F1GP #11 ハンガリーGP
ハンガロリンクと言えば、昔はつまらないサーキットの代名詞でした。モナコも低速のストップ・アンド・ゴーですが、それはモナコは別格として1960年代から変わらないレイアウトでレースを行っている、いわば、例外サーキット。かれこれ30年近い開催を続けているハンガロリンクも、半ばそんな雰囲気を漂わせかけています。ヨーロッパ諸国のサーキットが近代化と低速化を義務づけられ、オールドスタイルのサーキットが次々に姿を消している中、唯一の東欧でのグランプリであることと、もともと低速のサーキットであったことが、ハンガロリンクが今も20年前とほぼ同じコースでF1を開催している理由です。
ただ、F1マシンの性格の変化が、例えばスパ・フランコルシャンのオー・ルージュをただのストレートに変えてしまったことを裏返すように、徐々にハンガロリンクのレースを面白くしているようです。ハンガロリンクとしてば極まれなウェットレースとなって、ホンダ第3期初(そして、今のところ唯一)の勝利をもたらせた2年前のレースあたりから、ハンガロリンクのレースはそれなりに面白いGPになりました。
ハンガロリンクは低速のサーキットですが、だからといってそれはドライバーやマシンにとって楽なレースを意味しません。通常、ドライバーの心拍数はコーナリングで200前後まで跳ね上がり、ストレートでジョギング程度まで戻るものですが、細かいコーナーが続くのでそれほど休めるポイントがありません。ましてや、夏のレースですからモノコックはサウナ状態。座っているだけで大変です。マシンもエンジンを長時間のフル回転にさせたり、(例えば、カナダの様な)強烈なブレーキングがあるというわけではありませんが、長いストレートがないということは、クーリングの時間が短いということでもあり、決してマシントラブルが少ないレースでもないんですよね。
さて、そんなハンガロリンクでの今年のレースのポイントは
- ライコネンのやる気?
- マッサの自信
- ハミルトンの持病
- 給油トラブル続出
- 躍進のトヨタ
- おめでとう、コバライネン
というところでしょうか。
さて、ここ数戦調子のあがらないライコネンですが、もともとライコネンとストイックなハッキネンとは対照的なドライバーです。ラテン気質ってわけではなく、「アイスマン」とあだ名されるほど仕事場では喜怒哀楽を前に出さないタイプですが、マクラーレン時代に何度も注意されていた様に、プライベートでは酔っ払ってハメを外してしまう人。マシンに対しても改善をチームに強く働きかけるわけではなく、「それはチームの仕事、オレは走らせるのが仕事」といった感じが強く、典型的なドイツ人だったミハエルとも全然違うタイプです。
かっとなって冷静さを失いミスをする・・・なんてことはないものの、どんな車でもその車の最高のポテンシャルを引き出せるのに、それでも勝てないとなるとそれなりの働きしか出来なかったりします。こういう気分が乗ってないときのライコネンはただのそこそこ速いドライバー。ただ、明確な目標があって全力を尽くせばそれが達成できると自覚したときのライコネンはスペシャルなドライバーになります。そういう意味では、どんな状況でも沈着冷静、かつ100%を出し続けられるミハエルとは違いますし、吹っ飛ぶギリギリをどんな状況でも出せる熱い固まりを内蔵しているアロンソ、ノリにノッていると誰にも止められないけどダメなときは2流どころか、3流ドライバーにまで落下するマッサとも違います。このレースも終始、パッとしないままですが自信はあるようで「チームが問題を解決すれば追いつけるし、ダメなら、まあしかたないんじゃないの?」といった感じ。
さて、イギリスで3流に足を突っ込みかけたマッサですが、今回のグランプリは1流のほうのマッサでした。予選は3番手で、マクラーレンの2人の後塵を拝したもののなぜかインタビューで「俺たちは速い」宣言。どこからその自信が・・・と思っていたら、素晴らしいスタートと勇気あるアタックでポールのハミルトンを1コーナーでぶち抜いてガンガンとトップを走っちゃいます。いやあ、素晴らしいスタートで、どうにもマッサは評価が定まらないドライバーです。
