横浜駅SF/柞刈湯葉
日本SF大賞の候補作が発表になりましたけど、どれも読んでませんでした。これはイカン。
というわけで、今年話題になったといえば、これかなってことで「横浜駅SF」を買ってきました。読みました。これは面白い。
「日本で初めての鉄道駅として生まれて以来、ずーっと工事をしている横浜駅は、このままずっと新陳代謝として拡張・成長し、日本を飲み込むのではないか」という思いつきから、「日本中が横浜駅に飲み込まれた世界」を妄想。「横浜駅ディストピア」世界観をしゃくしゃくと組み上げてしまうSF的教養の高さはお見事で、お話自体も「そんな世界での日常系」にはしないで、ちゃんとこの世界の終焉を描こうとするところもすっごく好印象。やー、ご立派です。何だろうね、SFファンがSFファンを喜ばすために「こういうのが書きたい」って思うタイプの作品です。
もっとも、それが故にかなり内輪ウケな雰囲気もあって、各章のタイトルが有名SF作品のもじりだったりするところに象徴されますけど、SFファンじゃないと面白さは2割減ってところもあるだろうし、「SUICA生体認証システムを体に埋め込んでない人はエキナカから自動改札によって追い出される。ただし、6歳未満は対象外」とか「デフレが進行した結果、通貨単位はミリエンに移行。SUICA生体認証システムを体に入れるには、50万ミリエンという大金が必要(つまり、未だにSUICAのデポジットは500円なのねw)」なんてところのネタの面白がり方がすごくSFファンっぽいので、普通の人には「なんじゃこりゃ」ってなる可能性もなくはないかな。
ともかく、戦争とそれによる技術の暴走によりロストテクノロジーしたディストピアって面白い設定ですね。読んでいるとどんどんこの世界に何があったのかおぼろげにわかってくる辺り、貴志祐介さんの「新世界より」を読んでいるような楽しさがありました。うん、「新世界より」からダークを抜いて、バカを足したような感じです(笑)。
SFファンの与太話が最高に盛り上がったような世界観で、きっちりお話を簡潔させた手腕が素晴らしいし、あとがきを読むだけでこの著者のセンスの良さは間違いないわけで、こりゃ、楽しみな人が現れたものですな。おすすめです。
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