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過去の力/サンドロ・ヴェロネージ

積ん読管理用として最近愛用しているサービスが「本が好き!」なんですが、ここはそもそも書評サイト。ある程度の書評を書いて実績を積むと、書評を書くという約束で献本を受けることができます。献本の案内はそれなりにたくさんあります。が、いざ、書評を書こうと思うとこれはという本はなかなか・・・。実用書も結構な割合でありますしね。

そんなわけで、なかなか応募できずにいたんですが、なんとなく感想が書けそうだと思い応募したのが、この「過去の力」です。

かつてチェスの名プレイヤーだった主人公は今では、児童文学作家としてひとかどの人物と評されています。結婚もし、可愛い子供もいます。著作で文学賞も受賞し、そしてその賞金を授賞式で難病の子供を抱える母親に全額渡すなど、立派な人物です。

外から見れば。

そんな主人公は、授賞式で美人の母親についほだされ、賞金をあげると言ったそばから後悔し、帰りのタクシーで見知らぬ男にびくびくし、父親がソ連のスパイだと聞かされて動揺してレストランで朗読を始め、ついには・・・

変な人です。そして、かつ、ダメな人です。

そんな人物の内面がじめじめと、がやがやと、ぐちゃぐちゃとローマの街に描写されます。アパートのベランダからの胸を好く光景と奇人の叫び声に。ローラースケートを履いたウェイトレスのいるざわつくレストランのネオンの輝きに。主人公が横たわる交差点の真ん中の雑踏に。

日本の小説家で、世界で一番読まれているのは村上春樹だと思います。ただ、村上春樹を読んでいると、「これ、日本人以外はどう読んでるんだろう」とことがあります。特に日本の風俗や状況を描写した部分です。そういう部分は、他の何とも置き換えることは不可能です。例えば、渋谷と聞いてあのスクランブル交差点の光景が浮かび、その地名の持つイメージを共有していないと、この伝わらないのではないかと思うことがあります。

そして、この小説を読んでいる私は、まさに「ダンス・ダンス・ダンス」を"Shibuya? Isn't it Tokyo?"状態で読んでいる外人さんに近いのかもしれないと思わされました。ローマ市街の光景を共有していない私がこの小説を本当の意味で理解した事にはならないのかもしれません。

しかし、読んでいるうちにこの男の内面が街の情景を塗りつぶしていくような感覚がありまいた。不信にかられる男の黒い気持ちが薄暗い街の壁を染め、父がスパイだと認めたくない焦る気持ちが騒々しいレストランの風景を形作る。多分に映像的な小説なんですが、心の動きを元に読者の頭に映像が形作られていく、そんな小説もあっていいのかもしれません。

たいしたストーリーがあるわけでもないので、面白い小説とは言えません。退屈と言ってもいい。ただ、そこで試みられている「描写」の力はありありと感じます。安易にお奨めとは言えませんが、間違ってもくだらないとは言えない。いやあ、褒めるのも貶すのも難しい本だなあ・・・。

それにしても、たぶん読了語の私の頭の中にある小説世界はホントのローマとはぜーんぜん間違っているんでしょうね。

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