油断をしていたというわけでもないんでしょうが、そんなマッサにいきなりぶち抜かれたハミルトン。ドイツGPでマッサを抜いて優勝し、「いやいや、マッサにだったら抜かれなかったけどね」とインタビューで言った次のGPでいきなりぶち抜かれるという、なんというか、ナイスなパフォーマンスです。今回のマッサはちょっと止められない感じでしたが(エンジンブローで自分で止まるわけですが。もしかして、噂どおりフェラーリってこっそりエンジン開発続けてる?)、それでも2位につけていればチャンピオン争いという意味ではそれほどの問題ではないですしね。そもそも去年は初優勝の前までも堅実な戦いでランキングトップだったんですから。
ところが、突然のパンク。もう、ハミルトンといえばタイヤトラブルというのがつきものの様になってしまいました。前回のレースでもセーフティカーでピットインしなかったのは、タイヤトラブルが怖かったからじゃないかと想像しましたが、今回は見事に発生してしまいました。そして、予定外のピットインでソフトタイヤに変更。燃費の問題やらなんやらあったのかもしれませんが、やはりタイヤ交換後は精彩を欠きました。もし、今がブリジストンのコントロールタイヤではなく、例えば、フェラーリとマクラーレンが別のタイヤメーカーと組んでチャンピオン争いをしていたとしたら、おそらくハミルトンは自分の走りにあったタイヤを用意して貰えたんだと思いますが、今のコントロールタイヤはハミルトンに合ってないのかもしれません。
タイヤのトラブルが出たのはハミルトンだけでしたが、給油のトラブルは多発しました。やたら、給油でボヤが出ます。多少こぼしただけでも、暑いのですぐ気化してエンジンルームの熱気に当たれば引火してしまいます。ただし、メタノール燃料のために燃えても炎が見えないインディーカーとは違って、ガソリンは炎が見えるためちゃっちゃと消してしまえば問題なく走れてしまうもの。あまり長い間燃えていると電気系にダメージが入ったりするんでしょうが、以前、火災になったときにミハエルが消化器から消化剤を浴びて、そのまま平然と走り続けて以来、燃えてもそれほど大あわてはしなくなりました。でも、やっぱり見ていて気持ちのいいものじゃないし、大きなトラブルになる前にちゃんとして欲しいですよね。
さて、トヨタが俄然目立ってきました。というのも、優勝争いから外れている他のチームは、レギュレーションが大きく変わる2009年用マシンの開発に徐々に軸足を移しつつあるわけですが、トヨタはまだ日本GPを控えているために今年のマシンの開発もまだまだやっているからのようです。去年の日本GPではレース内容もぱっとしませんでしたし、それ以上に富士スピードウェイでのレース運営で大きな批判を浴びました。来年の日本GPは鈴鹿ですから、やはりお膝元での日本GPでいいところを見せたいでしょう。この調子でいけば十分にチャンスはありそうです。グロッグも徐々に予選順位が上がってきたのがいいですよね。今回は棚ボタの2位とはいえ、マクラーレン、フェラーリのすぐ後、5番手のポジションにちゃんといたことは確かです。現状、その上というのは難しいでしょうから、今回のように上位4人のうち2人に何かあれば表彰台。それが狙えるポジションをなんとか維持して欲しいです。チャンスだ、トヨタ!
最後に、コバライネン、初優勝おめでとう。しかし、まだ上位4人の中で一番下の評価は変わらないと思います。アロンソ、クビサ、ロズベルグ、ウェバー、ベッテルあたりの実力者と比べて肩を並べるところまで、まだ、あと少しあります。頑張れ!
「スポーツ」カテゴリの記事
- 最近のF1はつまらないのか(2019.06.29)
- 稀勢の里と照ノ富士について思うこと(2018.12.01)
- F1.2グランプリ 2018前半戦(2018.08.02)
- トヨタのル・マン優勝の意義(2018.06.24)
- F1GP 2018#1 オーストラリアGP(2018.03.26)
Comments