いまから、君が社長をしなさい。/鳥原隆志
本が好き!から2冊目の献本を受けました。
著者の鳥原さんは、「インバスケット」という制限時間内に架空の人物になりきって多くの案件処理を行うゲームをつかったコンサルタントをされているそうで、この本はその方法論を活かして経営者、つまり社長に必要なことを学ぶことができます。そして、ぶっちゃけこの著者のお仕事の宣伝です(笑)。
前と後ろに、インバスケットの紹介、社長と経営感覚に関する心得などがあります。が、「かくあるべき」というようなことはあまり書いてありません。経営に厳密な正解はない。会社をつぶさなかった社長が正しい社長だ。そう書いてあります。
そして、メインパートでは一人の男の物語になります。ある意味で「もしドラ」にも似ているし、フィクション仕立てで経営を学ぶ本としては以前読んだ竹内謙礼さんの「会計天国」も似た本かも知れません。失業中の男が「社長募集」という求人票を見つけ、報酬につられて面接に行きます。そこでタイプの違う3人の応募者と共に、対応しなければならない20の案件を示されます。彼はそれに答えてこの会社の社長になれるでしょうか・・・って、「本が好き!」に集うレベルの人ならどんなオチかはわかりますね?はい、5つぐらい思いつきますね?うん、2番目のそれです(笑)
というわけで、ストーリーは読みやすくするためにあるだけで、主眼は案件です。案件の提示の前に、この会社の業態や業績などの資料が8ページにわたって提示され、20の案件を1時間で処理するように著者から指示されます。
「社員全員に説明のメールを書く」「この部分に疑問があるので、再度、報告させる」「この事業は即時ペンディングを指示」・・・てなレベルのメモをつけながら読んでいって30分ちょいぐらいでした。ちゃんとやってると1時間は結構いい時間ですかね。シャチョサンイソガシネー。
案件は、メールや報告書の形で1ページに一つ。週次の営業報告や、苦情メール、社員同士の結婚の報告や進退伺い、新規事業の企画書、トイレの使用許可から合併の提案まで。大事な話からどーでも良さそうな話まで。それを進めて、どれは任せて、どれは放置か。「知るかーっ」と言いたくなります・・・が、それが出来ないのがリーダー。なかなかに頭を捻りますよ。実際に自分の対応をメモった後で読み進めると、「あー、そういう可能性もあるのか」「そっちの観点から議論しておく必要があるのね」といくつか自分の想像が及ばなかった点が出てきます。面白い。
そして、さすがに巧く構成してあって、それぞれの案件から社長に求められること、例えばデータを読む力であるとか経営資源に対する考え方、規範とコンプライアンスなどが導かれます。ただ、そのそれぞれのお題目は並べてみれば世に盆百のビジネス書の目次にも書いてありそうなことです。ただ、こう一つのメール、一つのメモに書かれた事柄からそれが見えてくるか。それはなかなか難しい。
感じるのは、「つまるところ、ただ必要なのは想像力なんだ」ということです。一つ一つの案件に対する想像力もそうですが、社長さんはこれだけの範囲のことを扱っていかなければいけないんだということを想像できるかどうか。
結局、何かを想像する力だけが、私たちを助けてくれるのです。世の中、想像力の欠如ばかりが目につきます。想像力だけが私たちに思いやりの心を授けてくれます。想像力だけが私たちに疑うことをもって危機から救ってくれます。安易に政治家を批判するコメンテーターや、発言者に安直な抗議を向けるネットユーザーは、その案件、あるいは批判しているその人の仕事に対してどれだけの想像を巡らせているでしょうか。それが出来ていなければ、立場が逆転してただ叩かれるのは時間の問題です。
想像力がなければ、社長にはなれません。想像力がなければ、人を思いやることも、人をまとめることも、人からお金をせしめる(笑)ことも出来ないわけです。想像力を養うには、読書が一番。手始めに、この本はなかなかいいかもですよ?
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Comments
こういう本面白いね。とりあえず積読リストにぶち込んだ。
ってかこういう題材のTRPGあったら色々と捗りそうだ。
誰かやってくんないかなぁ。
Posted by: ふみ~ | May 07, 2012 01:28 AM