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暴走する資本主義/ロバート・B・ライシュ

よくいいますね。「金持ちばかりが得をする」「会社が株主のほうしか向いてない」「企業は環境に配慮すべき」。最近、友人の日記で「会社は設けてるんだから税金を上げるなら、消費税じゃなくて法人税を上げるべき」なんてのも見ました。まてまて。そんなことして何になるんだ?

どうもピンと来ません。金持ちって誰?会社って誰のものなの?企業さんって、そんな配慮とか出来る人格もってるの?

この本のタイトルは「暴走する資本主義」。現代は"Supercapitalism"で、本の中では「超資本主義」と訳しています。現代は、超資本主義の時代です。その超資本主義とは何でしょうか。

資本主義の歴史の中で、一昔前の主な対立構造は、資本家と労働者でした。こういう時代には、労働者が「金持ちは!」と文句をいうのもわかります。そして、権力を持った資本家に対してその力を制限するのが、民主主義です。独占的な企業があり、労働者は安心して(?)ストをし、経営者は労働者に福利厚生を施し、そのコストは製品の価格に積みましても別に構わなかった時代です。この本では「民主的資本主義」と呼んでいます。企業が繁栄することが、国家の繁栄と等しく、資本家がまるで政治家のような権力と誇りを持っていた時代です。

ところが、変化が訪れました。冷戦が生み出したコンテナ船は、世界を股にかける安い物流を誕生させました。通信システムの急速な進歩は世界的なサプライチェーンの構築を可能にしました。土地と資本と労働力という、資本家のバックボーンを持たなくても、安価で優れた製品を生み出すことが可能になりました。金融市場の規制緩和とテクノロジーの進歩は投資家の影響力を増しました。そして、インターネットは望田的に言えば「チープ革命」なのです。

そして、権力はついに、資本家や企業の経営者から、投資家と消費者に移ったのです。そう。ぶーぶー文句たれてる私たちが権力を持っているのですよ。

私たちは、10円でも安ければ日本の労働者のことなんて何も気にせずに中国産のものを買います。近所の商店街の没落を嘆きながら、ジャスコに行きます。近所の小さな書店を懐かしみながら、Amazonでワンクリックします。どんな企業も以前とは比べもののないほどのコスト競争に晒されています。少しでも安いものを求める我々自身が、我々の経営者をギリギリと締め付けているのです。

そして、企業は株式市場の動きに以前より敏感になりつつあります。ヘッジファンドとにわかの個人投資家が、企業が業績を上げ、企業価値を高めることに猛烈なプレッシャーをかけています。CEOの給料が跳ね上がったのは、「現場たたき上げの社長」が通用しなくなり、「経営」というもののスペシャリストを株主や投資家が要求するようになったからです。そうでない経営者はたちまち株主からクビにされてしまいます。リストラを出来ない経営者をクビにするのは投資家達です。そして、彼らが運用しているお金は、我々の年金だったりするわけです。少しでも利回りのいい金融商品を探し求める我々が、我々の経営者にプレッシャーをかけているのです。

権力が、資本家から、消費者と投資家としての私たちに移った。そして、そのことが労働者として私たちを苦しめている。CEOが強欲なのでもなく、ヘッジファンドがあくどいのでもなく、リーマン・ブラザーズの社員が悪の巣窟なわけではなく、悪いのはシステムなのです。ああ、明解だ。

そして、その暴走した資本主義が、民主主義とのバランスを欠きはじめている。そして、そのことへの処方箋は・・・

てな話が書いてあります。もっとも、基本アメリカの話なので、ロビイストがどうとか、その辺はよくわかりんせん。ただ、理由が世界的なサプライチェーンの構築と情報革命なので、この傾向は世界中のどこでも変わらないわけです。給料が上がらないことを嘆いているなら、牛丼が値下げしたことを喜んでいてはいかんということです。そんな身勝手な話はないわけです。

そもそも、我々が何かを買うときに、中国で作られたものと日本で作られたものを価格で比較して選んでしまうということは(それ自体を悪いというのではないですよ)、それはつまり、我々が提供する労働力自体も中国人との競争に晒されているんだから、中国人の生活水準に我々が引っ張られていくのは当たり前ということなわけです。世界はフラットになりつつあるわけだから。もっとも、中国人の生活水準だって我々に引っ張られるわけで、日本の高度成長期なんて目じゃないスピードで追いついちゃうに決まっているわけですが、そこは中国はなんせ貧しい人が文字通り死ぬほどいるわけで、なんとも恐ろしい。

しかし、システムの問題で、しかも、世界中を巻き込んだシステムの再構築が必要って話ですから、果てさて、人類はこの先、どんな壁にぶち当たって、どんな選択をしていくのかというのは、なかなか恐ろしいものです。とりあえず、「格差社会がヨクナイ」とか、大脳が萎縮した脊髄反射の持ち主は、すべからくこの本を読むべきですね。なんの解決にもならないけど、理解することが第一歩ですから。

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