フォーミュラEには見所がある
去年の秋に開幕したフォーミュラEの14/15シーズンが、先週のロンドン2連戦を持って閉幕。初代チャンピオンの座は、セバスチャン・ブエミの猛追を退けてネルソン・ピケJrが手に入れました。
さて、20年来のF1ファンから見た、フォーミュラEの総括をしたいと思います。
主な観点は「レースのおもしろさとは何か」です。
今、世界的にはF1の人気が下がっています。主催者側もいろいろ気にしているらしく、どうにかしようといろいろ考えているらしいのですが、その一方で、この数年で行われた変更は
- クラッシュ時の危険を減らすべくフロントノーズを細く低く制限した結果、マシンのさきっぽにルールを守るだけのための
勃起突起が出て、マシンが過去20年間で最もかっこ悪くなった。 - 「ドライバーがアホにみえるから」という理由で、(せっかくファンサービスとして無線を公開してるのに)ピットからドライバーに無線で教えて良い情報を制限した
- エンジンメーカーが技術競争しに参戦したくなるような先進的な技術が盛り込まれたエンジン規則を導入した(結果、ホンダはそれに意味を見いだして参戦した)のに、年間19戦で4機しか使えず、技術開発しても新しいエンジンは使えない。
- 先進的エンジンはそれ故に壊れるが(それは仕方ない)、壊れて5機目を入れると20台しか走っていないのに予選順位が25位下がる。
- 「ドライバー視点の車載カメラから見たときに、誰が乗っているかファンがわからないから」という理由で、カーナンバーを固定制にして、ヘルメットの頭頂部に書き、ヘルメットデザインを変更してはいけないルールにした(字幕だせば済むんじゃ・・・?)
- エコが大事なので、ハイブリッドカーにしたら音が静かになったので、排気に拡声器をつけようとした(が、あまり効果がなかったので止めた)
やれやれですね。
その一方で、初めての電気自動車でのフォーミュラレースとして開催されたフォーミュラEには、開幕前に多数の疑問が投げかけられてました。
- F1とは話にならないぐらい遅い(F1の下のカテゴリーのGP2やスーパーフォーミュラはおろか、その下の育成カテゴリーであるF3よりさらに遅い)
- レースファンが大好きな、エンジン音がしない
- 電池が30分しか持たない(ので、途中で車を乗り換える)
はたしてこれで世界選手権を名乗るレベルのレースが出来るのか。
しかし、レーシングカーのスピードや技術の高さとレースのおもしろさというのは、本来まったく関係ありません。例えば、野球というゲームを観戦することを考えたとき、メジャーリーグと日本のプロ野球、さらに高校野球や近所の土手の上から見る草野球の間に、観戦者からの魅力という点では大きな差はありません。へたっぴどうしの野球も、それはそれで面白い。
ところが、例えば高校野球にイチローが入ったとしたらどうでしょう。そりゃ、イチローがいるチームが勝つに決まっています。これはつまらない。リーグの上下が必要な理由の1つはこれです。
この観点で言えば、フォーミュラE初年度のドライバーラインナップはかなりのものでした。というか、初年度参戦ドライバー35人(スポット含む)の中で、F1参戦経験者は半分の17人。その他も、インディーカー、スーパーフォーミュラ、GP2などで活躍しているドライバーが大半で私が名前を聞いたことがないドライバーはほんの数人でした。
また、プロ野球では高校野球で許されている金属バットが使えません。プロ野球選手が金属バットを使って試合をしたら、ホームランが簡単になりすぎます。同じように、F1ドライバーがVitzでレースをしても、ミスをする要素がないので面白くないでしょう。
こちらの観点では、空力のほとんど効かない車で、タイヤもスリックではなく溝ありでグリップは最低レベル。なのに、モーターですからパワーはなくてもトルクはめちゃめちゃあって乗りづらい車。開幕当初はみんなばんばんクラッシュしていました。ところが、さすがトップレベルのドライバー達、あっという間にモノにしました。例えば、最終戦にスポットで山本左近が出場しましたが、フリー走行も決勝もクラッシュしてしまいました。「なんだよー、がっかりー」と思いましたが、思い返せば序盤はみんなあんな感じだったわけで、元F1ドライバーといえどぱっと乗って乗りこなせるマシンではなく、また、さすがF1ドライバー達は、シーズンを通じて乗りこなしていきます。そういう意味で、ちょうどいい車だったのではないでしょうか。
そんなわけで、すくなくともTVで見ている限りはなかなか面白いレースが見られたように思います。音の問題は、TVだとさほど関係ないですし、大きな音がしないことで市街地開催ができるのであれば、それは十分に見合ったトレードオフでしょう。
まあ、今後、競技形態もマシンもどんどん変わっていくのでしょうから、今年のフォーミュラEが面白かったからといってこの先の保証はないんですが、来年も楽しみにしたいです。
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