あなたがクウガを絶対に観たくなる呪いの文書
10年に渡るヒットシリーズとなった平成ライダーシリーズですが、その始まりとなったクウガは特別な番組でした。そこには、「今までと違うものを作ろう」という明確な意志とコダワリがありました。
まず、大事なのは怪人であるグロンギの設定。
これまでの怪人は、「世界征服の為に幼稚園のバスを乗っ取る」ようなトンチキばっかりでしたが、グロンギは「人間には理解できない理由で殺人をする集団」です。この「なんだか決まりがあるらしいが、よくわからない」感じが、魅力的でした。
まず、日本語をしゃべらない。言葉が通じてしまえば、理解できちゃうかもしれませんからつまらないですもの。しかし、唸ってるだけの知能指数が低い怪人も敵として面白くありません。そこで、彼らはグロンギの言葉をしゃべります。
実は、グロンギの言葉は、あるルールで変換された日本語なんですが、そのことにより
- 視聴者は何となく意味がありそうなことを言っていることは理解できる
- 怪人役の役者が、ちゃんと演技が出来る(自分の言ってることがわかる)
という効果があります。また、続けて観ている間にグロンギにはグロンギの中のルールがあり、そのルールに従って
「ゲーム」として人間を殺しているということがわかります。殺す人数もちゃんと数えていて、凝ったことに、使っている数は9進法です。
この辺りも劇中では露わに説明することはなく、それがグロンギの不気味さを表し、また、この世には「理解不能な暴力」がありそれとどう対峙するのかという普遍的なテーマを作っていました。
ちなみに、マニアックに観たい人にとっては、グロンギ語を解読することによりこの辺りの設定は全て知ることが出来ます。グロンギの間の人間関係なども実は見どころです。普通に見終わった後に、グロンギ語の対訳を見てみると面白さがより深まるでしょう。
そして、仮面ライダーの設定
クウガは主人公、五代雄介が古代遺跡の遺物を体に取り込んでしまうことにより変身する力を得たモノです。なので、別に変身するときにポーズを取る必要はありませんし、「変身!」といういう必要もありません。雄介が、「変身したい」と思えば変身出来ます。
ただ、そのように気合いをちゃんと入れない状態で変身すると、白い弱い姿にしかなれません。精神統一と、あと雄介の「変身するときにはポーズしたほうが格好いいでしょう」というノリで変身ポーズを取ることになります。そりゃ、変身ベルトがスポンサーのオモチャ会社から出ているんですから変身ポーズを取った方がいいに決まってます。それを、自然に設定に取り込んでいるところがキチンと練られている証拠ですし、そのことを主人公の戦う意志の表れとしてドラマに活かしているのは素晴らしい。
また、クウガは状況に応じていろいろな形態に変身しわけることが出来ます。
形態には設定で、「ドラゴンフォーム」「ペガサスフォーム」などの名前がついています。が、劇中の雄介はそんなことはわからないので「青の力」「緑の力」などと呼びます。形態の変更も、雄介が気合いを入れる為に「超変身!」と叫ぶことはありますが、それも間に合わないような場合では、何も言わずに臨機応変に変わります。いちいち見栄をきるようなこともしません。当たり前の演出がちゃんと守られます。そして、各形態を演出で非常に上手く利用します。設定が設定だけに終わらないというのは当たり前であって欲しいですが、実はなかなか実現出来ないことでもあります。
ちなみに、新しい形態が出た回では、ちゃんとその形態のオモチャのCMが初めて放映され、その形態の名前がわかるようになっています。ともすれば不親切になってしまいがちな番組をたくみにフォローしているのです。もちろん、CMで先に未放映の形態が出てしまうようなミスは一度もありません。当たり前のようで、きちっとコントロールされていないと出来ないことです。制作スタッフだけでなく、製作サイドやスポンサーも作品にきちっと向かっている証拠なのです。
そして、クウガでは警察もちゃんと活躍します。
もう一人の主人公ともいうべき一条刑事をはじめ、警察官達は不可思議な事件に真摯に対応します。これもこのシリーズの特徴です。グロンギを「未確認生命体」と呼び、クウガのことも最初は「未確認生命体」の一人だと考えていました。そこで、クウガは「未確認生命体第4号」と呼ばれます。
雄介は、自らの変身した姿を(グロンギがそう呼んだからという理由で)クウガと呼び、クウガの正体が自分であることを特に隠すつもりもなく振る舞うのですが世間一般ではみんな「4号」と呼ぶという設定は、実はヒーローものとしては
大変異例です。みんなに名前を呼んでもらえないヒーローなんて変わってますよね。
そして、最初は疑っていた警察官達も、徐々にクウガと共闘するようになります。死を恐れず市民を守ろうと怪人に立ち向かう警察官達の姿は感動的です。ともすれば、ヒーローの活躍を際だたせるための弱小な存在として警察官たちを描写してしまいそうなものですが、クウガの世界の警察は組織と建て前がちらつく大人の世界でもあり、かつ、子供達がそうあって欲しい格好いい大人の世界でもあるのです。
そして、クウガは仮面ライダーですからバイクに乗るわけですが、クウガが乗るバイクは警察から提供された白バイの試作品です。ストーリーの後半では、クウガと白バイ隊がカラーリングは違うものの同じバイクに乗って活躍します。想像しただけで格好いいと思いませんか?
