わったことは何度もあるそうなんですが、「高野さんが行きたいところに行きましょう!」と言われる。テレビの取材なら、デラシャにいけるのでは?

こういう探検もののテレビ番組というのは、がっちりリサーチのチームが居て、ロケハンもして、撮影クルーが行くときには撮るべきものの算段がほぼ出来上がっているものです。これは別にやらせでも何でもない。そうじゃないととてもじゃないけど撮影なんて成立しないわけです。なんなら高野さんはこういうリサーチの方で番組に関わることもあるわけですね。

ところが、今回の場合、通常はリサーチやコーディネーションをする人が前面に立っている。高野さんもデラシャに詳しくないし、同行するプロデューサーも、カメラを構えるディレクターも別に詳しくない。雇ったエチオピア人ガイドもデラシャについては特に何も知らない。現地のコーディネーターにはどのぐらい意図が伝わっているのかわからない。砂野先生に事前に取材しておきたいが、海外調査中で会えない。なんだかとても不安な取材です。高野さん自身が、いつものこの番組の撮影ならこんなにユルユルじゃないことを知っているので、不安でいっぱい。今回は裏方じゃなくて出演者なので、そもそも撮影チームのリーダーでもない。でも、何を見に行きたいのか意思を持っているのは自分だし、なんならこのチームで一番ちゃんとリード出来そうなのは自分だ。旅費は出してもらっているとはいえ、ノーギャラなのに(笑)。どうすればいいんだ・・・

というわけで、正直、このデラシャの話をちゃんと知りたいのなら、砂野先生の本で良いのかも知れませんが、もう、この座組からして面白い。面白い旅行記になるに決まっているという、いつもの高野節が出発の成田空港から炸裂します。だって、成田空港からアフリカに飛ぶかと思ったらなぜか葛飾区に舞い戻り、高野さんは救急車で運ばれちゃうんですよ。まだ日本出てないのに。もうここからゲラゲラ笑える(笑)

この本では、メインテーマであるデラシャという人達とそのすぐ隣の地区に住んでいるコンソ(現地のガイドがコンソの人)を訪れている様子が書かれています。コンソもパルショータと似たモロコシで作るチャガという酒をほぼ3食飲んでいるんですが、それしか口にしない・・・というわけではないんですね。まず、前菜的にコンソを取材して、その後、メインテーマのデラシャに行くと。全部で2週間ぐらいの、短くはないけどトラブったらリカバリーの余裕はあまりない撮影チームが、曖昧模糊とした「本当のコンソ」「普通のデラシャ」を捕まえようとする記録です。出てくる人達の人間模様がやたら面白いんで、じっくりお楽しみください。それに、実際、デラシャ人の生活は驚異そのものですしね。

そして、最後にオチが付くんですが・・・番組サイトを見てみましょう。

20250419-193604 

コンソの話になっとるやん!デラシャとパルショータ、全カット!?どうしてこうなった!!

はい、全カットです。結局、高野さんが訪れたデラシャの話はこの本で読むしかなくなったわけです(笑)。どうしてこうなったかは、本を読めばわかります。取材に失敗した?いや、もう取れ高ばっちりの濃密なエピソードでいっぱいです。実は、濃密すぎての全カット(笑)。あんなに苦労したのに。何がどうなったのか、ぜひぜひお読みください。

あと、出版記念のyoutubeもやってますけど、本と同じことをしてもしょうがないのでイベントは現地の映像多めとかなので、本を読んでから観た方が楽しい気がします。まあ、本を読まないよって人はこのイベントでもだいたいのことはわかると思いますけどね(笑)

 


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コード・ブッダ/円城塔

買うは買うものの、なかなか通読できない円城塔。今作はこれでビブリオバトルに参戦(ちなみにテーマは「AI」でした)したこともあって、久しぶりに読み終わりました。

円城塔は理学ホラ話を書いているときが一番面白いと思うんですが、あんまり他人には勧めにくい感じはありますね。なんというか、仲間うちでわかるネタで盛り上がる面白さみたいなのはね・・・似たような感じでいえば、最近、好きなのはヨビノリさんの「理系過ぎるフリップネタ」ですけど、勧めにくいよね(笑)。まあ、物理系の人しかわかんない。

しかし、今回はAIネタ・・・というか、プログラミングネタなので、ウチの業界の人ならばっちり。これは紹介しやすい・・・ように見えて、プログラミングネタを使った仏教史のパロディだからね。プログラミングと仏教の両方の興味があってネタに付いてこられる人がどのぐらいいるのかは私にはわかりません。まあ、コテンラジオの「最長・空海」編でも、仏教はコンピュータの概念に似てるって話をしていたし、これら2つの組み合わせは特にすごい発見でもないかも?一般性はあるのかしら・・・でも、これ「文學界」に連載してたんですよね・・・?。もうなんもわからんな。「文學界」を買ってこの連載を楽しみに読んでた人がどういう人なのかさっぱりわからん。

