リベルタスの寓話/島田荘司
夏に読んだ「ネジ式ザゼツキー」がとても面白かったので、本屋で見かけた時に購入しちゃいました。文庫になるの、待てませなんだ・・・。この装丁が非常に格好良かったからというのもありますけどね。
というわけで、「メフィスト」に載ってたらしい中編2本が収録です。どちらもユーゴの内戦がテーマ。たった10年前に、これほど悲惨な戦争がヨーロッパのど真ん中で起きていたなんて・・・当時はニュースでも盛んに取り上げられてましたけど、正直、記憶からはかなり薄れていました。
表題作は、そんな戦争の傷跡が癒えつつある旧ユーゴを舞台に起こる猟奇殺人の謎。犯人と動機はすぐ提示されるんですが、不可能犯罪と奇怪な所行の謎をまたも遠い北欧からなんかすごく忙しそうな御手洗が安楽椅子探偵として解決しちゃいます。なんだかあんまり登場しませんけど、まあ、いいか。
被害者は犯罪組織のリーダーなのですが、物語の途中でこの犯罪組織が遠くセルビアから日本のMMORPGのRMT(リアルマネートレード。ゲーム内通貨を現実の金銭でやりとりすること)を資金源にしてることがわ狩るんですが、RMTの構造やゲーム内インフレの影響などが描かれてて、「島田荘司、アンテナ広いなー」と感心してしまいました。MMORPGをやらない人にMMORPGのおかしな話としてゲーム世界の市場経済と現実との関わりについて、よく話すのですが、おもしろがってはくれるもののなかなか実感としてピンとこない上の世代の人もけっこう居ますからね。
もう一方の作品の方は、我らが石岡君が主人公。相変わらず忙しそうな御手洗に電話で邪険にされて、隅でしゃがんで泣いちゃうところがらぶりぃ(笑)。でも、ちょっとだけネタバレに触れると、御手洗はなんで木の上にアレがあることがわかったんだろう?あれ~??
というわけで、なかなか密度が濃く(昔の島田荘司だったら、3倍ぐらいの厚さにしちゃったかも)、面白かったです。少なくとも御手洗潔シリーズのファンなら大満足でしょう。そうじゃない人も、文庫になったら買っちゃえ!
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