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プロジェクト・ヘイル・メアリー/アンディ・ウィアー

「火星の人」「アルテミス」に続くアンディ・ウィアーの長編3作目。「火星の人」の大ファンなので作者名で即買いなんですが、出版されるのを聞いたのは野尻抱介さんの下のツイートを見たから。野尻先生がコレだけ言うんなら、もう疑いなしでしょう。ウッキウキで発売日を待ちました。ちなみに、てっきり文庫だと思ってたんで、四六判が届いたときには結構ビックリしました。うん、よく見たら文庫っぽくない値段だわ。一気に読みました。

いやー、面白い。で、確かにアイデアがちょっと「太陽の簒奪者」っぽい(笑)。なるほど、編集者が野尻先生からコメントを取りたいと思うのは、納得です。実際、このコメントが帯に書いてありました。

 

で、物語の初っぱなに主人公が記憶喪失になっているんで、基本的に何を書いてもネタバレになるんで何も書けないんですが(笑)、やっぱりこの本の着想の1つはパンデミックにあると思うんです。この本がどのぐらい前から執筆されていたのかわからないんですけど、たぶんCOVID-19のパンデミックの影響は受けている。今年、「ポストコロナのSF」のような短編集で素早く呼応した作品は出ましたし、今後、SF作家の皆さんがこの状況から着想を得た作品を次々に出すと思うんですけど、そのうちの最も早いものの1つと捉えるとちょっと震えます。この発想はやっぱりすごいなー。

というわけで、ネタバレなしで話せるのはここまで。以下はぜひ、本を読んでからお読み下さい。

 

 

 

 

いいかな?

「火星の人」にしろ「アルテミス」にしろ、この人の作風は基本的に現代の科学の想像力の域を出ないことにあると思うんです。火星基地にしろ、月コロニーにしろ実在しないし、今すぐには実現しないものをテーマにしているんだけど、そこにあるテクノロジーは基本的に現代の科学の範囲内だし、社会システムや文化も基本的には今と変わらない世界。にもかかわらず、「こんなことが!」というすごくSF的な事件や状況を描き出す。SFというと読み手にもかなりの「思考のジャンプ」を要求する作品は多いし、むしろ、それがSFを読む醍醐味だったりするわけですが、ウィアーの作品はそうではない。むしろ、読むと現代科学に詳しくなるようなスタイル。ここにSFファンとしては物足りないなと思う人もいるかもしれませんが、逆にあんまりこういうスタイルの本で傑作と呼ばれるものが少なかったように感じているんで、これはこれですごく魅力かなと思います。「三体」の特に3巻目の「死神永生」なんかはSFを読み慣れていないと「概念的に振り落とされる」人もいるでしょうが、ウィアーの作品はそういう意味では読みやすい。科学の知識がないと読めないということは、ないです。もちろん、タネ明かしが「科学的に考えるとこうなる」ってことがあるんで、知識があった方が楽しめるのかなとは思いますけど。

で、今回の作品は、ウィアーの作品にしてはかなりの大嘘が出てきます。ガンダムでいえば、ミノフスキー粒子みたいなものが出てくる。これが、アストロファージ。作中でこれは細菌だとされてますが(顕微鏡で見えないとやっかいだし)、この名前はバクテリオファージを思い起こさせます。やっぱ、ウイルスを思い起こさせますよね。コロナ禍だからって太陽系に感染するウイルスの話を思いつくってのはだいぶどうにかしている(笑)。これが災いの元であり、超科学の元になっている。このアストロファージは、あらゆるエネルギーを質量に変えて保存することの出来るオーパーツ。それがあったとして、それ以外は純粋に現代の科学の範囲内で話が進んでいきます。火星基地、月コロニーときて、今回は恒星間航行なのでだいぶ未来度が上がってます。でも、「火星の人」の「火星パート」「NASAパート」よろしく「宇宙船パート」「地球パート」が並行して進むうち、「地球パート」は完全に今の社会と変わりません。それでも、ずいぶん書くもののスケールが大きくなってきてますよね。ウィアーさんが「次はここまでやってやろう」と企んでる感じがひしひしと伝わってきます。

なーんて、今回もいつものウィアーだと思って読んでいたら、まさかの異星人ですよ。そーゆーのはやらないと思ってたんで、びっくり!それも臭わせるだけとかじゃなくて、がっつり出てきますよ、地球外知的生命体。普通に会話します。めっちゃ仲良くなります。冗談とか言い合います。それも、いつものウィアー流の中で。おどろいたー。

このクモ型異星人のロッキーがねー。愛らしいんだよねー。もう映画化が決まってるらしいんですが、大丈夫かな。これ、実写映画にしたらロッキーはだいぶ怖い見た目だと思うんですけど、ちゃんと愛らしくなるかなあ。心配です。

ラストも、まさかこっちとは・・・。最後の章番号が、エリディアン文字になってるのをみて思わず笑い声をあげてしまいました。たぶん、地球は偉いことになった上、それでも負けない人々が復興させていったんだと信じますけど、それは書かないというね。「三体」でがっつり侵略され醜い姿を見せる人間を書く劉慈欣と、人間のポジティブな面しか書きたくないウィアーの違い。ノンフィクションで書くとキツいことをSFやファンタジーで書くってのも大事なことだと思います。でも、私はウィアーの優しさにちょっとほだされちゃいます。

というわけで、今の段階ではこれを書くこともネタバレなんで声高には言われてませんが、以後、「ファーストコンタクトもの」の傑作として語り継がれること必至な本作。2021年のベストかなー。楽しかった!

 

 


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