陽だまりの彼女/越谷 オサム
子供の頃の淡くて苦い恋の相手が取引先との会議に現れて、そこから大人になった二人の新しい恋が紡がれていきます。その描写、情景が、もうかなりのいちゃラブ度で瑞々しく書かれるのでニヤニヤしながら読めます。この甘甘ぶりに「もうダメ」という人もいるとは思いますが、少女マンガ読みのリリカルなおっさんである私はこれぐらいはへっちゃらです。むしろ好物です。ありがとうございます。
ただし、物語は同時に序盤から不吉な香りをぷんぷんさせています。視界をちらちらよぎる伏線のすべてが不幸な物語を予告します。この二人がある種のバッドエンドを迎えることは明らかです。「新宿鮫」的な不幸なのか、「世界の中心で愛を叫ぶ」的な不幸なのか、「リプレイ」的な不幸なのか・・・どれでもいやだなあと思って読んでいると、なんとも可愛らしい不幸へ落ち着きます。
このラストはこの小説全体が持っているふわふわと明るい雰囲気にマッチしたものなんですが、物語を読み進むドライブ要因を、このヒロインの謎と二人はどうなってしまうのかという面に過剰に持ってしまっていると、ちょっと肩すかしかなと感じてしまうかも知れません。「このラストを素晴らしいと言ってはいけない」と私のSF読みとしてのゴーストが囁くんですが(笑)、これはこれでいいのかなと。やはり、この小説の最大の魅力は二人のラブラブぶりにありますしね
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