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解読! アルキメデス写本/リヴィエル・ネッツ,ウィリアム・ノエル

以前、本文批評の本を読みました。「捏造された聖書」という本で、聖書を写本という形で伝えていく過程で含まれる誤りについての本でした。

今度も写本についての本です。今度は「アルキメデスのパリンプセスト」についてです。

まずは、アルキメデス。言わずとしれた古代ギリシャの大数学者です。風呂に入って「ヘウレーカ」と叫んだ人?そう、それです。でも、多分、実際にはそんなことしなかっただろうと言われてます(笑)

そんなアルキメデスさんにはいろんな伝承が残っていて、いろんな発見をしたといわれていますが、実際にアルキメデスの著作というのは誰かにあてた手紙です。シラクサにいたアルキメデスが、友達に「こんな事を発見した」と手紙に書いて出したものです。そして、そんなアルキメデスの著作の写本(当時、コンスタンティノープルに所蔵されていた)は、3冊しか確認されていません。それらはA写本、B写本、C写本と呼ばれてます。A写本とB写本を用いて、ルネサンス期のダ・ビンチやガリレオはアルキメデスを学びました。しかし、A写本は16世紀、B写本は14世紀に行方不明になりました。そして、1998年にC写本がクリスティーズで競売にかけられます。この本が、「アルキメデスのパリンプセスト」です。

パリンプセストというのは、一度使った羊皮紙の表面をこそげ取って、その上に新しく文字を書いたもののことです。再生紙ですな。「アルキメデスのパリンプセスト」は、アルキメデスのC写本に使われていた羊皮紙からアルキメデスを消して、上から祈祷書を書いちゃったものなのです。おーまいがー

さて、そんなパリンプセストを高額で買い取った、とあるお金持ちがいました。それを聞きつけたとある博物館の学芸員であるウィリアム・ノエルは是非、パリンプセストを展示させて欲しいと申し出ます。ところが、このお金持ち(本書では名を明かさず、ミスター・Bと呼ばれます)、ノエルにこの写本の解読プロジェクトを任せることにしたのです。さあ、大変。ノエルは、古書、希少書のプロですが、アルキメデスとピタゴラスの違いもわかりません。

それが、この本の奇数章、写本の歴史と解読プロジェクトの進行についてドキュメンタリータッチで綴るパートの著者ウィリアム・ノエルです。ノエルのパートは自らを「陽気な男だ」というとおり、困難なプロジェクトを束ねる立場にありながら、どこか軽やかに、楽しげに記述してくれます。まさに、学芸員としては一流の証でしょう。そもそも、羊皮紙ってどんなものなのか。写本とはどのようにして作られるのか。パリンプセストにするとはどういうことなのか。この写本はどこで作られ、どこでパリンプセストにされ、なぜ20世紀末にぽっかり表れたのか。パリンプセストはこれまでどう扱われてきたのか。貴重なのか、そうでもないのか。パリンプセストから写本の文字を読むのは難しいのか。不可能なのか。どんな技術が試され、用いられているのか。これは、文句なく面白い!

しかし、ノエルは数学はさっぱりわからないわけで、いろいろとツテを頼って古代ギリシャ数学の専門家を探します。そこで登場するのが、スタンフォードのリヴィエル・ネッツ。処理された画像からアルキメデスが何を書いているのか読み解いていくのはネッツの仕事です。

偶数章は、そのネッツが書いています。アルキメデスの当時、数学はどう扱われていたのか。それは現代の数学(特に、ニュートンやライプニッツが作り上げた数式を用いる微積分学)とはどう異なっているのか。そして、今回の発見が我々がアルキメデスと古代ギリシャ数学について知っていたことをどのように広げ、あるいは覆したのか。それは現代的にどんな意味があったのかを軽やかに語っています。正直言って、微積分学のコンセプトを理解していないとちょっとこのパートの真髄を味わうのは難しいかもしれませんが、設問のテーマと雰囲気は中学校までの幾何学で十分わかります。高校で微積分を習っている(そして、まだ覚えている)人は、無限小とlimitを用いた計算なしに鮮やかな手法でアルキメデスが曲線や立体の求積をする様を見て、是非、驚嘆してみてください。

いやあ、これは面白い話ですな!

ちなみに、パリンプセストの画像化の部分はスペクトロスコピー(分光学)の話なので、私はある意味、昔取った杵柄。「んあ?播磨のSpring8にでも持ち込んで走査X線分光でもすればいいんじゃないの?」と途中で思ったら、最後はまさにSLACに持ち込んでたので、やっぱりなと思ったり(笑)

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