スタートレック
前作、「S.T X ネメシス」の失敗、新テレビシリーズの「エンタープライズ」の打ち切りなどの影響で、実に久しぶりのスタートレックの新作となりました。今回から新シリーズということで一抹の不安がありましたが、ファンとしては単純に新作が作られたということが嬉しいです。
もっとも、私の世代はTOSよりはTNG以降の24世紀シリーズの方に馴染みがあって、上の世代のファンのカーク、スポック、マッコイへの思い入れはあまりよくわからなかったりしますけど。24世紀ものを見慣れていると、TOSの世界って無鉄砲でルール無用に見えるんですよね(笑)
さて、トレッキーではない普通の人から見てこの映画がどう見えるかということは、私にはもちろんちゃんと評価は出来ません。でも、割と良いんじゃないでしょうか。例えば、新シリーズの第1作目として、キャラクター紹介をちゃんとする必要がありますが、その努力は見受けられます。カークとスポック、そしてなぜかウフーラ(まあ、他にエンタープライズには女っ気がないしな)はちゃんと人物描写をされてます。十分です。他のメンバーは割とてきとー(笑)ですが、まあ、しょうがないといえばしょうがないし、この映画に関してはそれでちゃんと成功してます。でも、TOSの魅力ってスポックとマッコイという対照的なキャラにあるから、2作目以降でマッコイもちゃんと取り上げて貰えると嬉しいです。スコッティ、スールー、チェコフは・・・楽しい乗組員達の域を出てません。ファンは、出てくるのが判ってて、出てきて嬉しいってなものですが、知らない人にとってはなんでスコッティがあそこで出てくる必要があったのかは、さっぱり謎。ともかく、全体として良くできたSF作品になってると思います。大きく分類してタイムパラドクスものなんですけど、なんでこのストーリーにタイムパラドクスが必要なのかはファンじゃない人には実は意味がないので、その部分が少し判りづらいかもしれません。
お待ちかね。ここからはトレッキー様向けの感想です。ネタバレを含みます。ネタバレがイヤとかほざいてるトレッキーな諸君はまだ観てない方が悪いので心を入れ替えて、今すぐ見てくるといいよ!
この作品の最大のポイントは、この映画が「同じ設定で、ただ役者が歳をとったから新キャストで撮り直したTOS」ではないことです。この作品がタイムパラドクスものでなくてはいけなかったのは、有名なシリーズが故にこれまでに発表された他のシリーズ作品と矛盾してはいけないという制約から自由になるためです。
激しいオープニングシーンでファンは、おや?っと思わされるわけですが、この瞬間に実はこのストーリーはこれまでのシリーズの時間の流れから逸脱します。要するに、パラレルワールドものになってしまうわけです。そして、中盤にバルカン星が破壊されて、バルカン人が絶滅の危機に立たされてしまうところでファンはかなり茫然としてしまうでしょう。だって、23世紀のこの時期にバルカン星がなくなってしまったら、24世紀のあのエピソードもこのエピソードも成立しなくなってしまうじゃないですか。トゥボックは死んじゃったの??
そう、もうこのシリーズは私たちがよく知るシリーズとは別の宇宙の話なのです。
そのきっかけとなる事件を起こすのが、24世紀から過去へ飛んできた我々のよく知っているシリーズのスポック。これをニモイ自身が演じているのも象徴的。そして、この過去から来たスポックは結局、元の時代に戻らずにこの世界で生きていくことになります。つまり、これは我々のよく知っている、あのスポックの最後を語る物語でもあるわけです。
映画「ジェネレーションズ」では、TOSをベースにした映画のシリーズからTNGをベースにしたシリーズへ移行するにあたり、カークとピカードの二人のエンタープライズの艦長の共演(とそこで描かれるカークの死)が移行を象徴しました。今回の映画では、二人のスポックが二つの異なるシリーズを繋ぐことになります。
「オレの好きなカークは、やっぱシャトナーのカークだよ」というオールドファンにとって、スタートレックの歴史をよく知らず思い入れもない監督が、違うキャストで勝手に「俺トレック」を撮り始めたらいい気持ちがするはずはありません。しかし、物語の中でこの事件を起こしたのが我々の愛するニモイのスポックで、そのスポックがラストシーンで最後に艦隊を離れてバルカンの復興に努めようとする若いスポックに「艦隊を辞めてはいけない。カークと共にいなければならない」と助言するシーンは、「ジェネレーションズ」で一度座りかけたエンタープライズBの艦長席を若い艦長に譲ったカークの姿とダブり、感慨深いシーンとなっています。
要するに「俺トレック」を思う存分するための準備なんですが、これだけ今までのファンに対してきちんと仁義を切って、また作品中でも十分にファン向けのサービスを入れてくれていると、「うん、思う存分やってくれ」という気持ちにさせられます。この映画の一番嬉しいところはそこで、その意味ではこれは本当の意味でのこれまでのファンに向けた映画なのです。
全体的に楽しい映画ですし、あんまり考証も細かいことは言わずに(惑星ドリルの上は標高何mだ?そこでヘルメット取ったら即座に窒息死だ!)観ればいいと思います。建造中のエンタープライズや、士官学校でのカークの様子、コバヤシマル試験など面白いものもいくつか観られたし、転送技術が24世紀に比べて未熟なのも面白い(これがENTの時代だと、生き物はできるかぎり転送しないというレベルなんですが^^;)です。
ただ、あえて苦言を呈すならば、敵役がロミュランの穴掘りってのはどうも・・・。この時点でロミュランと遭遇してしまうのも設定的にどうかというのもありますが、連邦の宿敵(といってもドミニオン戦役後だから同盟を組んでるんですが)のロミュランがあっさり滅びて、その復讐をどっかの炭鉱夫がやってて・・・というのはちょっと話としてショボい。この役回りならロミュランでなくてもよかったし、なにより新しい世界の23世紀のロミュラン人達には迷惑ですよね(笑)。穴掘り船は格好いいんですけどね。
あと、どう考えてもこの流れでカーク、スポック、マッコイ、スコッティがエンタープライズの各リーダーになるのはおかしいでしょう(笑)。どんだけ人材不足なんだよ、惑星連邦。次作からカーク艦長(船長?)のエンタープライズの話にならなきゃいけないのかもしれないけど、さすがに興醒めですよ。
そして、この映画のタイトルなんですが、「スタートレック」は紛らわしすぎ。「スタートレックR」でも「スタートレック#」でも「またまたスタートレック」でも「スタートレック00」でも、なんでもいいからなんかこの映画を指す呼び方を決めて~(笑)
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