グラン・ヴァカンス/飛 浩隆
あとがきで筆者が「SFとは・・・」と語る、その部分を読んで「ああ、私はだからSFを読むんだ。SFからしか得られない気持ちがあるんだ」と。作り物だからこそ、架空の設定だからこそ描き、体験することが可能な感情。ありえないほど荘厳で、残酷で、情欲的で、清廉なその世界が素晴らしい。
作品の世界は、「ゲスト」がバーチャルなバカンスを過ごすことができる仮想空間。そこには永遠の夏があり、ゲストがAIにどんな残酷な振る舞いでで陵辱することも許される歪んだ世界でもあります。しかし、その世界にはもう千年も「ゲスト」は訪れていません。このレジャー施設は放棄されてしまったのでしょうか。それとも、人間は滅びてしまったのでしょうか。訪れることのない「ゲスト」に対する依存心と、安堵の気持ちの両方を持って暮らしているAIたちに、ある日、破滅がやってきて・・・
と、ストーリー的にも大変魅力的な舞台なんですが、やはり、その本質はストーリー展開でも謎解きでもなくて、この世界自体とその崩壊を描くこと。まあ、正直、ストーリーはなんだかさっぱりわからねえといえばわからねぇわけですし、なんせ仮想空間の話なので時間も空間も超越した「神」的な存在があることは確実なので、「神」に介入させればなんだってできちゃうわけですから、お話はどうでもいいです。華麗なストーリー展開が欲しければミステリーを読めと。キャラたちが戯れるところを読みたければラノベを買えと。そういう意味で、まさに「SF読みのためのSF」。誰しもに薦められるものではないですが、いやあ、凄かった。そして、酷い。こんなこと考える奴は酷い奴だよ(笑)
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