マクラーレン・ホンダに未来はあるか
今週、いよいよ2017年のF1シーズンが始まります。
今年はマシンの大幅なレギュレーション変更がありました。マシンの空力に大きく変更を与える変更としては、ルールの隙間を突いたダブルディフューザーでブラウンGPが見事チャンピオンを取った2009年以来の大きな変更です。あのときのような大番狂わせがあるかもしれないと期待をされていましたが、テストを見る限りはそれはなさそうです。というよりは、未だ勢力図は混沌としているというの状態です。
そんな混沌状態から悪い意味で抜け出してしまっているのが、我らがマクラーレン・ホンダ。2年前を彷彿とさせる(とは言ってもだいぶあのときよりはマシだと思いますけど)トラブル続きで、テストの走破距離は完全に低迷。信頼性がないのも痛いですが、パフォーマンスもからっきしということで早くも両者は「別れる/別れない」なんて騒がれてしまっています。
F1だけでなく、日本のSuperFormulaとSuperGT、はてはWTCCでもインディカーでもライバルにすっかりやられちゃっているホンダは本当に残念な感じです。ただまあ、ホンダの場合、何が何でも勝ちたいのかよくわからないところもあります。いや、やっている人たちが勝ちたいと思っていることは間違いないんですけど、それが「何が何でも」なのかというと疑問です。例えば、メルセデスのエンジン部門から人を引き抜くとか、レギュレーションのギリギリを突いた隠し球をぶち込んでくるとか、そういう感じはしません。「面白い問題があるから、解いてみる」という感じに近いんじゃないかなと。
確かに今のエンジンのレギュレーションは、ターボと熱回生、リーンバーン、モーター回生と電池、それらを制御するソフトウェアなどなど次世代に向けて自動車メーカーが本気で考えなければならないテーマの宝庫です。これに正面から取り組むにはF1は格好のテーマでしょう。だからこそ、復帰を決めたわけですし。
それにホンダも今やF1で勝てばドンドコ車が売れるなんて企業ではありません。逆に今のようなていたらくを晒していたとしても、販売にたいした影響もないのかもしれません。ルノー、ダイムラー、フィアットに比べてしまえばそれほどお金があるようにも思えませんし、実際のところ、こんなもんかもしれません。
というわけで、ホンダは非常に危機的だと言われ、まあ、それはそうかなという気もしますが、冷静に考えてみるとホンダにはあんまり失うモノは無いワケです。別に勝っても負けても使うお金に変わりがあるわけでもなし、業績に影響するわけでもなし。であれば、出せるだけのお金で(といっても年間100億円ぐらいは余裕で使っているんでしょうけど)、出せるだけの成果を出せばいい。今回の参戦は長期であると明言してしまっていますから、短期的な勝利を目指して大金をつぎ込んでもいないでしょうし、(できるかといえば、できないでしょうけど)ボロ勝ちしてもだめなわけですし。
今や評判はダダ下りですが、それが気にならないんならあんまり実のところは困ってないかもしれないホンダとは裏腹に、いよいよ困っているのがマクラーレンです。一部の報道では、マクラーレンがメルセデスに乗り換えようとしているなんて報道されていますが、そもそもなんでマクラーレンがメルセデスから海のものとも山のものともつかぬホンダエンジンにスイッチしたのかという理由を考えれば、それは完全に後退を意味する選択肢です。
マクラーレンがチャンピオン奪還を目標に置くのであれば、メルセデスエンジンを積んでは無理です。メルセデスワークスチームが存在する限り。それがマクラーレンがメルセデスと決別した理由です。カスタマーエンジンでワークスを倒すことは出来ない。なぜならば、いざとなればメルセデスはカスタマーエンジンとワークスエンジンの間に差を付けることが出来てしまうからです。マクラーレン・メルセデスとフェラーリあるいはレッドブルがチャンピオンを争っているならばいざ知らず、メルセデスワークスチームとチャンピオンを争っているならば、メルセデスは躊躇なくマクラーレンのエンジンパワーを絞るでしょう。それはそういうものです。
メルセデスワークスがチャンピオンを争える車である限り、メルセデスエンジンを積んでいてはチャンピオンにはなれない。フェラーリエンジンでも同じこと。ルノーワークスはまだまだチャンピオンを争える状態ではないのでルノーエンジンを積んでチャンピオンを目指すことは出来るかもしれませんが、今のマクラーレンがレッドブルよりも良い車を作れるとは思えません。
というわけで、マクラーレンとしてはどうしても「第4のエンジン」が必要で、ホンダはぴったりの選択肢だったというわけ。だから、今からホンダと手を切るということは、さらに別のエンジンを見つけてくるか、「ウィリアムズとコンストラクター選手権4位を争うぞ」に方針転換するかということを意味しています。その選択肢は本当にあり得るのでしょうか。いや、2013年のマクラーレンにとっては、それは「このままいくとなってしまいそうな未来」だったので、それを拒否してホンダと組んだんですが、その選択の結果である現状がそれより悪いわけですから、それを取り返しに行こうとするのはあり得ますけども。
