劇場版「涼宮ハルヒの消失」
素晴らしかった。期待通りのモノを見せてもらいました。ファンの「消失」に対する期待はハンパないので、その期待に応えたというのは物凄いことです。
「涼宮ハルヒの憂鬱」がファンの不安と期待を受けてアニメ化され、奇跡のようなヒットを生み出したのは、2006年の春のことでした。
原作もののアニメ化というのは、ファンにとってはどうしても「確認」になってしまいがちです。好きだったあの物語、あのシーンがどんなビジュアルになるか。その確認です。想像を裏切るストーリーというのは実はそんなに難易度が高いことではないのですが、ある小説を読んで読者がイメージしたシーンをそのストーリーを裏切ることなしに越えることは大変難しい。しかし、それこそを演出の力と呼んで間違いないでしょう。
涼宮ハルヒの第1シーズンはまさにそれが実現された作品でした。破天荒な自己中娘の涼宮ハルヒが存在したらどんな女の子なのか。素人丸出しの高校生自主映画は実際にどんなものだったのか。ハルヒが初めて人から認められた歌とはどんなものだったのか。もちろん、各話に仕掛けられた演出上の遊びも素晴らしかったですが、それらのビジュアル化に手を抜かずに取り組んだからこそ素晴らしいアニメになりました。もちろん、その縦軸として、「涼宮ハルヒの憂鬱」という原作第1作が人間原理という濃いSFネタを使った優れた青春小説だったことは言うまでもありません。
そして、原作の人気を決定づけたのは、長編としては3作目になる第4巻「涼宮ハルヒの消失」。綾波レイからの系譜に属する無表情キャラとして人気の長門有希をヒロインにして、長門と感情というテーマを扱っています。そして長編第一作がヒロイン涼宮ハルヒが「特別じゃない世界」を肯定する物語なのに対して、主人公キョンが「平凡ではない特別な世界」を肯定する物語であるという二重の構造が見事でした。
アニメの第1シーズン終了後から、最終話で唯一のアニメオリジナル作品だった「サムディ・イン・ザ・レイン」が消失の伏線となる話だった事もあり、「第2シーズンは『消失』」という期待感は高まりました。それから、約3年。予想を上回る大ヒットアニメとなった涼宮ハルヒは紆余曲折を経て、劇場アニメとして「消失」を完成させました。
アニメ版「涼宮ハルヒ」は放送の第1話から、原作に忠実ながらいかにアニメーションとして素晴らしい演出を加えて涼宮ハルヒを愛する人に届けるかが徹底された作品でした。そこには、常に「涼宮ハルヒのファンなら何が見たいのか」「涼宮ハルヒ自身が監督なら、何を見せるのか」が問われ、「このアニメを予備知識なく見た人が入ってこられるか」はあまり考えらておらず、「原作の魅力を120%引き出せば、後は必ず興味を持ってもらえる」という信念が伺えました。そうでなくて、なぜ「朝比奈ミクル」が放送第1話になるのかと(笑)。小説のファンとして、こんなに幸運なアニメ化作品は他にありません。
劇場版「涼宮ハルヒの消失」も、原作の、そして今度はTVアニメの「涼宮ハルヒ」を愛するファンに向けて作られた作品であることは間違いありません。そこで行われているのは、「涼宮ハルヒの消失」を全力でアニメにすること。だから、演出方針はTVと全く同じです。オープニングテーマですら、TVと同じ。しかし、そこでは力一杯に「消失」をやりきるためにTVでは出来ないレベルの演習や作画が繰り広げられます。尺は163分。30分アニメ7話分。「憂鬱」は6話でそれでもカットされたシーンが多かったので、それだけの時間が必要だったのでしょう。
そして、163分という長時間を使いながら、はじめて「涼宮ハルヒ」を観る人への配慮は一切なし。この話は、第1シーズンの放送を見ているだけではわからずに、第2シーズンの「笹の葉ラプソディ」を観ていないと何のことやらさっぱり判らず、そして、この事件の首謀者がなぜこんなことをしでかしたのか、その伏線が第2シーズンで非難囂々だった「エンドレスエイト」であったということもよく判ります。怒られるのを承知で、この為にやるのか・・・。すごいと言わざるを得ません。
声優陣も素晴らしい。涼宮ハルヒ役をきっかけに一気にスターダムへ駆け上った平野綾のテンションの高い演技や、実質の二役である長門役の茅原実里の演技も(歌もね!)見事ですが、ブツブツつぶやいただけでその世界を「涼宮ハルヒ」の世界にしてしまうキョン役の杉田智和は今回もスペシャルです。原作のモノローグと会話文が自在に入り交じる文体を、そのスタイルのままアニメにするにおいて、キョンのモノローグがつまらなければこの作品は台無し。それを160分間に渡って続けるんですから、凄まじいことです。キョンがブツブツいっているだけで、我々は安心して「涼宮ハルヒ」を観ていられます。
はっきりいって、人に薦めづらい作品です。本当にこのアニメを一番楽しむのであれば、やはり原作を読んでいない人でしょうが、原作を読んでいない人にアニメ28話(そのうち8話が「エンドレスエイト」・・・)を全部観ていけというのも辛いですし。原作ファンは、やはり「確認」にならざるを得ない部分があります。しかし、この作品が、アニメ第1シーズンを見終えて、そしてその後、「ハルヒ第2期制作決定」の新聞広告に胸躍らせたあの3年前の期待を裏切らない、期待した最高の出来であることは間違いありません。そんなものが作られたというだけで本当にすごいこと。そして、おそらくこれが原作の続編が出ていない段階での「最後の正統なハルヒのアニメ」になるだろうことを考えると、劇場へ行かない理由なんて何もないのです。
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