サイエンス・イマジネーション/瀬名秀明編
昨年のSF大会、NIPPON2007で行われた、現役のマッドな科学者に研究の最先端を話してもらい、SF作家とパネルするというセッションのまとめとして出た本です。その際に、SF作家さん達は科学者達の研究に対する「アンサー」として作品で応えることが求められていて、それがまとめられているという形になっています。
さて、科学者さん達の発表ですが、これはもう間違いなく面白いです。
- ヒューマノイド
- BMI(ブレイン・マシン・インターフェース。いわゆる「脳に電極」系のこと)
- 形状から創発される動き
- パラサイトヒューマンインターフェース(人間の感覚器に干渉して、人体を操るようなインターフェース)
- 発声と言語
- 構成的リアリティとシミュレーション社会
特に、パラサイトヒューマンインターフェースが面白いです。例えば、自分の視覚を全部記録するようなマシンを作ると。で、自分の行動パターンを記憶させて、いつもと違うことをしようとすると矯正させるようなものを考えたとします。視覚の記録ってところまでは普通に想像できると思いますが、そのマシンからのアウトプットをどう人体へインプットするか。HMDの片隅に表示されるなんてのは全然面白くないわけです。例えば、耳に電極を付けて平衡感覚を狂わせれば、まっすぐ歩いてるつもりの人の軌道を動かすことが出来てしまう。これがあれば、本を読みながら駅まで歩いて行けちゃう。ゆっくりの振動と速い振動では速い方が力も強いと錯覚してしまうことを利用すれば、釣り竿のようにぐいぐいと正しい方向へ引っ張っていってくれるケータイナビができる。うーん、面白いじゃないですか
そして、アンサーとしての短編も読み応えがあります。飛浩隆さんのシミュレーション人生ものは拡張高く、山田正紀さんの「不気味の谷」ものは読むものにSFらしい驚きを与えてくれます。そして、円城塔さんは、もうSFなんだかさっぱりわかりませんが、めちゃめちゃふざけてて面白い(笑)
それにしても、こうやって最新の研究を広く一般に紹介する試みというのは大事ですね。研究の内容に広く倫理と啓蒙が関わってくる分野でもあるが故に、それだからこそ研究者は「SF作家に広く我々の考える問題定義を世に知らしめて、コンセンサス形勢に力を貸して欲しい」なんて思っていたりするらしいですが、それは研究者もSF作家も同じように持つべき社会的意義じゃないでしょうか。
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