名被害者・一条(仮)の事件簿/山本弘
と学会会長で、近年立て続けに「神は沈黙せず」「MM9」「アイの物語」など優れたSFを出している山本会長の新刊です。
「メフィスト」に連載されていましたし、このタイトルですから「ミステリー?」と思われるかもしれませんが、違います。事件は起きますが、謎、解きません。謎のまま終わりません。なぜなら主人公の女子高生、一条(仮名)は名探偵ではなく、名被害者だからです!
と、力強くエクスクラメーションマークを打ってみても「はぁ?」って感じですよね。えーっとですね、よくミステリーファンの間で言われるジョークに「名探偵というのは、事件に巻き込まれる体質のことだ」ってのがありますね。
どんなに頭脳明晰な人でも事件に遭遇しなければ解決もできません。警察関係者だろうが、街の探偵事務所のオーナーだろうが、そうそう殺人事件に関わる物ではありませんし、いわんや一般人ならなおのこと。結果、ほいほいと事件に遭遇する主人公たちは事件に絡む度に「またおまえか」扱いを受けます。また、このジョークを逆手に取って、名探偵を一堂に会させ「これだけ名探偵が集まったんだから、事件のほうからやってくるに違いない」なんてことを始める作品もあります。舞城さんの「ディスコ探偵水曜日」がそんな感じじゃなかったでしたっけ?・・・忘れました。
この本は、さらに逆手を取り放題。「名探偵が事件に巻き込まれる人のことなら、巻き込まれるけど解決はしない『名被害者』ってのがいてもいいんじゃないか」との着想・・・というかヨタ話(?)から出来てます。まあ、ここまでの与太は仲間内、あるいはネット掲示板の笑い話で終わりですが、それから1冊の本を作ってしまうのが、作家の作家たる所以です。さすがです。野尻抱介さんの「南極点のピアピア動画」も同じようにアイデアだけでは単なるヨタですが、作家の手にかかるとこれほどかという本でしたね・・・って感想書いてないや。書かないと。
というわけで、この本の主人公は女子高生名被害者の一条(仮)。しょっちゅう殺されかけ、そしてそのすべてが未遂に終わるためにすっかり危機感もなく、それどころか生への執着すら失ってしまってます。「殺してもいいですけど、レイプはやめてくださいねー」ぐらいのぬるーい温度に・・・。ついでになんだか羞恥心も無くしてごく自然に「せっくす」「おちんちん」「ぼっき」を連呼してます(笑)。
そんな一条(仮)ののんきな日々はある事件をきっかけに・・・SFになります。やっぱりそっちかーい!まあわかってましたけど(笑)。
というわけで、古今東西のミステリー・アニメ・特撮ネタをちょいちょいと振りかけたミステリー風味の軽快な一品です。ゲラゲラ笑いながらさくっと読み切れますので、軽い気持ちでどうぞ。
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