トヨタのル・マン優勝の意義
ついにトヨタがル・マンの優勝を果たしました。
それも2台出走して1Lap差の1-2での勝利。 3位のレベリオンには30分以上の差をつけていました。 ですから少々のトラブルなら問題ない状態だったものの、 ほぼ一度もガレージへ車を入れることなく走りきりました。 ペナルティはなんかいろいろとありましたけどね。
さて、今回はライバルがいなかったトヨタ。 あんまりモータースポーツに親しんでない方だと 「なんだ、勝って当たり前じゃないか」と言うかもしれません。 しかし、ル・マンをよく知る人なら、全然当たり前じゃないことは 身にしみてわかっているはず。
去年のル・マンの後、私はこんなことをつぶやきました。
予戦では圧倒したトヨタとポルシェ計5台は次々にトラブルで後退。GTマシンと絡んで遅れた1台を除く2台のアウディが1-2。修理が速かったポルシェ2号車が3位・・・というお馴染みのル・マンからアウディを抜いたのが今年のル・マンだと理解するとしっくりくる #jspoms #WECjp
— 丹原 匡彦_Tambourine (@tmbrms) 2017年6月18日
それを踏まえて、今年のリベリオンがもし去年走っていたら・・・。 トラブルに泣いたポルシェやトヨタを押さえて優勝していたかもです。 そのぐらいの力はリベリオンにはあったのです。 (むしろ、新車で2戦目の状態でトヨタから10週程度の遅れでゴールさせた レベリオンはすごい。他のLMP1チームはぐだぐだなところも多かったですからね)
速度差のあるマシンが争うル・マンでは 常にクラッシュの危険はありますし、ちょっとしたトラブルでも ガレージに入れれば1時間ぐらいのロスは容易に起こりうる。 ノーミスで24時間走ることは、トヨタにとってもまったく簡単なことではありません。 もちろん、ライバルがいない状態ではギリギリの攻めたマシンは 不要です。安全マージンは大きめにしているでしょう。 そうだとしても、「勝って当たり前」のプレッシャーは大きかったはず。
特に、今回はモナコ+インディ+ル・マンのトリプルクラウンを目論む、 世界最高のドライバー、フェルナンド・アロンソが乗っています。 アロンソの夢をしょうもないマシントラブルで潰してしまったら・・・。 全世界のファンはF1で不遇を託っているアロンソの夢を応援したいと思っていますから、 それも大きなプレッシャーだったことでしょう。
しかし、それ以上に今年のル・マンには「トヨタに勝って欲しい」という 大きな空気があったようです。 勝って当たり前でいいじゃないか。今年はトヨタに獲らせてやろう。 そういう感じです。それがレギュレーションにも現れているし、 国際放送の中継からもそういうメッセージを感じました。
2016年の「No Power!!」を知っている。だから、トヨタが勝つにふさわしい マシンを作ることができて、勝つにふさわしいレースができることを知っている。 WECのシリーズチャンピオンも獲っている。勝てない理由はない。 フォルクスワーゲンを襲った燃費スキャンダルのことを思えば、 アウディやポルシェが撤退してしまったことはしょうがないのかもしれない。 ライバルがいないル・マンは価値がないとして、トヨタが撤退してしまっても 誰も攻めることはできない。 「ポルシェに勝った」「アウディに勝った」。そう言えないル・マンに 失望し、多額の予算が必要な活動をやめてしまっても、文句は言えない。
しかし、トヨタは残りました。たとえ、ライバルがいなくてもル・マンに勝ちたいと 表明することは、ル・マンというレースそれ自体に価値をおいているということです。ル・マンの伝統や権威を尊敬しているということです。そりゃ、ル・マンを愛する人たちはうれしいでしょうね。なので、今年ぐらいはトヨタに勝って欲しい。ル・マンウィナーの序列にトヨタを加えてあげたい。ま、来年以降のことは知らんけどな、と思っていても無理はないでしょう。
というわけで、みんながハラハラしながら見つめる中、勝って当然のレースをちゃんと勝った。そして、ポルシェがいなくなった後のル・マンをちゃんと支えて、最初のうちはまったく関わらせてもらえなかった将来のレギュレーションに関する議論にちゃんと加わり、世界有数の自動車メーカーであり、レースを愛する企業であるとちゃんと世界に認めてもらったというのは、日本にとって、ものすごく大きいことです。コンペティションに打ち勝ったという意味での価値は確かに落ちちゃったかもしれないけども、この1勝の持つ価値はもっと大きいものだということを、モータースポーツに詳しくない人にも、知ってもらいたいと思います。
・・・とはいえ、2000年代初頭のアウディみたいにライバル不在でずーっと連勝になっちゃうのも望んでることではないでしょうし、とはいえ、今の恐ろしく素晴らしいエネルギー効率を誇るハイブリッド技術を止めちゃってただの内燃機関のレースにしてしまうことはちょっと残念すぎるし、でもハイブリッドで戦いを挑んできそうなライバルもいないし・・・というわけでなかなか頭が痛いところではありますね。ハイパーカーという新しいレギュレーションの検討は進んでいるようですが、テクノロジーとレーシングの両面で興味深いレギュレーションができることを祈ってます。
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