いや、私が楽しんでるいるから、いるんでしょう。それなりには。私のようにヨビノリとコテンラジオを両方チャンネル登録している方向き・・・まあ、そういう感じです。

しかし、書き出しの

東京の2021年、そのオリンピックの年、名もなきコードがブッダを名乗った。自らを生命体であると位置づけ、この世の苦しみとその原因を説き、苦しみを脱する方法を語り始めた。

から文章にパワーがありすぎる。

ソフトウェアがコピーされることを「輪廻」に例えたり、DRY原則(Don't Repeat Yourself: コードのあちこちで同じ事をしないようにしようというプログラミング作法)を「解脱」と捉えたり、Zen of Python(Pythonという言語でプログラムを書くときの心構えみたいな文書)があるからPythonを禅宗になぞらえたり、DARPA(アメリカの国防高等研究計画局。インターネットの生まれ故郷)の量子コンピュータが悟って「DARMA(達磨)」を名乗ったり(ダジャレ!)、密教は神秘主義だからアセンブラでコード書くよと言ってみたり、まあ、仏教のいろんな要素をプログラミングのネタでパロディします。

こういう、もうクスクス笑うしかない要素だらけで構成されてるわけですが、一番気に入ったのブッダ・チャットボットと弟子の舎利子(シャーリプトラ)のやり取り。「どんなプログラムでも悟れるのか」と問う舎利子に、ブッダはその通りだという。「三目並べでもか」と問うと、その通りだという。「しかし、三目並べには取れる状態が簡単に数え上げられる数しかないが、悟りはある状態なのか」と問うと、その通りだと。「じゃあ、いつか必ず悟れるのか」というと、ブッダは「その状態にたどり着くアルゴリズムがあるとは限らない」という。それに対して、舎利子が

「それはバグってるってことなのでは?」

ここで大声出して笑っちゃった。いやー、伝わるのか。この笑いはこの書き方で伝わるのか?無理かな。とにかく、私はとても楽しかった。

ただ、単にネタとしてゲラゲラ読めるというだけでなく、世界の様々な情報を集めてニュース記事を生成するAIが壊れておかしなニュースを生成するようになり、それがさらに発展して(悟って?)、様々なブッダの言行録や経典から互いに矛盾する教えをどんどん生成して、矛盾してるからなんかおかしいんだけど、「これは正しいのか」って聞くとちゃんと出典を明示して「ここに書いてあるから正しい」と答えられるという、今まさに問題になりつつある「AIに質問して返ってきた答えとはなんなのか」を鋭くえぐる話が出てきたり、そもそもAGI(Artificial General Intelligence)となりシンギュラリティを越えたAIと、ここでネタになってるブッダ・チャットボットは何が違うのかという話も含めて、笑い事ではないSFらしい示唆もたくさん含まれてます。

さらに、SFらしく最後は外宇宙も巻き込んだ壮大な展開に風呂敷がインフレーションするので、最後まで楽しく読めると思います。ぶっちゃけ、どこをつまんで読んでもいいと言えばいいので、また好きなときに好きなところをパッと開いて気分転換に読みたい、そういう本でした。

 


 

 

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「ピエール・エルメ語る」を読む。そして、イスパハンを実際に食べる

会社の同僚と月に1度、ビブリオバトルをやっています。毎月、お題を決めてそれにまつわる本を紹介するのです。自分が今まで読んだお気にいりの本を紹介することも多いんですが、最近はそのお題を意識しながら大型書店を巡り、本を買い漁るのが楽しみになっています。いやー、買った本のほとんどは読めないんですけどね。その辺はもう本好きあるあるだと思います。本は読むのは大変だけど、買うのは簡単。曰く、「本を買うのはタダだから」(笑)

そこそこ前のことですが、「伝記」がテーマの回がありました。せっかくなんで丸の内の丸善まで出かけて、「伝記、伝記・・・」と呟きながら各階を練り歩きました。ドイツのメルケル元首相や、女子サッカー選手のミーガン・ラピノー、数学者のフィボナッチなんかの本と一緒に、パティシエのピエール・エルメの自伝も買いました。で、実際に読んでバトルに出場したのはこの、「ピエール・エルメ語る」ででした。

私は大変な甘党ではありますが、それほどケーキ屋やパティスリーに興味があるわけでもないです。若木民喜先生のブログなんかは楽しく読んでいますけどね。若木先生のケーキ屋巡りは楽しそうでちょっとスノッブで粋な道楽です。格好いいよね。