バイクの話をしなきゃいけません。
仮面ライダーシリーズのバイクは、なんだか非現実的なスーパーマシンであることも多いのですが、クウガでは前述した通り、設定上は白バイで劇中でも(高性能ということになってますが)普通のバイクです。そして、意欲的な試みとしてバイクアクションが行われました。
トライアルバイクの元日本チャンピオンがスーツアクターになり、オフロードバイクで階段を駆け上がったり、ジャンプしたり。まさに、「ライダーがバイクに乗る意味」を画面上に作り出しました。ここでも仮面ライダーはバイクに乗ったヒーローであるというオリジナルシリーズへの敬意と、さらにそれをどう面白く見せるかという真剣な態度が感じられます。
また、オリジナルへのオマージュという意味では、バイクに乗り赤いマフラーをしたバッタ怪人、ゴ・バダー・バが登場し、(グロンギ語で)名乗りを上げて、ポーズと共に変身してくれます。初代ライダーをモチーフにした遊びの要素なんですが、何とも格好良く、また、その後の二人のライダーによるバイクアクションは番組を通じての見どころのひとつでもあります。
この様に、「バイクに乗ったヒーローが、悪の怪人と戦う」という基本設定を隅々まで練り込んであります。これだけのものを詰め込んで練り上げるのはやはり、準備期間が長く取れた初回シリーズだからこそなのです。
その中で紡がれるのは人を笑顔にすることを望み、強さと優しさを飄々とした態度の奥に秘めた男、五代雄介の物語・・・を、新人役者がやらなきゃいけないところが平成ライダーの一番厳しいところかも知れません。そして、クウガは名俳優オダギリ・ジョーと出会った幸運抜きに存在しえなかったでしょう。
いや、新人なので、そりゃヘタクソです。後のオダギリ・ジョーを知っている今から観れば、そりゃへっぽこです。でも、ちゃんと成立させてしまうだけの力を持っています。そして、オダギリが演じる五代雄介がこれだけ愛されることがなければ、最終話のサブタイトルが「雄介」になることもなかったハズです。ヒーローものとしては異例ずくめだった最終話の雄介の戦いをオダギリ以外の何ものも出来はしません。クウガが非凡な作品である理由の間違いなく一部は日本を代表する俳優の一人が主役であることに違いありません。
こうした必然と偶然の結果、奇跡のように生まれたのがクウガでした。
一度、成功してしまった後、抱える制約が大きくなってしまう後のシリーズには絶対にできない奇跡の存在です。はっきり言ってしまいましょう。平均してしまえば、平成仮面ライダーシリーズはよっぽどの好事家が薄目を開けて楽しむもので、まともな視聴者のまともな鑑賞に堪えるような番組ではありません。もちろん、いろいろな楽しみ方はありますし、平成ライダーを楽しんでらっしゃる方を貶める気は全くありません。
ただ、クウガだけがそんな前提無く、まともに観て楽しめる唯一の仮面ライダーです。子供番組の制約を全て受けて立って、それでも真正面から面白いモノを作ろうとしたスタッフの強い気持ちが伝わってくる、そしてそれが奇跡的に成功した作品です。
ディケイドがいい機会じゃないですか。アホらしくて笑っちゃうけど、なかなか楽しい番組もいいでしょう。イケメンが棒読みで戯れてるのが好きならそれもいいでしょう。
でも、クウガはちゃんと観たほうがいいです。仮面ライダーでもここまでちゃんと出来るってこと、知っておきましょう。そして、子供が観るんだから、ちゃんとここまでやってあげましょうよ。
ドラマは1クール、アニメも長くて2クール。1年かけてしっかりドラマをやるなんて、今や、オモチャに支えられる特撮ヒーローと大河ドラマだけの贅沢です。だからこそできることがあるってこと。やった人達がいるってことがステキ。
「仮面ライダー クウガ」はそんな番組でした。
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Comments
ちょっとクウガが観たくなっちゃったじゃん(;・∀・)
呪われてるぅ~(((( ;゚д゚)))
Posted by: Merble | January 29, 2009 12:20 AM
はてブのコメントにもあったけど、観たくなった人がどうやって見たらいいかっていうと、動画配信もDVD-BOXもないんですよね。レンタルビデオでどうぞ(>_<)
ライダーシリーズ初のハイビジョン撮影(放送はSD)なので、ここでひとつblu-ray BOXとかに・・・より配信が嬉しい今日この頃
Posted by: Tambourine | January 29, 2009 05:22 PM
クウガ見ちゃってます・・・。ハマリました。サンバルカンから止まっていた特撮モノの認識がハジけ飛んでます・・・。
Posted by: tahase | January 30, 2009 10:33 PM
