
会社の同僚と月に1度、ビブリオバトルをやっています。毎月、お題を決めてそれにまつわる本を紹介するのです。自分が今まで読んだお気にいりの本を紹介することも多いんですが、最近はそのお題を意識しながら大型書店を巡り、本を買い漁るのが楽しみになっています。いやー、買った本のほとんどは読めないんですけどね。その辺はもう本好きあるあるだと思います。本は読むのは大変だけど、買うのは簡単。曰く、「本を買うのはタダだから」(笑)
そこそこ前のことですが、「伝記」がテーマの回がありました。せっかくなんで丸の内の丸善まで出かけて、「伝記、伝記・・・」と呟きながら各階を練り歩きました。ドイツのメルケル元首相や、女子サッカー選手のミーガン・ラピノー、数学者のフィボナッチなんかの本と一緒に、パティシエのピエール・エルメの自伝も買いました。で、実際に読んでバトルに出場したのはこの、「ピエール・エルメ語る」ででした。
私は大変な甘党ではありますが、それほどケーキ屋やパティスリーに興味があるわけでもないです。若木民喜先生のブログなんかは楽しく読んでいますけどね。若木先生のケーキ屋巡りは楽しそうでちょっとスノッブで粋な道楽です。格好いいよね。
そんな私でも知っているピエール・エルメの名。しかし、ピエール・エルメのケーキがぱっと頭に浮かぶかというとそうでもない。
ただ、ピエール・エルメには圧倒的に有名なケーキがあります。それが「イスパハン」です。この本を読むぐらいの読者なら、「イスパハン」を知らないわけはない。
・・・んだと思うんです。この本ではそのぐらい「当然のこと」を語っている口調で「あのイスパハンを着想したきっかけ」について語られます。彼が最初期にルクセンブルクのインターコンチネンタル・ホテルで働いていた時にブルガリアの料理のイベントがあり、そこでどの料理にもバラのフレーバーを感じて衝撃を受けた。その衝撃をケーキにすべく、数ヶ月かけて「バラとフランボワーズ」の組み合わせを選んだが、これが「イスパハン」というケーキになるためにはまだ必要なピースがあり、それを見つけ出したのはそれから数年後のことだった・・・と。
ドラマチックですね。ここで私が思ったのは、「わかったから、そのイスパハンとやらの写真を載っけておいてくれ!」でした。いや、知らんのよ。
しかしまあ、夢の21世紀ですから。本を読んでいる、そのタブレットでブラウザを立ち上げて、ちょちょいとググれば画像は見ることができます。三越・伊勢丹の通販サイトにそれは堂々と出ています。なかなかのお値段と共に。通販ですが、受け取りには新宿まで行かなきゃならない。それは通販というのか?

これかー。見た目もすごいな。赤とピンクだけで彩られてる。上下のピエール・エルメの代名詞とも言えるマカロン生地でこれでもかという数のフランボワーズを挟み込み、その内部にはこのケーキを形作る最後のピースであるライチとバラの香りのクリームが仕込まれているハズ。せっかくだからMilueの誕生日(1月生まれなのです)にホールで買ってみたいなー。でも、たぶん予約しないとダメなんだろうなー。
しかし、日本のケーキ屋というのはクリスマス地獄を過ぎたらブレイクしてしまい、立ち直るのは年明け後。このサイトでも「予約受付は1/5以降、受け取りは1/20以降になります」と。誕生日過ぎてんのよね。まあ、このさい、いいか。別にいいよな、1週間や2週間ずれたって。もう何十年も生きてるんだし(笑)
てなわけで、この連休に新宿の伊勢丹まで行ってみました。
もちろん、ホールのイスパハンはショーケースにありませんでした。その場でオーダーをして、また後日受け取りにくればいいやね。
でも、ちっこいのはいたのね。左奥の隅っこだけど、ちゃんとイスパハンが売っているわけ。で、ショーケースの前に立ったら、もう他のケーキも食べてみたくてしょうがないわけ(笑)。おっきなイスパハンをちゃんと断面みながら食べてみたいけど、でも、ちっちゃい他のも食べてみたいわけ。おっきなイスパハンのお値段で、ちっちゃいのが4つ買えるわけ(つまり、1個1000円です。流石のお値段です)。
売り場のお姉さんに元気よく、「アレと、コレと、ソレと、あと、イスパハン下さい」って言っちゃったね。やむをえんね。
んじゃ、食べてみましょう。

これは旨い。さすが天下のピエール・エルメのスペシャリテ。今までケーキとしてまったく味わったことのないものが口の中にあるぞ。
サクッとしていながらねっちょりしたマカロンに挟み込まれているのはケーキの体積の何割もを占めてる圧倒的なフランボワーズの瑞々しさ。くにゅっとした食感のライチとしっとりしっかりとした舌触りのバタークリームの食感の対比。そしてそれら全体を薔薇の香りで包み込むことによるうっとりした心地よさと、「ん、今、食べていいものを口にいれてるんだっけ?」的な違和感。
なんじゃこりゃー。すごいですね。ちょっと呆然としたね。
いや、食べ慣れちゃえば「こういうものだ。美味しいね」ってなるのかもしれないですけど、これはちょっと「見えないパンチ」っぽい何かですわ。もっと食べたい。ホールもいつか買おう。
そういう意味で言うと、残りの3つのケーキもちょっとそこらでは食べられないような工夫が全部あって、すごい美味しいケーキではあるんです。ですが「これ食べ物か?」的な意外性はないわけで(笑)、イスパハンはちょっと飛び抜けて違うなにかだったなー。
ピエール・エルメさんが若き日に感じた「え、料理に薔薇の香りさせていいんだ。それで美味しいものになるんだ」っていう衝撃ってこういう意味だったのかとちょっと理解出来ました。
本を読んでなければ、他にも魅力的な日本のパティスリーのケーキが並んでいる中でピエール・エルメに行ってショーケースの片隅のイスパハンを指さすことはなかっただろうと思うし、なんならイスパハン以外に買ってきた3つのケーキは美味しいし工夫もすごいけど日本のケーキの方が安くて好みの味なんだよなーと今でも思うので、ずっとイスパハンを食べることはなかったかもしれない。こうやって、日頃あんまり自分が読まないような本を機会を作って読んで、そこから新たに生まれる好奇心を大事にするのもいいもんです。
というわけで、イスパハンはおいしい。おすすめ。本の方はピエール・エルメさんにあらかじめ興味があるわけじゃなければすごく面白いわけでもないので(笑)、イスパハンを食べて興味が沸いたらどうぞ。
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