After Steve/トリップ・ミックル
良かれ悪しかれ絶対的な意思決定機関だったスティーブ・ジョブズを失った後、Appleはどう舵取りされてきたのかの内幕を語るノンフィクションです。それは、この10年の間のWWDCやiPhoneの製品発表会の裏側で何が起きているのかを妄想してきたり、ネタに酒を飲んできたりしている私たちにとっての「答え合わせの書」でもあります。読まないではいられません。
これまでにアイザックソンの有名なジョブズの伝記と、ジョニー・アイヴの伝記は読んだことがありました。アイヴの伝記の著者は2019年にティム・クックの本も書いているんですが、そっちは読んでおらず。クックの来歴についてはこの本で初めて知りました。
ジョブズが死ぬ前は、ジョブズとアイヴがカッチョいいプロダクトを作り、それをクックが何億人という人に滞りなく届けてちゃんと儲けるという体制が出来てました。そして、ジョブズ亡き後、クックがアップルを率いていくわけですが、当然、ジョブズを介してつながっていたアイヴとクックという両輪は、それまでとは違うゆがみが出てくるわけです。
というわけで、この本は1章ごとに「クックパート」「アイヴパート」が繰り返されていきます。そして、読めばこの2人がどれだけ偉大なデザイナーと経営者なのかということがはっきりとわかります。いや、読む人のある程度は「この2人がどのようにしてジョブズ亡き後のアップルをダメにしてしまったのか」という期待で読むのだろうと思いますし、原著のサブタイトルには"How Apple Became a Trillion-Dollar Company and Lost Its Soul(アップルはどのようにして3兆ドル企業になり、その魂を失ったのか)"と書いてあるぐらいだからある程度はそういう期待に応えるつもりで書かれてはいます。
しかしながら、この本を読むとなんら間違ったことは起きてないわけです。ジョブズがいなくなった後、いきなりこの2人が仲違いしたわけでもないし、ジョブズに成り代わろうとして迷走したわけでもない。アイヴはクリエイティビティを焚きつけて、かつ、世のゴタゴタから守ってくれていた偉大な才能を失いながらもジョブズがいなくても自分たちはクリエイティビティを形に出来るんだともがいて成果を出し(結果、燃え尽き)、クックは前任者の様に製品開発に逐一介入するようなことはせず、アイヴに任せるべきところは任せ、会社を適切にオペレーションし、株主からの要求に応え、議会とも中国政府ともトランプ大統領ともタフな交渉をこなす。すごいです。そりゃまあ、いろんな問題は起きているし、人間関係のゴタゴタは起きまくっているし、社員は激しいプレッシャーでボロボロになっていっているんだけども、そんなのまあ、どこの会社にだってあることで、アップル社内が楽園のようなところだとはだーれも思っていないわけですよね。
この本を読むと、逆にこの10年、ジョブズが生きていつもの調子でやってたバージョンのアップルのことをどうしても考えてしまいます。ジョブズはその後もずっと魔法を続けられたのか。アップルはジョブズの魔法を実現させることが続けられていたのか。どーだったんでしょうねぇ。
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