「楽園追放」が素敵なアニメだった
話題・・・になっているのかどうかよくわからないですけど、やたら気合いの入った劇場オリジナルフル3Dアニメ、「楽園追放」を観てきました。
この作品、テレビCMはよく見かけるようになりましたが、あんまり興味はありませんでした。あのCMではこの作品の意義やおもしろさは伝わってませんよね。
きっかけはポッドキャスト番組「そこ☆あに」で特集され、水島監督と東映アニメーションの野口プロデューサーのインタビューを聞いたこと。詳しくは「そこ☆あに」を聞いて欲しいんですが、この作品がどういう経緯でつくられたかといえば、水島監督と野口さん曰く・・・
- 東映アニメーションさんは「プリキュア」などを通じて、3Dグラフィクスだけを用いてアニメを作れる技術基盤はできたので、これで技術検証として1本オリジナル作品を作ってみようという企画
- 技術的な相性なども考えて、SFがよかろうということになった。実験作なので、脚本も今までとは違う人がよろしかろうと、無名に近かった虚淵玄を起用した(取りかかったのは、「まどマギ」より前のこと)
- 制作会社のグラフィニカのスタッフにはリミテッドアニメーションの演出方法を教え、育成しながらの制作となった。今回は育成も重要な仕事。
- 当初はもちろん「初のフルCGアニメ」を目指して作っていたが、その間に009やアルペジオに抜かれ、「やべー、やべー」と言いながら作ったが、もちろん先行作品を越えるレベルに仕上がっている。そもそも、フルCGでアニメを作れるのは日本でまだ3社しかなく(他の2つはサンジゲンとポリゴンピクチャアズ)、みんな仲間みたいなもんだけどね。
とのこと。「アニメファンなら3Dアニメの最前線を確認しにくるべきだよ」とも。
というわけで、この志の高さにいたく感じ入り、それにまあ虚淵さんならダメダメでもなかろうということで観ようかなと思っていたら、公開直後から好評であっという間にパンフも劇場販売のBDも売り切れだそうでこりゃとっとといくべきだね。
11/30(日)の新宿バルト9 19:10の回を予約して、いざ劇場へ。30分前の到着で残り座席24。客席は完全に満員でした。客層は、ハイティーンから年季の入ったおっさんまでの落ち着いたアニメファン。女性もけっこう多かった(3割ぐらい?)印象ですが、客席に浮ついた雰囲気が全くなく、「映画を観てやろう」という雰囲気。まあ、そりゃ、デートではこないでしょうけど、なんだか訓練されたオタクたちって感じでした(笑)。
さて、まずは全体の感想。うん、すげー面白いです。まさに「よくできている」という表現がぴったり。あなたの人生の1本にはならない、毒にも薬にもならないけど、まさに美酒って感じ。
それでいて、設定的にはなかなか濃いこともやってます。人間の意識が電脳上に・・・というような設定はわりとありふれていて、「攻殻機動隊」や最近はやりのMMOゲーム世界もので表現としては良く出てくるわけですが、人類が完全に肉体を捨てて、電脳上で暮らしているという設定は実はあんまりメジャーじゃないです。まあ、イーガンの「ディアスポラ」からも10年経ったし、ぼちぼち大丈夫かなーという感じで使われてますが、本質的に難しいテーマ。
この肉体を捨てた人間たちの世界「ディーバ」が、宇宙空間上のラグランジュポイントにあったり、中に生きている人達の階級が利用可能な演算リソースで決まっていたり、胎児までは肉体を持つけどその後、電子化され、最初に得た肉体は必要があれば保存しておいた遺伝子から端末として培養して利用できたり、利用後の肉体(マテリアルボディ)は自壊させるので埋めておいてね、みたいなことを言ってみたり、SF者的に濃ゆい設定がいろいろです。見所は満載。
なんか、レビューサイトで「古くさい」とか「ありきたり」とか言っている人が沢山いるんですけど、そういう人は全然そのあたりの深さが見えてないわけで、逆に言えばこういう濃いネタで「ありきたり」と思わせるのがさすがだなーという感じです。
そりゃ、ツッコミどころはいろいろあって、そもそもほとんどの人類が電子化して、「ディーバ」という1つの世界に住んでる世界で、その大量のロボットはいったい誰と戦うために作ったんだよ・・・なんて思ったりもするわけですが、そこはそれ、そこをちゃんとしたらお話が面白くなるのかといえばそんなことはないので、全然OK。まずは、ちゃんとSFしているぜってところがとても良い。そして、その濃さの加減が絶妙。
で、そのとてもよい世界観と設定の上で、作られるお話なんですが、登場人物がかなり絞り込んであります。地上からディーバに不正アクセスをしかけて「お友達になりませう」と話しかけてくるハッカーのフロンティアセッター、フロンティアセッターを捜索するためにマテリアルボディを与えられて地上に送り込まれたアンジェラちゃん(年齢不詳。ただし、マテリアルボディは他の捜査官を出し抜くために途中で培養を止めたために若干のロリ入り)、そして、アンジェラの地上でのエージェントとなるディンゴ。この3人だけです。
それぞれ、神谷浩史、釘宮理恵、三木真一郎と人気と実力を兼ね揃えた安心の配役で、しっかりと物語を楽しめます。。神谷さんはこういう感情を出さない役も上手いし(まあ、何やっても上手いけど)、三木真一郎さんもまさにぴったり。ですが、やはり釘宮さんかな。ファンは、こういうくぎゅを待っていたんじゃないですか。100分たっぷりくぎゅの声を聞いて、全国1000万人の釘宮病罹患なみなさんは存分に酩酊してください。うぉー、アンジェラかわええよ、アンジェラ。
そんなアンジェラのおしりとおっぱいだけでも3Dの価値はあるっちゃーあるんですが、ホントのところ期待するのはやはりメカでしょう。グラフィニカさんはあの板野一郎さんが所属する会社ですから、展開される映像はまさに本家板野サーカス(板野さんはモーションアドバイザーとしてクレジットされてます)。エヴァQの冒頭の軌道上の戦闘シーンが好きな人なら、あれが3倍の長さとミサイルの量(笑)を体感できると言われれば、ドキドキでしょ?いやあ、ホントに震えが止まらないぐらいに格好良かったー。
でも、こういうアクションシーンの3D化は攻殻SACで車が全部3Dになった当たりから、見慣れているといえば見慣れているわけですよ。それでも特筆するべきだというぐらいに格好いい。3Dだからというんじゃなくて、いいアニメ。気持ちいい。
特に、終盤、かなりの長さの最終決戦となります。今回、演出として、「エウレカセブン」の京田監督がクレジットされていますが、水島監督が口説き落としてこの後半パートの絵コンテをお願いしたのだとのこと。実際、どこからがそうなのかはわからないですが、それでも「おお、これは」と感じ入るシーンの連続。もうね、さすがと言うほかない。これを見せられちゃ、BD買うしかないです。毎日この10分だけ繰り返して観たいレベル。
というわけで、いつまで上映しているのかわからないし、もうすぐにBDが発売されちゃうんですが、可能ならば劇場で観ていただきたい。アニメも含めた日本映画が意外と苦手な、頭を使わずにすかっと観られるアクション作品でございます。ぜひぜひ。
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