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稀勢の里と照ノ富士について思うこと

九州場所、盛り上がりましたね。急成長の貴景勝と、なんとしても初優勝が欲しい高安の終盤の戦いは見物でした。上位力士が負けるとみんなぶーぶー文句を言うんですが、下の力士が頑張ったらそれはそれで盛り上がるんでいいじゃないかと思うんですけどね。

さて、いろいろ考えてしまうのが横綱稀勢の里と、元大関照ノ富士のこと。どちらも今年はボロボロで、稀勢の里は先場所はなんとか10勝して体調を取り戻したかと思いきや、今場所は初日からひとつも勝てないまま、5日目に休場。一方の照ノ富士は、ことしの初場所では幕内力士だったにもかかわらず、十両で負け越し、幕下で全敗。そのまま3場所休場して三段目まで落ちてます。

見た目には照ノ富士のほうがヒドいです。なんせ幕内優勝までした元大関が幕下で全敗するというのはとんでもない不名誉です。そうまでして現役を続けた力士は過去いません。ただ、照ノ富士は若いですし、治せば力士としての競技人生は続きます。横綱に昇進した稀勢の里は一度負け越せば引退しかありません。出直すと言うことができません。スポーツ選手が怪我や力の衰え、モチベーションの低下により一度は引退するものの撤回して復帰し、全盛期とまではいかないもののそれなりの活躍をしてファンを喜ばせるということは往々にしてあることですが、相撲はそれを許さない特殊な競技ですからね。

ただ、今の二人の酷い状況について、いろいろ批判されるのはしょうが無いとも感じるんですが、その際に是非とも思い出して欲しいのは、2017年の三月場所での優勝決定戦でのことなんです。

左胸から腕にかけて、誰が観てもまともに競技できるわけがないとわかる大きな痣を作っているにもかかわらず横綱としての初優勝のために強行出場した稀勢の里。古傷を痛め、それをかばいながら優勝戦線をリードし、千秋楽にボロボロの稀勢の里と2回戦って1つ勝てば優勝が決まる照ノ富士。私はこの日の本割と決定戦の2番に勝った稀勢の里、負けた照ノ富士は、どちらも相撲人生を賭けてしまったんじゃないか。そう感じました。

横綱は再起に時間のかかる怪我をしてしまってはいけません。過去には横綱旭富士が治癒に時間のかかる病のため9場所という短命で引退をしています。横綱には試合をしながら調子を整えていくことができません。出たらすべて勝つことが要求される。勝てないのならば、休むか引退です。その宿命を背負った稀勢の里はこの勝負をするべきではありませんでした。休場しても誰も批判しなかったでしょう。今から考えると確実にそうなんですが、横綱としての初優勝がどうしても欲しかった。もし、ここで相撲人生が終わってしまっても、それでも欲しい。そう思ってしまうことを誰が責められるでしょうか。甲子園で、ここで故障しては一生の野球人生を棒に振るかもしれないと思いながら投げてしまう高校球児が美しく、そして、それはプロでは許されないことでもある。しかし、プロでも「死んでもいい」と思ってしまうことがある。それを批判することができるでしょうか。

そして、一方の照ノ富士は怪我をしている、負けるはずのない相手に2番続けて負けました。それにより、ほとんど手に入っていた賜杯を失いました。その原因は、やはり照ノ富士の優しさにあるのだと思います。死んでも優勝が欲しいという稀勢の里の気迫を前に、照ノ富士は全力を出すことができなかった。そのことに対して批判もされたでしょうが、やはり自分自身が自分の強さを信じられなくなってしまったのではないでしょうか。もちろん怪我のこともあったんでしょうが、とにかく何かしらの精神的なショックを受けた。力士にとって、それは体の怪我と同じぐらいのダメージでしょう。あの2番の後、稀勢の里の将来も心配になりましたが、同じぐらいに照ノ富士も心配になりました。観ている側が「この後、照ノ富士の心は大丈夫だろうか」と考える。それぐらいにすさまじい取組だったのです。この後、照ノ富士の相撲からは気迫が失われ、ついには急性の糖尿病を発症して体が動かない状態になります。心の失調はそのまま体に影響するものです。照ノ富士もまた、相撲人生がかかった試合で、取り返しのつかない痛手を負ったのです。

稀勢の里、照ノ富士という魅力ある力士の力強い相撲が今現在観られないということは、相撲ファンとして残念なことです。しかし、同時に相撲ファンはあの稀勢の里が2回目の優勝を果たした場所で、二人の優れた力士の相撲人生がかかったすさまじい取組を観たんだということを忘れてはいけません。あの取組は本来はあってはならないものでした。二人の若者の幸せな競技人生のためには、存在してはいけなかった。しかし、それは行われ、我々は幸福なことにそれを目の当たりにし、そして彼らは不幸なことに今、もがき苦しんでいる。

そういうことを理解せずに2人の現状を批判することは、それは相撲ファンとして恥ずかしいことだと、私はそう思うのです。

いやー、どうしたらいいんだろう、2人とも。切ないなあ。そして、今回、優勝を取り逃した高安もショック受けてるでしょうね。来場所以降に影響しないといいけど。と、相撲ファンは早くも初場所に思いを馳せるのです。

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