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まおゆう/橙乃ままれ

その昔、「狼と香辛料」の1巻を読んで面白かったのでドック(仮名)に「お前も読めや」と薦めたところ、ドック(仮名)から「せっかくの政治・経済ネタなのに、世界を巡る陰謀とかにならないのがつまらん」と言われました。

まあ、一理ないこともないです。「大画面で観るならハリウッド映画」的な発言にそれはどうなの?とも思いますけど。

この「まおゆう」はある意味、そのリクエストに応える話です。魔王(♀)を倒しに来た勇者(♂)のボーイ・ミーツ・ガールのキャラ小説でありながら、中世ヨーロッパの政治・経済小説でもある。魔力により得た(のか?)未来の政治・軍事・経済の理論と魔界算の高収益農作物(ジャガイモのことなんですが。この世界では魔界と大航海時代の新世界(アメリカ)が対応するんですな)と勇者ご一行様の強大な軍事力も携えて、この世界に革命をおこさんとする魔王の野望の物語。ううーん、でっかい。

ジャンル的にはある意味で、「もしドラ」と近いね(笑)

そして、これも言及しないわけにはいかないでしょう。この本の小説としては異例なスタイルです。

一つに登場人物の会話だけで進むこと。元が2ちゃんねるに投稿された話で、スレに短い会話を連続で投稿するスタイルで執筆されていることも影響しているんだと思いますが、独特のリズム感があります。ただ、それと引き替えに内的な感情の描写や、会話が成立しない場所の描写が難しいという制約もあるスタイルです。最初はよかったんだと思いますが、物語世界が広がるにつれて苦労もあったんじゃないでしょうか。

また、登場人物に名前がないこと。「勇者」「魔王」は、まあ、その世界に一人しか居ないので固有名詞扱いされていてもあまり違和感はないんですが、「軍人師弟」とか「辣腕会計」とかはさすがに「はじめまして。辣腕会計です」なんて自己紹介されると違和感バリバリ(笑)。しかし、あえて名前をつけず、人物の描写をおさえてキャラを会話だけでつけてます。だから、新しいキャラが登場したときにはどんな奴かさっぱりわからないんですが、そこはあえて読者にこれまで他の作品で目にしたような類型的な「勇者」や「女剣士」を思い浮かべてもらうことでスムーズなストーリー進行を可能にしてます。いわゆる東浩紀が「動物的ポストモダン」「ゲーム的リアリズムの誕生」で言及したデータベース消費で、ユーザーにある程度ファンタジー世界の「共通理解」あるいは「教養」があることを前提にしているというのが興味深いところですね。これも発表媒体が2ちゃんねるなので問題はなかったと思うんですが、広く読まれる上では制約かもしれない・・・し、ある意味、日本人は全体としてこの程度はものともしないぐらいレベル高いかもしれないですね(笑)

最後に、このようにネットで全部読めちゃうものが書籍化されることについて、「電車男」以降数々と例はあるわけですが、この本に関しては分量も多いし、注釈も出来がいいのでセンスは悪くないんじゃないかと思います。逆にラノベの様にビジュアルをはっきり決めてしまうのもつまらないから、水玉螢之丞さんのぽんやりした絵がちょっとついているぐらいなのも好印象です。

結論として、気軽にリズムよく読めるものとしてそれなりにおすすめ。本としては結構高いですが、ネットで楽しませてもらった人もお布施の気持ちで購入してはいかがかと思います。とりあえず、どんなもんか試しに読んでみたい人は、

http://maouyusya2828.web.fc2.com/

を観てみてください


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