クウガを観て気に入ったのなら、じゃあ、○○も観てみたら・・・といえないところが残念です(笑)
Posted by: Tambourine | January 31, 2009 04:01 PM
俺もクウガが見たくなっちゃいましたよ
確か小学生のときに一度見たはずなんだけど
こんなに面白い話だったかなぁ
全然覚えてなかったです
今度レンタルビデオ屋で借りてきます
Posted by: 涼 | February 03, 2009 11:23 PM
> 確か小学生のときに一度見たはずなんだけど
> こんなに面白い話だったかなぁ
お若くていらっしゃる(笑)
確かに小学生には難しい話だったかもしれません。でも、製作者の「熱」の様なものは伝わってたんじゃないでしょうか
そう言えば、最近、BS11デジタルでΖガンダムをやってます。アレは私が10歳の時なんですが、今見ると、「絶対当時はなんのこっちゃわかってなかったよな」って感じがします
Posted by: Tambourine | February 03, 2009 11:54 PM
とても分かってらっしゃる! 仮面ライダー自体がすきだからずっと仮面ライダーはみているけど、正直なとこクウガいがい微妙だと思います。
学校で僕が仮面ライダーが好きということでみんな仮面ライダーについて話してくれるけど、見方がなんか変。
OP、EDや、見た目、ベルトの機能とかだけでどの仮面ライダーが好きとかをきめられるのが、とても嫌です。ストーリーや演出をちゃんとみてほしい!電王が人気らしいけどあんなふざけすぎの仮面ライダーなんて仮面ライダーじゃない!
ということでクウガは最高。48話の緊張感すごい!最終話がとてもいい。 バイクアクションすごすぎ!
Posted by: shocker combatant | September 30, 2010 03:18 PM
shocker combatantさん、熱いコメントをども。
ふざけてる仮面ライダーも、マジメにとことんふざけてるならアリだと思うんですが、どうですか?電王は観てないのでわからないです。「今度の仮面ライダーは電車に乗る」と聞いて一度絶望したので、思いの外よかったという感想をよく聞きますね(笑)
それにしても、学校でライダーの話をできるなんて羨ましいなあ。私が学生の頃はそんな話をする人もおらず、ネットもなく・・・でしたから。
Posted by: Tambourine | September 30, 2010 05:25 PM
このエントリを書いて、はや幾年月。めでたいことにクウガの動画配信が始まりました。我が家の環境ではJ-COMさんでも、PS3でも観られるみたい。みなさま、是非に!
Posted by: Tambourine | October 16, 2011 01:36 AM
仮面ライダークウガの一挙放送見ました!
2000年に放送されもう15年懐かしい気持ちでいっぱいです。
それにしても6歳の頃見ていたのであまり理解してなくただ「クウガカッコイイ!!」としか思っていなかったのですが、ちょっとだけ大人になって見てみると全体を通して色々考えさせられる作品な気がします。
それになんか、特撮にドラマを乗っけたのではなくドラマに特撮を取り入れた作品に思えましたね~
あと、ゴ・ジャラジ・ダに止めを刺すときに思わず泣いてしまいました。
もう一度クウガみたいな何て言ったらいいのか上手く言い表せないけどこう、魅力の溢れるライダーが見たいな~
イケメンでも棒読みでも滑舌が悪くても変身するための道具が大量に出てもいいから……
ああ、別にクウガのCGを綺麗にしてBDBOXにしてもええんやで(無茶振り)
Posted by: | March 17, 2015 03:55 AM
あああ、ごめんなさい。SPAMコメントに埋もれて公開できてませんでした。
私もこの間のニコニコの一挙放送は見てました・・・が、プレミアム会員なのに時間が経つにつれ重くなってただコメントを眺めているだけになっちゃいました。くそぅ。
でも、久しぶりに観てもやっぱり面白いですよね。
Posted by: Tambourine | April 28, 2015 12:13 PM
今久しぶりに見返してます。dtvで配信してるのでいつでも見れますよ(ステマじゃないですww)!!当時小学生だった自分は、クウガとアギトと龍騎と555が凄く好きでしたが、クウガだけは(各フォームとか)鮮明に覚えていたし、自分の中でもずっと一線を画した作品です。そして再販されたS.H.figureのマイティとトライチェイサーを買って毎日写真とって遊んでます!かっこよすぎんよー。(ステマじゃry)
Posted by: 漫画版もなかなか | July 25, 2015 04:37 AM