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オタクはすでに死んでいる/岡田斗司夫

岡田さんがロフトプラスワンでやった「オタク・イズ・デッド」というイベントの書籍化です。岡田さんが会場で感極まって涙を浮かべたという話が伝わっています。ご存じの通り、これ以降の岡田さんはオタキングとしてのオタク文化の喧伝、評論などから路線変更し、オタクとして鍛え上げられた視点を他の分野へ向けることで「世界征服は可能か」「いつまでもデブと思うなよ」などでヒットを飛ばしています。

まあ、ダイエット本はちょっと売れすぎだとは思いますが、本来の岡田斗司夫というのはこういう分析的な評論に定評がある人であり、いい加減アニメ界もオタク業界もつまんなくなってきたので、岡田さんのこの路線変更はファンとしては歓迎です。

という、きっかけのような本ですが、イベントから2年。ついに書籍かされました。

イベントでの発言をほぼそのまま収録した同人誌を買って読んでいたので、内容は知っていました。ここで描かれる「オタクであることがアイデンティティである」というオタク第3世代の分析はあまり釈然としない(し、私も今の若い世代のオタクの特徴を掴みかねているところもある)んですが、「オタク第1世代は貴族主義、オタク第2世代はエリート主義」というのは実感としてよくわかります。私はまさに第1世代に「ガンダム好きか。ほな『宇宙の戦士』は読んどけ」と言われて勉強した生粋の第2世代ですからね。「オタクの教養」なんて言葉が大好きです。

逆にオタク以外が読んで面白いのか、正直言ってわかりません。ところが、この本にはイベントで語られなかった部分が最後に付け加わっています。それが第8章「オタクの死、そして転生」です。

オタク第3世代を、自分を楽しませてくれるものだけを追い求めてそれを自分の内面の構築材料にし、外部との関わりに興味がない「自分の気持ち至上主義」と呼んで、この集団の誕生を高度成長時代の「昭和の日本」から不況が続き明日が今日よりよいとは思えない「平成の日本」へ社会が変わったことによって生み出されたと分析しています。この辺りは、以前紹介した「自分探しが止まらない」や、その他のいわゆる「ゼロ年代カルチャー」の分析にも通じるところがあります。

その上で、明日が今日よりよくなると思えない日本では「みんな大人になりたくないと思っている」として、それは仕方がないことだ。オタクの世界に依らない事だと綴っています。すぐキレる親、病的なクレーマー、過剰に謝罪を追い求めるワイドショー、健康と美容とグルメを無様に追い求めるシニア達・・・。自分たちは面白いものを選ぶ。自分たちは面白いものを育てる。自分たちは面白いものを学ぶ。自分たちは面白いものを自ら作る。こんな古い世代のオタクがみんな死に絶えたわけではないですが、もう「オタク」はそういう人達の集まりではない。それと同じで、今でも謙虚と思いやりと美意識のもとに生きていた日本人が死に絶えたわけではないけれど・・・みんなガキみたいな恥ずかしいことを平然というようになって、それをみんなおかしいと思わなくなっている。

それでも、岡田さんにしては珍しく「大人になろう」と呼びかけます。

自分の「純粋さ=子供な部分」を守るのは、自分自身の「大人な知恵と生き方」です。

日本人全体に呼びかけます。言葉は優しく、視線は冷たく。

「誰にでもある子供の部分は、他の誰かの大人な部分が面倒みてやるしかない」

家族や恋人や同僚や、上司や部下や、それどころか電車で同じ車両内にいるだけかもしれない、見知らぬ誰かの「子供な部分」というのは、その場にいるあなたの「大人な部分」でケアしてあげるしかない。その代わり、あなたの「子供な部分」は自分では気付かない、いろんな人たちの「大人な部分」できっと保護してもらえる。

もちろん「誰かのケアをするのは損」でしょう。損が嫌だから、面倒は見てもらうけど見たくはない!その気持ちもわかります。

「見てもらった分だけ返すならいいんだけど、どうせ損をするだけ」

ハイ、その通りです。

でも、そういう「一方的な損を引き受ける覚悟」を大人と言うんですけどね。

「一方的な得だけ、要求する根性」を子供っぽい、と言うんですけどねぇ。

この本は、「最近、オタクやっててもつまらなくなったよなあ・・・みんな今の状況をどう捉えてるんだろう」という寂しい第2世代オタクである私に取って「うん、もうキミらの好きだったオタクの連帯は、もうここにはないんだ」と、誰あろう岡田斗司夫に言われてしまったという意味でそれなりに大きな意味のあった内容ですが、この最後の1章によって今の日本人全体に取って、価値のある言説になっていると思います。

ま、読んで意味がわかるかはおいといて(笑)。実感としては、やっぱわかんないんだろうなあ

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