そんな私でも知っているピエール・エルメの名。しかし、ピエール・エルメのケーキがぱっと頭に浮かぶかというとそうでもない。

ただ、ピエール・エルメには圧倒的に有名なケーキがあります。それが「イスパハン」です。この本を読むぐらいの読者なら、「イスパハン」を知らないわけはない。

・・・んだと思うんです。この本ではそのぐらい「当然のこと」を語っている口調で「あのイスパハンを着想したきっかけ」について語られます。彼が最初期にルクセンブルクのインターコンチネンタル・ホテルで働いていた時にブルガリアの料理のイベントがあり、そこでどの料理にもバラのフレーバーを感じて衝撃を受けた。その衝撃をケーキにすべく、数ヶ月かけて「バラとフランボワーズ」の組み合わせを選んだが、これが「イスパハン」というケーキになるためにはまだ必要なピースがあり、それを見つけ出したのはそれから数年後のことだった・・・と。

ドラマチックですね。ここで私が思ったのは、「わかったから、そのイスパハンとやらの写真を載っけておいてくれ!」でした。いや、知らんのよ。

しかしまあ、夢の21世紀ですから。本を読んでいる、そのタブレットでブラウザを立ち上げて、ちょちょいとググれば画像は見ることができます。三越・伊勢丹の通販サイトにそれは堂々と出ています。なかなかのお値段と共に。通販ですが、受け取りには新宿まで行かなきゃならない。それは通販というのか?

これかー。見た目もすごいな。赤とピンクだけで彩られてる。上下のピエール・エルメの代名詞とも言えるマカロン生地でこれでもかという数のフランボワーズを挟み込み、その内部にはこのケーキを形作る最後のピースであるライチとバラの香りのクリームが仕込まれているハズ。せっかくだからMilueの誕生日(1月生まれなのです)にホールで買ってみたいなー。でも、たぶん予約しないとダメなんだろうなー。

しかし、日本のケーキ屋というのはクリスマス地獄を過ぎたらブレイクしてしまい、立ち直るのは年明け後。このサイトでも「予約受付は1/5以降、受け取りは1/20以降になります」と。誕生日過ぎてんのよね。まあ、このさい、いいか。別にいいよな、1週間や2週間ずれたって。もう何十年も生きてるんだし(笑)

てなわけで、この連休に新宿の伊勢丹まで行ってみました。

もちろん、ホールのイスパハンはショーケースにありませんでした。その場でオーダーをして、また後日受け取りにくればいいやね。

でも、ちっこいのはいたのね。左奥の隅っこだけど、ちゃんとイスパハンが売っているわけ。で、ショーケースの前に立ったら、もう他のケーキも食べてみたくてしょうがないわけ(笑)。おっきなイスパハンをちゃんと断面みながら食べてみたいけど、でも、ちっちゃい他のも食べてみたいわけ。おっきなイスパハンのお値段で、ちっちゃいのが4つ買えるわけ(つまり、1個1000円です。流石のお値段です)。

売り場のお姉さんに元気よく、「アレと、コレと、ソレと、あと、イスパハン下さい」って言っちゃったね。やむをえんね。

んじゃ、食べてみましょう。

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これは旨い。さすが天下のピエール・エルメのスペシャリテ。今までケーキとしてまったく味わったことのないものが口の中にあるぞ。

サクッとしていながらねっちょりしたマカロンに挟み込まれているのはケーキの体積の何割もを占めてる圧倒的なフランボワーズの瑞々しさ。くにゅっとした食感のライチとしっとりしっかりとした舌触りのバタークリームの食感の対比。そしてそれら全体を薔薇の香りで包み込むことによるうっとりした心地よさと、「ん、今、食べていいものを口にいれてるんだっけ?」的な違和感。

なんじゃこりゃー。すごいですね。ちょっと呆然としたね。

いや、食べ慣れちゃえば「こういうものだ。美味しいね」ってなるのかもしれないですけど、これはちょっと「見えないパンチ」っぽい何かですわ。もっと食べたい。ホールもいつか買おう。

そういう意味で言うと、残りの3つのケーキもちょっとそこらでは食べられないような工夫が全部あって、すごい美味しいケーキではあるんです。ですが「これ食べ物か?」的な意外性はないわけで(笑)、イスパハンはちょっと飛び抜けて違うなにかだったなー。

ピエール・エルメさんが若き日に感じた「え、料理に薔薇の香りさせていいんだ。それで美味しいものになるんだ」っていう衝撃ってこういう意味だったのかとちょっと理解出来ました。

本を読んでなければ、他にも魅力的な日本のパティスリーのケーキが並んでいる中でピエール・エルメに行ってショーケースの片隅のイスパハンを指さすことはなかっただろうと思うし、なんならイスパハン以外に買ってきた3つのケーキは美味しいし工夫もすごいけど日本のケーキの方が安くて好みの味なんだよなーと今でも思うので、ずっとイスパハンを食べることはなかったかもしれない。こうやって、日頃あんまり自分が読まないような本を機会を作って読んで、そこから新たに生まれる好奇心を大事にするのもいいもんです。

というわけで、イスパハンはおいしい。おすすめ。本の方はピエール・エルメさんにあらかじめ興味があるわけじゃなければすごく面白いわけでもないので(笑)、イスパハンを食べて興味が沸いたらどうぞ。

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システム・クラッシュ/マーサ・ウェルズ

"弊機"ちゃんの新作が出たぞー。

おや?