そして、車を何百万台と売ったお金で未来への技術投資をしているホンダと違って、マクラーレンチームはスポンサーからもらったお金で運営しています。ところが、マクラーレンときたら、ここのところのチーム運営はガタガタといっても良い状態です。
メルセデスがブラウンGPを手に入れてワークスチームとして参戦し始めたのが2010年から。マクラーレンはワークスのポジションを失ってからただひたすらに凋落してきました。かつて、ウィリアムズがBMWのワークスエンジンを失ったのと同じ状態です。ウィリアムズの前例を見るまでもなく、ワークスエンジンなしでトップチームのポジションを維持することは大変に難しい。成績の低迷はある意味仕方がないことではあります。
ところが、マクラーレンは自分たちがトップチームであることに頑なにこだわりました。メルセデスワークスを失ったにもかかわらずマシンのカラーリングはシルバーを維持し、なんとホンダエンジンに変わってからもしばらくはそれを維持し続けました。まるで「シルバーは自分たちのカラーだ」と言わんばかりです。そこに、マルボロのスポンサーを失った後、Westのスポンサーカラーをあえてシルバーとして身に纏ったしたたかなマクラーレンの姿はありませんでした。
メルセデスワークスを失ってからというもの、サンタンデールを失った後のメインスポンサーを未だに得られていません。その間にもジョニーウォーカーを失い、タグホイヤーを失い、モービルを失って来ました。少々の間ならメインスポンサーなしでも平気だよ、マクラーレンにはそれに相応しいビッグなメインスポンサーが必要なんだと大口を叩いていましたが、おそらくは大きな割合でホンダに支えられているのだろうというのがもっぱらの噂です。どこのチームも苦労はしていますし、ウィリアムズが纏っているマルティニもさほどの大きな額を持ち込んでいないらしいですが、数年にわたってメインスポンサーが不在というのは酷い有様です。まさか、名乗り出るスポンサーが全くいなかったわけではないと思いますが、何か内部の運営が上手く行っていないのでしょう。ロン・デニスがスポンサー探しを期待してザク・ブラウンを連れてきたことが、何よりの証拠です。
その間、アロンソとバトンのヘルメットのバイザー上のリングは真っ白、レーシングスーツの背中も真っ白。マシンは真っ黒。チームユニフォームも真っ黒。マクラーレン・ホンダを応援する身としては、マシンが速くないならせめて格好良くあって欲しい。チームグッズなどを買って応援したいと思っていても、全く食指の動かないものばかりです。チームカラーとしてマクラーレンと言えばオレンジが知られているんだから、せめてオレンジのカラーリングにすれば少しは格好いいのに。
・・・と思いきや、今年のカラーリングはさらにがっかり。なんで黒を諦められないんですか。黒とオレンジの間に白のラインが入る今年のカラーリングはとてもかっこわるい。オレンジに白抜きのロゴはスポンサーロゴも目立たなく、魅力に欠けます。あれならせめてホンダのロゴの中だけでも赤に塗れば差し色として見た目が派手になると思うのですが・・・。マクラーレンにはコマーシャル部門にデザイナーはいないんでしょうか。
スポンサーがつかない、イメージ戦略が立てられない・・・というチーム運営が欠如した状態で、良いマシンが作れるはずもありません。ホンダが復帰し、マクラーレンと組むと決めたときはマーティン・ウィットマーシュがマクラーレンをリードしていて、「ウィットマーシュに任せておいて、ホンダはエンジンのことだけ考えいれば安心」と感じましたが、そのウィットマーシュがいなくなり、ロン・デニスがいなくなり、ヨースト・カピートは何もしないままいなくなり・・・と人事が安定しないこと甚だしく、人材の流出も止まらないようです。2013年にタッグを組むと決めたときとはチームはすっかり変わってしまったといってもいいでしょう。そんなマクラーレンを事実上引っ張っているのが、エリック・ブーリエですが・・・この人がルノー/ロータスに何をもたらしたかを考えれば、私にはとても期待が持てません。
とりあえず、マクラーレンからリーダーシップが失われた状態にある以上、ホンダから見ればマクラーレンと組んでいるメリットはほとんどないように思います。このまま強引に乗っ取ってしまうのならばそれも良いですが、さすがにマクラーレンはその対象としてはビッグネームすぎるでしょう。ここはペーター・ザウバーの手を離れたザウバーチームあたりをざくっと買い取って、誰か良い外人に運営を任せて(ウィットマーシュ呼び戻せば良いw)、のびのびとF1に長期スパンで取り組んでいけば良いんじゃないかと思いますね。
というわけで、「マクラーレン・ホンダに未来はあるか」というタイトルを付けましたが、今のままでは「ない」が結論となります。そして、それはホンダにも大いに原因はありますが、マクラーレンというチームの寿命が尽きたということでもあるんじゃないでしょうか。正直言って、ロン・デニスがいなくなった後のマクラーレンを継ぐ可能性があったのはウィットマーシュだけだったんでしょう。ロン・デニスがウィットマーシュと仲違いした瞬間に、この未来は決まっていたのかもしれません。
ホンダ、早く手を切った方が良いよ。
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