ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング
トム・クルーズの「ミッション:インポッシブル」シリーズの最後を飾る(ということでいいんですか?)前後編の、後編。前編の感想はこちら。
あたかも「アベンジャーズ・エンドゲーム」のような祝祭感のある1本で、なんせ映画が始まる前にわざわざトム・クルーズが日本の観客に向けてメッセージする映像が入るという特別感。あのですね、役者がこれから芝居をするという時に、中の人として挨拶をすることはありません(笑)。つまり、もうこの作品は、「ミッション:インポッシブル」のイーサン・ハントという役を借りて、トム・クルーズが芸を見せる映画です。言ってしまえば、羽生結弦が陰陽師っぽい衣装を着て、それっぽい音楽でスケートするけど、「まるで華麗な陰陽師という架空の存在があり、それを体現する」とかではなもちろんまったくなく、単にすごい羽生結弦を見る以外の何もでもないというのに近い。今回の映画では、トム・クルーズは何をやるのか。そのシークエンスごとに技術点・芸術点がつきますというような、謎の映画です。少なくとも、「エンドゲーム」はトニー・スタークやスティーブ・ロジャースという映画の中の人物が結末としてどーなんのといういうのが観客の興味です。でも、この映画の熱心なファンは、トム・クルーズが最後に何をやるのかという、トム・クルーズという映画史に輝くアクションスターが、今回どんな映画を見せてくれるのかを見に行ってます。これがね、「トムがどんな演技をするのか」とか「どんな格好いいトムの活躍シーンが見られるのか」だと、それはトム・クルーズのアイドル映画になってしまうわけですが、あくまで「トムはどんな映画を見せてくれるのか」なわけです。トムが考える「すげぇ映画」というものがどう提示されるのか。そこには当然そんなこと世界でトム・クルーズしかやろうと思わないし、出来ないし、やらせて貰えないというアクションシーンが含まれるわけですが、それだけでもなくて、アクションやスタントに対する考え方や、映画を作るシステム、そこで働く人の倫理や今後の映画のビジョンみたいなものまで入っている。なので、このトムはこの映画の監督ではなく、プロデューサーなわけです。同人ですらない。出版社を経営している漫画家みたいな状態です(笑)。
そして、ここが非常に面白いところだと思うんですが、稀代のアクションスターが考える「これが俺の出せる最高のアクション映画だ」というものは、我々から見るとかなり歪です(笑)。言ってしまえば、変です。今思えば、前編はそんなに変じゃありませんでした。前編の感想で「この映画はこれまでのアクション映画のショーケースだ」と書きました。はっきりそれが意図されてたと思います。なので、映画は「鍵を奪い合う」という単純なルールに基づく、アクションに次ぐアクションに次ぐアクションでした。後編と並べると、これはフィギュアスケートの規定演技と自由演技みたいなものです。前編は規定でした。しかし、フリーにはこれまで誰も観たことがない名前がまだ付いてないようなジャンプも入ってれば、独創的な演技も要る。「ファイナル・レコニング」には、これまでもシリーズゆかりのキャラの再集合や、世界が破滅一歩手前まで行く深刻な危機や、イーサンのチームを揺るがすドラマがないといけない。そうじゃないと、トムの考える「最高のアクション映画」にはならない。ただし、あくまでそれは「最高のアクション映画」でなければならない。政治パートがめっちゃ面白かったりそこのキャラが全部を食っちゃったりチームのドラマで号泣されてはならない。それは入ってるんだけど、それ以上にそこにはモリモリにアクションが入ってないといけないし、なんなら観客が「これどうなるんだろうと思ってドキドキ見ていたらアクションが凄すぎて細かいことはどうでも良くなって全力でみんなを応援する気持ちになる」というのがゴールだと。
これはだいぶ偏った理想なので、「いや、それは私の考える優れた映画とは違うなあ」という人も多いでしょうし、「スパイ大作戦」のファンは「スパイ大作戦でやんなよ。自分のシリーズでやれよ」と思うかも知れないです。でも、それはそれとして、このトム・クルーズの理想は理解はできるし、実現の困難さも想像に難くないし、なにより、結構できてるだろうと思います。これが理想だというと、作ってるトム・クルーズや監督のクリストファー・マッカリーは「いや、まだまだ気に入ってないところもいろいろあるし、やりたかったことは他にももっとあったんだよ」と言うかもしれないですけど、いや、これ以上はしんどいって。観てる方だって、お腹いっぱいだって。もうね、見終わった後ぐったりですよ。
という感じで、ネタバレなしで語れるのはこれぐらい?いや、ネタバレしちゃダメなタイプの映画ではすでにないんですけど、一応ね。もう、ネタバレの感想は書きません。アクション最高でした。シナリオはツッコミどころ満載だけど、必要十分です。「エンドゲーム」と同じような映画の歴史の1ページなので、みなさん、見に行きましょう。義務です。
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