サブカル・ニッポンの新自由主義/鈴木謙介
「文化系トークラジオ Life」のメインパーソナリティ、charlieこと鈴木謙介さんの新著です。
副題に「既得権批判が若者を追い込む」とされているとおり、近頃盛んないわゆる「ロストジェネレーション」が言いがちな既得権批判に異を唱えるものです。ここでいう既得権批判は、例えば、「団塊の世代がいつまでも昭和的な価値観を振りかざしているから、俺たちに自由がない」とか「バブル世代が能力もないのに正社員でのさばっているから、俺たちに職がない」などの泥沼の就職氷河期で人格まで踏みにじられた結果、「オレラ負け組スカラ」と諦観に陥らなかった奴らが、「俺らが本当なら得られるはずだった権利を奪い返せ」と言い始めたという現象のことです。
いや、charlieは別に異を唱えるというものでもないんですね。気持ち的にはとても共感しています。しかし、そもそもの「本当なら得られるはずだった」というのは、本当に本当なんだろうかという疑問があるわけです。そしてさらには既得権批判には、例えば「俺たちにも終身雇用アゲイン!」な社会民主主義的な人もいれば、「俺らだけじゃなくて、みんな流動化すべきじゃん!」というもっと新自由主義な人もいる。ともすれば、同じ人が両方を言ったりする。これはどういうことなんだろう。こういう現象はどこから沸き立ってくるんだろうというところを、1968年にその発端を取って、高度経済成長の終わりから現在までを様々な研究を整理して説明してくれてます。
そういう意味では、この本は速水健朗さんの「自分探しがとまらない」や「ケータイ小説的。」のような、現象から一般的な社会学を導くという手法の本ではありません。様々な人の成果を丁寧に追って、整理し、時には批判的な観点を加えてくれている教科書的な本です。最終的には、現在の思想的対立を、単なる右派、左派ではなく、アナーキストとリバタリアンへと整理しています。さらに、その対立の先へも踏み込んでいます。
ま、それにしても、まず一度、この二項対立で整理してくれれば助かりますなあ。例えば、自民党がリバタリズム政党で、民主党がアナーキストだとすれば、あたしでも次の選挙で投票する意義がわかります。2大政党制って言ったって、同じ様な2つの党を並べて、「前回、あいつらは失敗したから、今度はこっち」ってのだけが政権交代する理由じゃあ、なんともつまんない。ちなみに、アナーキストというとちょっと過激に聞こえるので共産的リバタリズムとも言うんだそうです。まあ、どっちも自由主義で、小さな政府指向であることは変わらないわけですな。
そして、最後のcharlieの結論は非常にcharlieらしいというか、まず、相手にする問題はロストジェネレーションの貧困問題などではなくて、「報われない感覚」そのものなんですね。キーワードは、ネットであり、ジモトだったりというあたりは、いつものcharlieだなあという感じです。私個人は、安易な承認を目的としたライトなオタクの大量発生がオタクを死滅させたという岡田斗司夫さんの主張にも頷くので、なんだかなあという感じでもあるわけですが。
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Comments
こんにちわ。何かの拍子でたどり着いたので・・
>>俺たちにも終身雇用アゲイン!
なんてのはよく見かけますが、右肩上がりが終わった今の日本じゃ不可能ですよね。それができないから結果として今があるわけで。
>>、「俺らだけじゃなくて、みんな流動化すべきじゃん!
私はどっちかというと城さんみたいなこっちの意見に全面的に賛同してる方なので、一辺挙げられてる本も読んでみようかなと思います。あの方は「世代間の対立を先鋭化すべき」って明確に言ってますしね。個人的には、俗流若者論は、ツケを回した点は百歩譲ってよしとしても、回したあげくにクズ呼ばわりするのが気に食いませんね^^;
Posted by: 最後で最後最後の人 | November 14, 2008 10:09 AM
> 右肩上がりが終わった今の日本じゃ不可能ですよね
以前一度言及しましたが、ぶっちゃけ日本人が全員働かなくても食っていけるようになったってことなんですよね。IT革命のお陰です。だから、もう好景気が来ても単純労働の求人は増えないんじゃないかと思います。そりゃ、能力がある人材はいつの時代も欲しがられるんでしょうが、日本人全員分の仕事はもうないわけです。
> 「世代間の対立を先鋭化すべき」
そうなっていくんだろうと思いますが、ニートがやっていけてるのは、対立してる世代である親のスネ齧ってるからだったりすると何だかなって感じです。
まあ、誰しも自分の物差しでしか他人を評価できませんから、この移り変わりの速い世界で年寄りが何か言えるってことはないんですよね
Posted by: Tambourine | November 14, 2008 06:58 PM