火星の人/アンディ・ウィアー
あまり本が読めなかった2014年ですけど、一番面白かったのはコレ。
NASAの有人火星探査がすでに行われている今よりほんのちょっと未来で、主人公は第3次計画のメンバー。しかし、この「アレス3」ミッションは火星での6日目に想定以上の猛烈な嵐のために中止になります。予定を大幅に繰り上げての帰還命令に従って打ち上げロケットまで向かう途中、マーク・ワトニーは嵐で飛ばされてきたアンテナが体に突き刺さり、飛ばされていきます。宇宙服の生命反応は途絶え、他のクルーは辛くも火星を脱出、地球への長い旅に入ります。
ところが、どっこい生きてたよワトニー。丈夫な人。しかし状況は絶望的です。体には穴が空いてるし、食料はミッションに必要な分があって数ヶ月は問題ないもののアレス4が到着する数年先までは望むべくもない。体に突き刺さったぐらいですから、アンテナは吹っ飛ばされて地球と連絡する方法はない。そもそも、みんな自分が生きているとは思ってもみないだろう。わかったところで、救助には数年かかるのでそれまでには餓死するしかない。
物語は、そんな悲惨なワトニーのミッションログの形で綴られます。彼がどう絶望して、自らの死と対面するのか。そんな悲痛で心に刺さる物語が・・・展開しません。
ワトニーは宇宙飛行士で、宇宙飛行士というのは絶望からもっとも遠い人種です。「うん、まあ、絶望的だけど、死ぬのは今日じゃないし。食料はまだ300日は食べられるほどたっぷりあるし、EVAスーツも予備が沢山ある。ローバーも動く。問題は1つずつ解決していこうか」とさっくりと立ち直ります。ユーモアに溢れたミッションログを読んでいると、ゲラゲラ笑ってしまいます。とにかくめげない。当然、何度も死ぬような目に遭うし、そのたびに「もうダメだー」と言うんだけど、次のログでは「事態は見た目ほどひどくはなさそうだ」・・・って立ち直り早っ!。宇宙飛行士ってすげえな。
そして、何とかワトニーを救おうとする人々、特に飛行士以外のNASAの面々も懸命に活躍します。この作者は完全に宇宙オタクで、架空のミッションを妄想して楽しむのが大好物。ミッションの構成やNASAの各セクションについてもよく知っています。さて、ワトニー救出作戦はいったいどんなプランで行われるのか。そもそも、アレスミッションの全貌からして興味深いんですが、この絶望的な状況からどんなアクロバットな手段を見つけ出してくれるのか。
早くも映画化決定らしいですが、たぶん本でしか楽しめない種類のネタが沢山ありますからとっとと読んで、映画は「ほう、この場面はこんなビジュアルになるのか」と観るのがよろしかろ。おすすめです。
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