ネジ式ザゼツキー/島田荘司
久しぶりに読む御手洗潔シリーズ。好きなんですよ。そして、この「ネジ式ザゼツキー」は今までの御手洗シリーズの中でも指折りです。
お話しはスウェーデンで脳を研究している御手洗のところへ、ある記憶障害の患者が訪れるところから始まります。その患者は、人生のある時点からの記憶を失っていて、今なお、長期記憶が行えず、御手洗に何度も「初めまして、ドクター」と言ってしまいます。
そんな患者さんには、ここが自分のいるべき場所ではない。どこかへ帰らなくてはいけないという思いに囚われていて、その思いが「タンジール蜜柑共和国への帰還」という童話を書き上げさせています。途中で、この「タンジール蜜柑共和国への帰還」が1章分まるまる挿入されます。蜜柑の木に住む妖精がマーマレードを作り、右手のない少女が肘の骨を持った主人公と腕を取り返し、最後は少女は撃たれ、ネジ式の首が外れるというナンセンスな物語です
これだけの材料から、御手洗はここに殺人事件が潜んでいることを読み取り、そして文字通り部屋を一歩もでることなく事件を解決するのです。ああ、本格ミステリー万歳。
最後、ちょっと強引なところが惜しいんですが、中盤の「タンジール蜜柑共和国への帰還」の謎解きのあたりは圧巻。ぐいぐいと読ませます。面白いなあ
島田荘司は、今や「メフィスト世代」から見れば新本格の初期の作家で、早くも古典と言ってもいいポジションになりつつあるわけですが、こうやってイカす新作を今も書き続けていて我々も楽しみにそれを読めるというのはすばらしいことですな
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