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キリン解剖記/郡司芽久

冬ごもり2冊目は、世界で一番キリンを解剖している学者こと、郡司芽久さんの研究の日々。いたって学術的な真面目な本ですけど、キリンが大好きな女の子が学位論文を取ってキリン博士になるまでの話なんで、なんか凄い業績とか、人類の英知に関わる何かとか、そういうものはありません。

そういうものは無いわけですけど、おそらく日本の学者の卵が学位を取るまでの研究の日々って、どの人の話も同じぐらい面白いと思うんです。郡司さんはなんせ文章が上手いし(つか、日本の博物学系の学者はみんな話が面白いよな)、ネタが日本人なら誰でも知っているキリンなんで本に出来るぐらい一般性があるわけですが、私が大学院にいたときの経験からして、博士課程までいって学位を取ろうというのは人生におけるかなり致命的な決断であり、そんなことになってしまう人は、人生のどこかで一般的な幸せを棒に振ってもいいぞと思えるぐらいの面白いものに出会ってしまっているわけだから、そりゃ面白いに決まってるんです。でもしかでDr取る奴はいないし、取れないしね。

というわけで、郡司さんの話も面白い。そもそも、キリン博士ってなりたいと思ってなれるものじゃありません。というか、日本にキリン博士は1人いれば十分で、別にいなくてもいいわけだから、なりかたが誰もわからないわけです(笑)。私も、日本にいるキリン博士はどういう人かイマイチわからない。それは動物園の飼育員とか、獣医ではなくキリンの研究者とは何をしているのか。

郡司さんも東大に入ってすぐに、先生方に聞いてみる。「キリンの研究者にはどうやったらなれますか?」。でも、だれも知らない。しかし、ある先生との出会いが彼女を変えます。それは解剖学の先生でした。「キリン?キリンの遺体は結構手に入るから、解剖のチャンスは多いよ。機会があったら連絡するね」。実は、日本には100頭以上のキリンがいるので、ちょいちょいお亡くなりになるんですな。

そして、彼女は大学1年生にして、「日本の動物園でキリンが死んだら声がかかる人」というポジションへの足がかりを得て、早くも最初の解剖をしてしまうのでした。なるほど、キリンの研究者になるとはそういうことか・・・。もちろん、行動学や遺伝進化学からキリンをテーマにすることも出来るでしょうが、キリンメインの解剖学者は強いポジションですね。というわけで、どうしたらいいのか誰もわからないテーマの世界では「あたし、キリンがやりたい」とあっちこっちでアピールしとくというのは超重要って事ですね。

という、キリン(だけ解剖するわけじゃないけども)の死体だらけの研究生活は、なんだか微笑ましい。D論書くというのは、まあもの凄く辛いことですし、そもそも頑張ったからといって成果が出るものでもないし、キリンが死ななければ成果は出ないし、死体解剖は破壊検査なので常に緊張の連続だし。でも、そうやって辛い研究の話も、所詮は好きでやっている話。楽しくアピールして、我々は楽しく聞いて、税金払って、世界の知の総体の拡大に貢献して、それでよいってことです。というわけで、この本はすべからく読むべし。そして、学者たるもの、こういう文書はちゃんと書いて世に問うべしと、そう思いますね。

 

 

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