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こうして彼は屋上を燃やすことにした/カミツキレイニー

ライトノベルのもっとも一般的な定義は「ライトノベルのレーベルから出版される」こと。故に、同じ作品でもラノベだったりそうじゃなかったり(「GOSICK」とか)する訳ですが、この「レーベルから出版される」ことによって付加される「背景」や、その「読み」が存在します。

というわけで、ガガガ文庫の新人賞であるガガガ大賞の第5回受賞作がこの「こうして彼は屋上を燃やすことにした」です。ガガガ文庫は、ライトノベルとしては後発の小学館が作ったレーベルで、「人類は衰退しました」のようなヒット作もなくはないものの、全体的にラノベを過度にマーケティングしすぎたと言いますか、「ラノベ」のはちゃめちゃ感を過剰に出し過ぎていると言いますか、まあ、そういうレーベルだと思われています。

正直、「僕がなめたいのは、君っ!」なんてタイトルが並んでいると、素直な気持ちで「このレーベルを作った人たちは、読者のことを『バカ』だとしか思っていないんじゃないか?」という気持ちになりますよね。

そんなガガガ文庫の新人賞を受賞した作品がこんな青春丸出しのタイトルで、かつ、イラストレーターが「狼と香辛料」の文倉十さんだとすれば(ラノベにとってどんなイラストレーターを使うかはどういう作品で誰に読んで欲しいかというメッセージですからね)、どうもガガガ文庫も読ませる方向で安定を図っているのだろうかと思いますよ。というわけで、どれどれ?と思って手に取ったわけです。

読んでみると、これは全然ラノベじゃない。でも、なんとなくガガガ文庫っぽい。たしかにガガガ文庫はこういうの好きですよね。あまりたくさん読んだわけではないですが、「その日彼は死なずにすむか?」や「パニッシュメント」に通じる「痛い」感じの物語です。それにしても、もう少しラノベでもいいのに。

と、こう書くとライトノベルにレーベル云々以外の別の要素を期待していることに気がつきます。物語が物語として成立するためにはそこには何らかの「普通じゃなさ」が存在する必要がありますが、その「普通じゃなさ」をアニメ・ゲームの想像力に持つことをライトノベルに期待しているのです。ただし、簡単に「アニメ・ゲームの想像力」と言っても、アニメやゲームが題材とするフィールドは幅広いのでそれがどういう範囲を意味するかは大変曖昧です。しかし、何かそこに範囲はあります。はっきり言葉にはできませんが、ある種の荒唐無稽さのようなものがあるのです。

この作品に限って言えば、これで成立しています。まったくラノベではないですが、このような良質のジュブナイルを小説という形で世に出すにはラノベの枠でしかあり得ないのが現状だと思います。そういう意味で、一方で極端な作品を出し、その一方でこのようなラノベの枠に入りきれていない作品に出版の機会を与えているガガガ文庫は貴重な仕事をしていると思います。

作品自体の話をほとんどしていませんが、失恋して屋上から飛び降りて見せつけて死のうと思っているちょっと頭の香ばしい女の子が主人公なんですが、そのキャラクターと他の痛々しいキャラクターと対照させてうまい雰囲気を作り出していて、好印象です。タイトルで展開を完全にバラしていることと、他の主人公の間の関係性がちょっとご都合すぎるところがもったいないですが、「オズの魔法使い」に見立てた語りのうまさなど、今後も期待を持たせる作者さんです。

ただし、2作目にはいい意味で「ラノベ的」なものか、あるいは自分で自分のジャンルを作り出してしまうような強い力を持った作品を期待します。そうでなければ、作品を出し続けることができないのが今の出版界の現状ではないかと思いますので。あるいは、この勢いで芥川賞を狙いに文芸誌に出すか。そういうルートがもっとあってもいいと思うのです。はたまた、あるいはラノベ業界から、新しい時代の芥川賞を作っていくのかもしれません。


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Comments

この作家の作風なら芥川賞よりかは直木賞じゃないでしょうか?

Posted by: | December 27, 2011 01:03 AM

やー、ラノベ出身の直木賞作家はもういますしね(^^;

本文中でも書きましたが、この作品にとって「ラノベではないがラノベレーベルしか発表の場がない」という現実があり、じゃあ本来どこが受け入れるのだろうと言えば、それは文芸誌なんじゃないかなと。

じゃあ、各社ラノベレーベルの新人賞受賞の中から芥川賞が選ばれればいいのか・・・というとなんかそれも違うような気がしないでもないですが。

Posted by: Tambourine | December 27, 2011 10:45 AM

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