アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方
「アプレンティス」という、若かりし頃のトランプ大統領を描いた映画を観てきました。
アプレンティスというのは、皆さん、ご存じの通りフォースの暗黒面をつかさどるシスの弟子のことです。ジェダイには、パダワン。シスにはアプレンティス。
この映画はスターウォーズのスピンオフ最新作として、なかなか面白い作品でした。シスの暗黒卿であるコーンに見いだされ、彼のアプレンティスとして悪の教えをたたき込まれるドナルド青年がついにダークサイドに落ち、最後はマスターであるコーン卿を悲嘆と絶望の淵に追いやり、彼の葬儀が行われるまさにその時に肉体改造を受けてダース・トランプとして生まれ変わり、最後は「過去を語るのは好きではない」と自叙伝のライターに語りながら高層ビルからコルサントを眺めるラストシーンは、あまりのいたたまれなさに胸が痛くなりました。我々はこのダース・トランプがこの後、事業には失敗しながらもフォースの暗黒面を駆使して、ついには帝国の皇帝になることを知っているので、複雑な気持ちでした。
・・・という映画なんですよ、ホントに。ホントに改造手術されるの。脂肪吸引とハゲ隠しなんだけど(笑)
今までスターウォーズで完全にシスが主人公の作品というのはたぶんないと思うんですけど(最近はいっぱいありすぎてわからない・・・)、もし、あったらこんな作品かなと思います。ノワールものっぽい。つまりは、マスターのロイ・コーンもアプレンティスのトランプも、完全に悪人。悪辣っぷりでむしろちょっと面白い。
アト6の宇多丸さんのムービー・ウォッチメンを聞いて観に行くことを決めたので、どういう映画なのか、登場してくる人物がどういう人達なのかはある程度理解していきました。宇多丸さんの映画評を聞くまではロイ・コーンという人自体を知らなかったのですが、たぶんこの映画を観に来るアメリカ人はみんな知っているレベルの人みたい。映画の冒頭で、初めてロイと対面した時に、「え、あのロイ・コーン?(The Roy Cohn?)」ってその辺のアパートの家賃回収してるレベルのトランプが聞き返すぐらいだから、有名なんですね。だいたいは悪い意味で(笑)。
なので、宇多丸さんの映画評は聞いていった方がいいかも。史実だし、「この人、このあとなんと大統領になります」が最終的なネタバレみたいなものなので、ネタバレ気にする必要は全然ないです。
でも、この後はラストシーンの感想を書いちゃうんで、一応、ちょっと空間をあけとくね
で、このロイ・コーンが、まあ、わりぃ奴なんですよ。トランプに悪いこと教えるの。「絶対に非を認めるな。負けも認めるな」みたいな。現実歪曲フィールドを伝授するんですよ。ただ、コーンはゲイを弾圧するくせに自分もゲイで、そのせいもあるのか、ハイソでおしゃれで美学があるんですよね。クソ野郎なんですけど。ちょっと格好いい。
ところが、トランプはコーンからフォースの暗黒面の使い方を教わって、皆さんご存じのあの攻撃方法を使いまくってむちゃくちゃしまくるんだけども、勝負の亡者みたいになっちゃって肉親に無駄なマウント取りに行ったり、ネゴらなきゃいけない相手にブチ切れちゃったり、マスターの美学は受け継いでない。投資を広げすぎて、コーンに「ちょっと考えろ」って言われるんだけど、聞く耳を持たない。ばんばんカジノを作ってどうだってコーンを招いて自慢するんだけど、本物を知ってるコーンからすると出てる食事とかがビンボくさい。間違いなく一番有名で力も持っている最強の弟子なんだけど、なんか失敗した感がある。
時代はちょうどAIDSが大問題になっていたころで、コーンも彼のパートナーもAIDSの合併症を発症しちゃう。より症状が重いパートナーを助けてやってくれとコーンはトランプに頼みに行くんだけども、トランプは適当にあしらって助けてくれない。教えたとおりのクソ野郎にはなってるんだけど、美学がない。最後、パートナーも死んじゃって、コーンももうすぐ死ぬ(この人、最後の最後まで自分はガンだといいはって、AIDSであることは認めない。みんなもうわかっているのに、絶対に認めない。そういう人)という時に、トランプが最後に連絡してくる。誕生日に自分のフロリダの家に招待したい。これが、仲直りの最後のチャンスだし、失敗作ではあるけどこれが自分が最後に作り上げた弟子だし・・・と招きに応じるコーン。ただひたすら豪邸を自慢するトランプ。最後にカフスをプレゼントしてくれる。高そうだけど、「Trump」って書いてある。すげぇダサい。誕生日パーティの席で出席者に「これ、イミテーションの安物よ」と言われる。ダサい上に、ケチってる。情けない。ホストのトランプのスピーチで持ち上げられて、返しのスピーチでコーンは言葉に詰まる。雰囲気として、トランプを誇りに思うと言わざるを得ない。言いたくない。コーンはトランプを嫌いじゃないし、彼をフックしてこう仕上げたのは自分。良いところも悪いところも嫌と言うほど知っているが、自分が最期に残したのがこれなのかという絶望感に囚われている。なんとか、絞り出してひとこと、ふたこと喋ったところで、誕生日祝いのケーキが出てくる。でーっかい長方形の星条旗がデザインされたケーキに花火が刺さってる。
ダサい
もうね、バカにしてこれやってんのか、マジでこれでコーンが喜ぶと思ってるのか、わかんないんだよね。だって、車椅子でしか移動出来ない病人なんだよ。もうどうみてもすぐ死ぬのよ。この時代のAIDSは不治の病だからね。その人にこのケーキって・・・
ここでこのケーキ見て、ロイ・コーン、泣いちゃうんだよ。絶対に負けを認めないって、自分がAIDSであることも頑なに認めないって言ってる人が、泣いちゃうの。せつなーい。もうね、このシーンはマジで辛い。こんな絶望あるっていう。でも、トランプたぶんわかっていないっていうね。いや、すごいシーンですよ。どこまで史実かわからないけど、このシーンを作った監督はすごい。
もうね、こんなペラッペラのクソ野郎がアメリカ大統領なわけですよ。情けなくて泣けてくるよね。ラストシーンは、伝記を書くために呼ばれた記者がトランプに「あなたの人生、伝記になりませんよ。読者が読みたいものがない」って言うので終わるという。ペラペラだからね。それを、彼を題材にした映画のラストで言うという・・・。ふーっ、なんというか、切り口がすごい面白かった。
観て気分がいい映画ではあんまりないんだけど、まー、独特の後味なんで、これはこれで。とにかく、これを企画して撮って公開したのはマジですごい。観て良かったです
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