秒速5センチメートル
新海誠監督の最新作。たった一人でこれほどのクオリティのアニメーションを作ることができるんだということが、まず驚きを与えた「ほしのこえ」。そして、その「ほしのこえ」を作った監督の初の長編作品として評判になった「雲のむこう、約束の場所」。そして、新海誠監督の知名度がある程度(アニメファンの間では)の定着を見せた上で、その手法や業界内での特異な位置をいったん評価の対象から抜いた上で、本当の意味での新海監督の世界が問われることになったのが、今作の「秒速5センチメートル」ではないでしょうか。
・・・と、業界の俯瞰を訳知り顔で書いてみたわけですが、実は「ほしのこえ」も「雲のむこう~」も見ていないのでした。わはは。いや、そのうち見なければ・・・と思っていたんですが。でも、なぜかこの「秒速5センチメートル」というタイトルには、新海監督の"色気なしの部分"を感じて、思わずDVDを買ってしまったわけです。色気というのは、SFの部分であったりとか、あからさまにセカイ系なところだったりです。
さて、この作品は山崎まさよしさんの"One more time, One more chance"という曲が主題歌ですが、この作品にとってこの曲は単なる主題歌以上の意味を持っています。"One more time~"は1997年の曲です。今から、丁度10年前の曲。私が山崎まさよしの存在を知った曲でもあります。
「いつでも探しているよ。どっかに君の姿を。隣のホーム、路地裏の窓。こんなとこにいるはずもないのに」。誰かを好きになってその気持ちを拭えないままに別れた人なら誰でも、つまり、世界中の誰でも、この曲に共感を覚えない人はいないと思います。ふと街で顔を上げたときに目に入った後ろ姿に、まさかと思いながらも彼女ではないことを確認しに追い越してみる。きまった髪型の女性を見かける度に、自分のなかで期待している顔があることに気づく。曲のすばらしさもさることながら、歌詞の世界が持つせつなさに身を震わせて感動したことを覚えています。そして、決して幸せな世界の曲ではないですよね。
「秒速5センチメートル」は、3話の短編作品を束ねた構成になっているのですが、このうち、第三話「秒速5センチメートル」は、ほぼ前編が"One more time~"のPVと言ってもいい構成になっています。したがって、第三話はストーリーもほとんどなく、"One more time~"の曲にあわせて、ただひたすら曲の持つ世界がモンタージュで展開されます。そして、主人公はどういう人生を送り、何を得て何を捨て、何をすり切らせ切った上で、誰の姿をどこに追い求めているか。それを説明するために、わざわざ、第一話「桜花抄」、第二話「コスモナウト」が存在する。そんな構成になっています。
結局のところ、"One more time~"の世界、いや、"One more time~"を聞いて私たちが共感し、切なくなるその感情というのは、ちょっとみっともないものです。特に、30過ぎの独身男の場合は間違いなくそうです(笑)。山崎まさよしは「奇跡がもしも起こるなら」と歌いますが、奇跡的に自分の心に住むその相手に街で偶然出会えたとしても。
「そしてある朝、かつてあれ程までに真剣で切実だった想いが、きれいに失われていることに僕は気づき、もう限界だと知ったとき、会社を辞めた」
その想いは失われているが故に、自分を苦しめるのでしょう。あー、後ろ向きだねぇ(笑)
結局の所、"One more time~"へのオマージュとそのための最大公約数的なベタな物語があるだけなので、ストーリーや設定的に見るべき所は余りありません。ただし、ベタをベタに丁寧に、点描のごとく、楷書のごとく、デコレーションケーキのごとく、巧みの演出が描き切ります。この演出力は並大抵じゃないです。カットの切り方、カメラの回り込み方、パンアップの角度、雪の落ち方、画面の明るさの変化、すべてがカンペキ。その膨大な演出力が、最後に山崎まさよしの歌声に収束していく快感は、圧巻といえるでしょう。新海誠、恐るべし。
ただし、これまで指摘されて来ている作家としての「世界観の小ささ」、ま、つまりセカイ系ってことですけど、それは課題として残ったままでしょう。でも、あくまで課題。この作品の欠点ではないです。この監督の才能の元で懐の大きな作品を見てみたいという願望と言ってもいいかも知れません。それはもしかして、新海監督が他の才能と共に作品を作ったり、何らかの制限の下での制作(例えば、スポンサーにオモチャ会社がついたロボットものを作るとか)であったりするときに産まれるのかも知れません。ただ、私としては、このセンスが失われてしまうのもイヤですけど。うーん・・・あらゆる意味で、次回作にも多大な期待を持ってしまいます。
ちなみに、まだ限定生産版の特典ディスクはみていません。封入されていた劇場フィルムのカットはこの場面でした。
綺麗ですねー
(追記):超映画批評でも高い評価をされていたんですけど、
『秒速5センチメートル』は、かつて愛した女性をいまでも忘れられないすべての男性にオススメする、日本アニメの傑作。男は女よりずっとロマンチストであ り、センチメンタルなもの。仲良しの女の子へ久々にメールしたらあて先不明で戻ってきたとき、そんなことを考える私のような人は、本作を見てそのせつなさ にぜひ涙してほしい。
そうか、女の子にはわからないのかもしれないなー。
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