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アーキテクチャの生態系/濱野智史

ここでいう「アーキテクチャ」はレッシグが「CODE」の中で提唱した概念で、ある社会を形作るもの、例えば、慣習や法律などと並列するものです。例えば、法律で未成年の喫煙を禁じるのではなく、タスポで買えなくするなんてのが、「アーキテクチャ」の例ですな。

インターネットの様に技術的に生み出されて、まだそれを縛る規範は法がはっきりしない世界では秩序を守るためのアーキテクチャの存在は相対的に大きくなります。「迷惑メール防止法」なんてつくるよりは、25番ポートに認証付けた方が早いとか、そんな感じですかね

筆者はこのような、あるネット上のシステム、例えばグーグルや2ちゃんねるの持つ「アーキテクチャ」がどのようなもので、結果、どのような社会が生み出されたのか。あるいは、社会に受け入れられた「アーキテクチャ」とはどのようなものだったかということを論じています。タイトルに「生態系」という言葉を使っているのは、どのような「アーキテクチャ」を持ったサービスが生き残るかということを生命の進化になぞらえているからです。ここで進化というからには、「アーキテクチャ」はサービス提供者が様々な試みをし、散々討ち死にして、ある意味、開発者の意図を越えた部分で環境(この場合、社会)に淘汰されて生き残ったものという意味を含んでいます。例えば、2ちゃんねるが1000レスでdat落ちするという仕組みは、おそらく当時のサーバリソース的に持っておけないからだと思うのですが、そのアーキテクチャが2ちゃんねるの「フロー」の性格、コピペ主義、まとめサイトなどの文化を形作ったといった具合です。

この本では、まず今のネット界を語る上で外せないグーグルの仕組み(特に、具体的に経済的な循環を起こしているのはグーグルだけと言ってもいいぐらいですから)について概観します。そして、ここからがこの本の主題だと思いますが、「グーグルに引っかかってこない世界」としての2ちゃんねるをきっかけに、mixi、winny、ニコニコ動画、初音ミク、恋空と、日本のネット界を形作っているものを上げ、それが持つアーキテクチャの特徴と、そのアーキテクチャを(進歩じゃなく)進化させた環境としての日本社会の関係を持って、日本社会論へと繋げています。そう。結局のところ、この本はネットの世界を通じた日本社会論です。技術的な本じゃないから、パソコンがコワい人でも読めます。

で、その結論的には、レッシグやハイエクが言うようなリバタリズムを支える仕組みとしてのネットって、日本じゃダメかもってなところに帰着しちゃうんです。もちろん、だから「日本がダメだ」というわけでもないですが。

本書の最後付近、「『ズレ』をはらむ日本のアーキテクチャ」から引用します。

ひとことでいえば、インターネットが自由で多様な生態系であるからこそ、この日本という場所には、「反理想的」ともいえるようなアーキテクチャが自然発生してしまうということ。いいかえれば、日本では、インターネットの「自由」と「自然成長性」に対するイメージが、(たとえば米国のレッシグが語るようには)きれいに重なることなく、「ズレ」をはらんでしまうということ。この「ズレ」の存在は、少なくとも90年代以降のインターネットをめぐる日本の言説史のなかに、常に影を落としてきました。

そうなんです。少なくともこの観点からみれば、日本は決してアメリカ的グローバルスタンダードにはないわけです。当たり前といえばそうなのかも知れませんが、なぜ日本で2ちゃんねるが「自然発生」したかということは非常に興味深い。いくら梅田望夫さんの本がベストセラーになっても、梅田さんが考える輝かしい未来を支えるサービスには決して入ってこない2ちゃんねるが、日本ではブロゴスフィアに比べ大きな影響力を持っていることも確かだし、最近も梅田さんは「書評にはてブでコメント付ける奴がバカばっか」とお怒り(私もまったく同感です^^;)ですが、はてブの影響力も小さくありません。

日本がこのまっさらだったハズの「インターネット」に何を生みだし、何を育て、そのことによって日本はどう変わっていくのか。ネットに深く接している人だったらこの本の個々のトピックはさほど目新しいものではないと思いますが、それを包括して観た上での日本社会論としては、出発になる一冊だと思います。まず議論の前提にこの一冊。お勧めです。

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