« 三菱のやたらカッコイイ掃除機を買った | Main | 遊牧民から見た世界史/杉山 正明 »

けしからん「中抜き(ではなくピンハネ)」は何故おこるのか、あるいは、SIerとは何か

なんかCocoaの件でいろんな人が怒っているわけです。

まあ、おそらくなんか良くないことが起きていることは間違いないんでちゃんとして欲しいんですけど、これを批判している人の中で、「中抜きしてボロもうけしているSIerは酷い奴らだ」みたいな単細胞丸出しの発言をし、あまつさえそれを頭から信じ込む原核生物レベルの方が散見されるので、SIerってのは何をやっているのかを業界の経験20年の私がめっちゃ簡単に説明します。SIerがボロもうけでないことを示します・・・というか、ボロもうけなら別に資産も設備も大して必要ない仕事なんだからあっという間に過当競争になって値引き合戦になるに決まっているんで、説明するまでもなく、そんなわけないんですけどね。

ちなみに、「中抜き」は商流の中間を省くことなんでSIerがやられると困るやつのことです。勝手に言葉の意味を変えないで。面倒くさいから。

さて、素晴らしいお客様から1億円のシステム開発の発注があったとしましょう。SIerはいただいた1億円から、まず利益分を取り除きます。会社にはプロジェクトを遂行するミッションを持つ人以外にお金を使う人がたくさんいますし、その人達のお給料も払わなければならないし、土地建物も維持しなければならないのです。これがだいたい30%ぐらいだとしましょう。残り7000万円。

さらに、積み立てをします。プロジェクトはいつもいつも上手く行くわけではありません。というか、この業界、恐ろしいことに

滅多に上手く行きません

1日もプロジェクト期間を延長することなく、1円も追加コストを払うことのないプロジェクトの方が珍しいのです。まあ、そのぐらいシステム開発というのは不確実性が高いので、各プロジェクトは失敗したときのための社内の積立金を払います。何かあったらみんなが払ってるこの積立金から補填します。これがだいたい10%ぐらいは必要です。残り6000万円。

さらに、プロジェクトには開発成果物をまったく作らない人がたくさんいます。いわゆる管理系と呼ばれる人達です。どのぐらいの人数必要かはプロジェクトによりけりですが、例えばスクラムチームなら開発者7名につきPOとSMの2人がつくわけですから、だいたい全体の2割ぐらいの人が管理系として必要になります。開発者と管理系の人達のコストが同じぐらいだとすると開発者に支払われるのは残りの80%ですから、4800万円ということになります。

はい、1億円貰って、開発者に払えるのは4800万円です。減っちゃったね。

しかし、管理系の人と開発者のコストが同じってことはないですね。だいたい、管理系の人の仕事の方が難しいし大変なので管理系の人が月200万、開発の人が月100万なんてのはザラでしょう。デカいプロジェクトのPMともなればもっと貰うでしょうし、開発者の中でもキーとなるスーパーハカーさんにはもっと払うでしょうが、ざっと平均したら2:1ぐらいってのは、現実的か、もっと差があるかなって感じでしょう。この辺は採用している技術の難しさとかに依るんですが、そもそもSIerが頑張るような大きなプロジェクトで採用している技術が難しいと人が集まらないので、開発者のコストが高いってのは珍しい。技術力より人数の方が大事だからSIerさんが呼ばれるのです。さて、2:1だとすると人数差を加えると管理系と開発者のコスト割合としては1:2ぐらいになります。ということは開発者に払えるのは4000万になります。

というわけで、だいたい1億円貰っても開発者に払えるのは4000万円。この予算で必要な開発者を下請けさんにあたって集めてくるわけです。ということは、1億円で作れるのは月100万円ぐらいの「そこそこ」の開発者5, 6人が半年で作れるレベルのものってことです。これにPMとPMサポートの人の2人専任で付けたら人件費6000万円は終了なので、大したものは作れません。

そして、ちょっと恐ろしいことを言っておくと、開発者の生産性というのは、使うツールやその人のスキルで簡単に数倍になります。そして、管理系コストは開発者の数が減れば減ります。なので、「そんなもん、1人で3ヶ月あれば作れるよ」という人がいれば、その人に3倍の300万円はらっても、PMもあわせて二人で500万円。3ヶ月で1500万円。あら、1/4で出来ちゃったということはあり得ます。だからといって、「オレならそんなの3ヶ月で出来るから1億は高い」という批判は意味が無いよというのもわかりますね。会社として1億円の仕事を何十と受けて回していくというのはそういうことではないんです。

さて、1億円のプロジェクトならこれでおしまいです。こじんまりとしたチームで半年間頑張って、ちょっとしたシステムの構築や改修をこなしてにっこり笑って解散であります。

問題は、これが100億円のプロジェクトになった場合です。開発コストは1億と同じ、受注金額の60%の60億円としましょう。1億円プロジェクトではそれで8人ぐらいが実働してたわけですが、100倍です。期間10倍、人数10倍とすると、80人の5年プロジェクトになります。

「はーい、お仕事取れたから集まって−」と声をかけて80人集められるか。これは手分けをして集めないとムリでしょう。というわけで、ここから多重下請けが始まります。作るものを10億円ずつの6つの部分に分けます。すると、それぞれがプロジェクトになるわけです。実は、この10億円プロジェクトは1億円プロジェクトの期間を10倍にしただけなので、断面を見ると開発者の総数は1億円プロジェクトの6倍です。100億円出したのに、開発者はせいぜい30人ぐらいです。でっかいSIerにいれば、この程度は「大規模・・・とまではいえないかな」程度のプロジェクトです。あれ?80人じゃなかったっけ・・・?

というのがSIerのやっている商売です。ここまで何もおかしいところはないですよね。でも、結論としては「1億貰って作れるのは、すげえプログラマなら1人で3ヶ月もあればできるレベル」「100億貰って作れるのは、1クラス分の人がせこせこ5年かかって作れる程度のもの」になっちゃうわけです。

で、さらに面倒くさいことを言えば、この期間でやっていることのざっくり1/3は「何を作るのかの相談」で1/3は「ちゃんと出来ていることの証明」です。ホントにゴリゴリと手を動かしているのは1/3ぐらいなので、「1億かかったの?これとそっくり同じものを1ヶ月で作れるよ」というリアクションをされることもあり得るわけですが、何度もいますが、そういうことではないんです。

100億円プロジェクトの開発者の総工数が30×12×5=1800人月で単価100万円として約20億円。これを

80%はピンハネ

って考えますかってことです。途中経過が正しくても、結果が間抜けになるということはあるんです。

Cocoaのコストプランがどうなってるのかは全然わからないですけど、外野から見ただけでは意外とわからんもんですよというのがメッセージです。

|

« 三菱のやたらカッコイイ掃除機を買った | Main | 遊牧民から見た世界史/杉山 正明 »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



« 三菱のやたらカッコイイ掃除機を買った | Main | 遊牧民から見た世界史/杉山 正明 »