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オタクの息子に悩んでます/岡田斗司夫

オタキングこと岡田斗司夫さんの新刊です。岡田さんが朝日新聞で担当している「悩みのるつぼ」という人生相談欄についての本です。

岡田さんはオタクの王でした。かつてはアニメの作り手側でしたし、作品の批評はもちろんオタクという社会現象についても解説、あるいは啓蒙する立場でした。そのあまりに理知的過ぎる解説を聞き、人々は感心すると共に、かえって「オタクはよくわからん」と言ったりしていましだ。

しかし、ある時に岡田さんはオタクの王であることをやめました。それは岡田さんの考えていたオタクという人々の間の連帯意識のようなものが失われていたことを知り、当然のことながら自分がその代表として果たそうとしてきた義務や自負もなくなったのだと理解したからです。この時のことが書かれたのが「オタクはすでに死んでいる」です。

その後、岡田さんはその能力をオタクへの貢献以外へ振り向け始めます。もっと普通の人が考える問題を取り上げるようになったのです。そして、そのレベルでは岡田さんの持って生まれ、さらにオタクとしての研鑽の中で培われた思考力、問題解決能力、そしてそれを伝える表現力は圧倒的でした。

もちろんそれまでも、結婚という制度のあり方(「フロン」)や現代女性の恋愛のあり方(「30独身女、どうよ!?」)などの論考はありましたが、如何せん結論以前に問題が難しすぎた(^_^)。岡田さん自身もこのレベルの問題じゃなきゃ論を発表して対価を得る価値がないと思っていたのではないでしょうか。だって、SF読みは現代社会のあらゆる問題のほとんどは小説の中ですでに検討済みだって知ってますからね。それと比較して考えてますから、そりゃ本も売れません。だって、それSFファン向けってことでしょう?そりゃ私は読みますけど、SFといえば、そう言われた瞬間に恩田陸レベルの作家でも直木賞か取れなくなるほどのポピュラリティーの無さです。

そんな岡田さんがぐっと設問のレベルを落としたのが、「世界征服は可能か」。ウケました。中身はオタクの内輪の与太話(バビル2世のヨミ様、チョー大変そうだよな。あそこまでしないと世界征服無理とかヤバいだろ)ですが、おそらく一般向けにはちょうど良いレベル。まあ、一般の人はあんまり世界征服の手段と目的について社会論的に真剣に考えたりしませんからね。我々は普段からそんなことばっかりしょっちゅう考えてますけど。

そして、次にダイエットという現代日本人が大好きな問題に岡田さんの思考力で取り組んだ結果がベストセラー「いつまでもデブと思うなよ」でした。以前の岡田さんはおそらく痩せたいと悩んでいた人を本質的にはバカにしていたと思います。自分もデブのくせに(笑)。なぜなら、そんな問題は大したことないからです。だって、食べなきゃ痩せるんだから。科学的に考えたらそりゃ当たり前ですもの。つい食べちゃうのもわかるけど、本気で考えたらなんか解決方法はあるはずなんだから、みんな本気で取り組んでないだけでしょ、と。岡田さんにとってはそうなんですよね。実際、それで本気になったらちゃんと痩せちゃうんだから。

おそらく岡田さんはある程度この本は売れると思っていたでしょう。なんせダイエットは人気コンテンツです。オタク向けの商売とはパイの大きさが違います。意図してそこへ入っていったはずです。しかし、ここまでのベストセラーも予想していなかったと思います。ダイエット本はレッドオーシャンです。デブでオタクのオッサンのダイエット本、しかも新書ですからね。

しかし、売れた。読んでみればわかります。そりゃ、だって面白いもの。岡田斗司夫ほどの才能が日本人なら誰しもが共感できる悩みについて、どう分析して、どう解決したか。めちゃめちゃ面白い。そして、それをどうやって普通の人々に伝えるか、精一杯考えてあります。もともとがわかりづらいSFアニメをどうやって伝えたらいいのか必死に考えてた人です。引き出しも豊富ですから面白くないはずがないですよ。そして、岡田斗司夫が一般人のもつ悩みの解決にも武器になることが証明されたわけですね。

ここまでが前置きです(うあー、もう疲れました)

そんな岡田斗司夫さんが朝日新聞で人生相談を始めました。この本は、岡田さんが人生相談について、どのような思考の経路をたどり、何を目的に回答してきたかを語った本です。

まず、もう普通の人が考える「人生相談」と本質的にレベルが違うなと思うのは、ちゃんと「朝日新聞に掲載されてお金がもらえる人生相談とは何か」を考えてること。他の回答者がしない、できない回答とは何かを考えてたいること。何より、相談者にその回答が役に立つかを考えてたいること。

驚くのは、ひとつとして「私ならこうする」とは書かれてないんですよ。それは岡田さんにとって「素人レベル」の回答です。そんなの相談者の役にはからきしたってないからです。でも、世の中でよく見る人生相談って、正論か精神論か説教ですよね。

岡田さんは、まず相談の文章を分析します。例えば、浮気した彼氏に言いくるめられて「私、騙されてますか?」と相談してきた女性に対して、私なら「いえす、200%騙されてます。あほですか?」と答えるところですが、岡田さんは、何故、彼女は相談してきたのか考えます。本当のところ、彼女は何が問題だと考えているのか、分析します。すると、大抵は解決が容易ではないわけです。彼女だって騙されてるのはわかっている。回答もつまるところは「そんな男はさっさと忘れろ」なんですが、では彼女は何が引っかかっているのか。それに答えがでて、相談者の気持ちがほぐれなけれは役に立ったとは言えません。

もちろん、分析と解法の部分も見事です。さまざまな思考方、考え方のツールが示され実践をみるとワクワクします。しかし、それ以上に岡田さんが、相談者、そして同じ問題を共有しうる読者すべてに「届く」ことにどれだけ気を配っているか、その結果、回答が下書き段階よりも断然に完成された作品になっているかをぜひ確認してください。プロの仕事ってのはこれかーと。私たちは最近はネットで貧困としか言いようのない対話ばっかり見てるわけじゃないですか。ありとあらゆるメディアで批判という名の罵詈雑言をぶちまけてる僕ちゃんたち、人の揚げ足をとって俺TSUEEE...と粋がってる自称情報強者のみなさん、あなたがたもちゃんと誰かの役に立ったらいかがでしょう。

真に目指すべきレベルはここなんですよ。はるかな高みです。しかし、ネットの片隅に誰が読むとも分からない文章を置くだけとはいえ、そこにわずかでも読者がいると思うなら、私も目指すべきところは同じはずです。自戒をこめて。


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Comments

岡田さんの本はどれも興味深いです。

Posted by: 吉沢アキラ@天才研究 | October 01, 2012 05:52 PM

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