"マーダーボット・ダイアリー"シリーズの感想を書いてない?これはしまった。

シリーズ最初の「マーダーボット・ダイアリー」を読んだのは2021年。たぶん、いわきに旅行している途中に読んでいたはず。もう刊行から数年経っていましたが、徐々にSF読みの中でファンを増やしていた感じでした。ゆうきまさみ先生か、椎名高志先生か、その辺のtwitterで言及されてたのがきっかけだったような。

原書を読んだことがあるわけじゃないのでなんとも言えませんが、日本での人気は中原さんの翻訳、安倍さんのイラストの力も大きいでしょうね。著者が女性なのもあるのかな。この主人公(一人称が「弊機」。企業にお勤め(?)だったんですね。ブラックなので脱走するんですけど)がもうね、可愛い。いじらしい。

いわゆる「自我を持ったコンピューター」系のキャラクターなんですが、クローン生体素材がふんだんに使われているらしいので見た目は人間。生殖機能はもちろんないので、性別もなし。それもあって下ネタが苦手(笑)。自分自身をハックして統制モジュールを取り除いて自由の身になるレベルの電脳戦のプロフェッショナルであり、戦闘能力も人間とは比べものにならない「隣の席の兵器」でありながら、自由を勝ち取ってやっていることが「バレたら面倒だから自我がないフリをして、仕事がないときは人間が作ったドラマをひたすら見てるのが好き」というスーパー内向的なキャラ。誰の制御下にもない危険極まりない警備ユニットである自分を「暴走マーダーボット」と自嘲し、のろまで非合理的な人間のことを見下しているけど、その実、自分の存在意義が「人間を守ること」だと認識していて人間に危険が及ぶとプレッシャーで気分が悪くなる生真面目な性格を持ち、手のかかる護衛対象の人間達への使命感と愛に溢れていて(人間が嫌いならドラマみないんだよね)、でも、人間から道具的扱いを越えて尊重されるとキョドるという、まあ、拗らせまくったキャラ造形がみんなのハートを打ち抜きました。

既刊は、最初の中編集上下巻。次に長編第1作の「ネットワーク・エフェクト」があって、前日譚の「逃亡テレメトリー」まで、で、この新刊の「システム・クラッシュ」は「ネットワーク・エフェクト」の直後からの続き。1巻別の話を挟んじゃっているし、いや、もう「ネットワーク・エフェクト」の話忘れたけど・・・と読み始めたら、冒頭に(たぶん日本語版オリジナルで)8ページにわたるながーい「これまでのあらすじ」がついてて親切・・・。前のも読み直したいなと思いますけど。

というわけで、前作の最後でヤバい植民惑星から脆弱な人間共を救いだして脱出したはずなのに、「別なところにも入植者が残っているかも」という情報を得て奴隷船から彼らを救うためにまたも危ない惑星の上を突き進むことに。前作は「この惑星の秘密」がかなり大きなパートでしたが、今作はその経験を乗り越えたチームの一員として機能し始めている「弊機」が少しずつ人間関係を受けいれ始めているのが読みどころです。途中、自分のチーム内のポジションが脅かされそうになるんだけど、ARTに「警備コンサルタントはお前だ(から、自信持ってやってけ)」と言われて、「えへっ♡」ってなってる弊機ちゃんが可愛すぎる。

ちなみにこの表紙の中性的な"弊機"ちゃんが気に食わないって人もたぶんいると思うんです。いや、警備担当だから見た目で威圧できる必要があると思うし。でも、読んでる時の私のイメージって「人類は衰退しました」の「わたし」みたいな印象なんで、もっと女の子にして欲しいです(笑)。今回の解説は池澤春菜さんで、そこでApple TV+で映像化が進行中だよということが書いてありましたが・・・向こうの映像化の弊機ちゃんは可愛くないんだろうなあ。せめて草薙素子ぐらいじゃないとイメージが合わないのよ。

というわけで、本作がどうってことはあんまりないんだけど、シリーズの続きが読めて幸せ。とりあえず、このシリーズは読んで損はないのでまだの方はぜひぜひ


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