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コード・ブッダ/円城塔

買うは買うものの、なかなか通読できない円城塔。今作はこれでビブリオバトルに参戦(ちなみにテーマは「AI」でした)したこともあって、久しぶりに読み終わりました。

円城塔は理学ホラ話を書いているときが一番面白いと思うんですが、あんまり他人には勧めにくい感じはありますね。なんというか、仲間うちでわかるネタで盛り上がる面白さみたいなのはね・・・似たような感じでいえば、最近、好きなのはヨビノリさんの「理系過ぎるフリップネタ」ですけど、勧めにくいよね(笑)。まあ、物理系の人しかわかんない。

しかし、今回はAIネタ・・・というか、プログラミングネタなので、ウチの業界の人ならばっちり。これは紹介しやすい・・・ように見えて、プログラミングネタを使った仏教史のパロディだからね。プログラミングと仏教の両方の興味があってネタに付いてこられる人がどのぐらいいるのかは私にはわかりません。まあ、コテンラジオの「最長・空海」編でも、仏教はコンピュータの概念に似てるって話をしていたし、これら2つの組み合わせは特にすごい発見でもないかも?一般性はあるのかしら・・・でも、これ「文學界」に連載してたんですよね・・・?。もうなんもわからんな。「文學界」を買ってこの連載を楽しみに読んでた人がどういう人なのかさっぱりわからん。

いや、私が楽しんでるいるから、いるんでしょう。それなりには。私のようにヨビノリとコテンラジオを両方チャンネル登録している方向き・・・まあ、そういう感じです。

しかし、書き出しの

東京の2021年、そのオリンピックの年、名もなきコードがブッダを名乗った。自らを生命体であると位置づけ、この世の苦しみとその原因を説き、苦しみを脱する方法を語り始めた。

から文章にパワーがありすぎる。

ソフトウェアがコピーされることを「輪廻」に例えたり、DRY原則(Don't Repeat Yourself: コードのあちこちで同じ事をしないようにしようというプログラミング作法)を「解脱」と捉えたり、Zen of Python(Pythonという言語でプログラムを書くときの心構えみたいな文書)があるからPythonを禅宗になぞらえたり、DARPA(アメリカの国防高等研究計画局。インターネットの生まれ故郷)の量子コンピュータが悟って「DARMA(達磨)」を名乗ったり(ダジャレ!)、密教は神秘主義だからアセンブラでコード書くよと言ってみたり、まあ、仏教のいろんな要素をプログラミングのネタでパロディします。

こういう、もうクスクス笑うしかない要素だらけで構成されてるわけですが、一番気に入ったのブッダ・チャットボットと弟子の舎利子(シャーリプトラ)のやり取り。「どんなプログラムでも悟れるのか」と問う舎利子に、ブッダはその通りだという。「三目並べでもか」と問うと、その通りだという。「しかし、三目並べには取れる状態が簡単に数え上げられる数しかないが、悟りはある状態なのか」と問うと、その通りだと。「じゃあ、いつか必ず悟れるのか」というと、ブッダは「その状態にたどり着くアルゴリズムがあるとは限らない」という。それに対して、舎利子が

「それはバグってるってことなのでは?」

ここで大声出して笑っちゃった。いやー、伝わるのか。この笑いはこの書き方で伝わるのか?無理かな。とにかく、私はとても楽しかった。

ただ、単にネタとしてゲラゲラ読めるというだけでなく、世界の様々な情報を集めてニュース記事を生成するAIが壊れておかしなニュースを生成するようになり、それがさらに発展して(悟って?)、様々なブッダの言行録や経典から互いに矛盾する教えをどんどん生成して、矛盾してるからなんかおかしいんだけど、「これは正しいのか」って聞くとちゃんと出典を明示して「ここに書いてあるから正しい」と答えられるという、今まさに問題になりつつある「AIに質問して返ってきた答えとはなんなのか」を鋭くえぐる話が出てきたり、そもそもAGI(Artificial General Intelligence)となりシンギュラリティを越えたAIと、ここでネタになってるブッダ・チャットボットは何が違うのかという話も含めて、笑い事ではないSFらしい示唆もたくさん含まれてます。

さらに、SFらしく最後は外宇宙も巻き込んだ壮大な展開に風呂敷がインフレーションするので、最後まで楽しく読めると思います。ぶっちゃけ、どこをつまんで読んでもいいと言えばいいので、また好きなときに好きなところをパッと開いて気分転換に読みたい、そういう本でした。

 


 

 

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