きことわ/朝吹 真理子
芥川賞の発表前に「ゴールデンラジオ」の大森望さんが「今回はこれで決まりでしょ。いいとこのお嬢さんで美人で、かつ、出来もこれがピカイチ」と評されていた朝吹真理子さんの「きことわ」です。
大森さんの予想通りに受賞したわけですが、同時に西村賢太さんも取って、記者会見では西村さんのダメ人間っぷりの方がネットで大人気。「きことわ」を買ってきて、「芥川賞受賞」の帯を付けたまま読んでると、同僚に声をかけられるほどです。
「あー、それ、ニートの人の方?」
-いや、ニートじゃない方の人です
「サラブレッドの方かー」
話題になるのはいいことですね。「苦役列車」ともども売れているらしいですし。「苦役列車」は読みませんけどね。
お話は、縁あって休日を共に過ごした高校生と小学生の女の子二人が、大人になって再会し、思い出を語り合うという、ただそれだけで、ストーリーに面白味がある作品ではありません。
ではこの作品の魅力はどこにあるかというと、年の離れた姉妹のような二人の関係性であったり、幼き日のみずみずしい世界であったり、過ぎし夏の日へのノスタルジーであったり、そういうところ。
絢爛豪華なフルコースでも、極上の素材からなる一品でも無いですが、お上品な和菓子をいただく様な感じで召し上がってください。私はそれなりに好きです。
あとは、この位置からどこへ立脚するか。村上春樹でいうなら、これが「風の歌を聴け」であれば、「羊をめぐる冒険」や「ノルウェーの森」はどういう形になるのか、何を書くのかというところが問題になるのかなと思います。技と感性は十分だとして、ここから何をぶつけて書くのか、あるいはエンターテイメントへ行くならばどんな芸を見せるのかが作家として問われるのかと思います。長編も読んでみたいですね。
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