アラビアの夜の種族/古川日出男
SF大会の大森望さんのセッションでもお勧めの本として最初に上げられていて、かねてから読みたいと思っていたんですが、めずらしくドック(仮名)が向こうから連絡してきて、「文庫になったよ」と教えてくれました。というわけで、さっそく購入して読了。3分冊になって、単行本と値段があんまり変わらないきがするのは、たぶん気のせいです。
さて、大変長い話で三部構成のそれぞれに主人公がいて、最終的に相まみえるというなかなか簡単には説明のしづらい話です。メインのお話も劇中で語り部が語る物語であり、また、その語り部も劇中での真実を語っているのか、でっち上げを語っているのかわからず、それを本に編む者の意図も見えず、その目的も判然とせず、外側の話もどこまでが本当なのか、全部嘘なのか。そして、本のあちらこちらに入る、まるで原作があるかのような訳注もどきの注釈。さらに、あとがきまでが嘘まるだしというような、なんともはや、すごい小説です。
実は、着想としては古川さんは昔、ウィザードリーという3DダンジョンRPGのノベライズをやっていた人で、もともとのアイデアはそういうゲームの世界を緻密に組み立てていったらどうなるかということの様です。そうみれば、なるほど、魔王を倒しに剣士と魔術師が二人パーティを組んで行く話といえば、まあ、それだけと言えなくもない(笑)。
劇中の登場人物の、アーダム、ファラー、サフィアーンの三人もそれぞれが魅力的なキャラクターですが、その裏で暗躍する蛇神ジンニーアも魅力的。というか、コイツは何がしたかったんだろう。かなり奔放なキャラクターです。若い姫に取り憑いて、自分が乗り移る対象にするために霊能の強い人間との子供を作ろうとするんですが、取り憑いている姫にファラーが「魔王アーダムを倒しました」とアーダムのミイラ化した屍を持って参上したところ、
「まあ!ミイラはちんぽこも枯れ果ててますのね!」
それから、御簾を通してですが視線を上げて殊勲者のファラーにむけ、
「あなたはどうかしら? あなたのちんぽこは元気いっぱい、みずみずしいんですの?」
「は?」
いいな、こいつバカで(笑)
さて、この本。その筋はかなりヘンテコながら、一応、それっぽく剣と魔法の世界なんですが、クライマックスはこんな問いで語られるのです。
それでも-私は問います-著者とその作品は、書物は、どちらが勝つのでしょうか?
はてさて、どうでしょうねぇ。そして、古川さんはこの一文に何を込めたのか。読んでて、ちょっと痺れてしまいました。
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