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コミュニティの内と外

RubyのML(ruby-list)に「コミュニティと宗教の分離について」と題したメールが投稿されました。

投稿者はBeyondさんという方で、http://www6.big.or.jp/~beyond/akutoku/というサイトを運用されている方だそうです。

Beyondさんの主張は、Rubyの作者であるまつもとゆきひろ(Matz)氏がモルモン教徒であることを、rubyist.netという、いかにもRubyと関係がありそうな(そりゃ、あるんだけど)ドメインにある日記で表明するのはどうかということのようです。

メールにある主張をそのまま載せると

これは、元々2ちゃんねるのRubyスレで始まった議論ですが、私は
a) rubyistドメイン上で、
b) 作者が、
c) カルト宗教団体とみなされる事の多い団体の
d) 宣伝活動を、
e) たとえ日記と言う形においてでも行うことは、
f) Rubyの発展にとっては阻害要因にしかならない。
と思います。

だそうです。( b)はもともと「メイン開発者が」でしたが、訂正されています)

私はそもそもモルモン教ってものがどういうものかを知りませんからなんとも言えませんが、Beyondさんがモルモン教に対してかなりの危機意識(「批判したら殺されるかも知れない」とまで書いている)を抱いているようです。

正直に言って、Beyondさんの主張は感情的で論理に一貫性を欠くところもあるんですが、これは、つまりRubyがMatzの私物であってはいけないという主張ですから、ちょっと考えさせられてしまいます。

ちなみに、この投稿に対してのまつもと氏の返答は、

  • rubyist.netはまつもとゆきひろの私物であり、ruby-lang.orgはそうではない
  • rubyist.netにまつもとの日記があることが問題であれば、私以外のひとが利用をやめればよい

というシンプルなものです。

さて、Beyondさんのそもそもの主張の是非にも言いたいことはありますが、結局の所、これはRuby(や、他のOpen Source Project)の多くが採用している「優しい独裁者制」をどこまで認めるかに関わっているわけです。RubyがどうあるべきかはすべてMatzが決め、コミュニティはその独裁の下で活動するが、それはMatzは知性と理性のもとに物事を判断すると全員が信頼するというのが、「優しい独裁者」というモデルです。

そもそもがこのモデルの下にいると、そもそもまつもと氏がどんな信仰を持っていようが、「Matzは理性的だ」と考えているわけで、例えば、いきなりまつもと氏が「モルモン教徒以外にはRubyを使わせない」とか「インタープリターが実行されるたびに聖書が引用させるようにしました」とか言い出さないと知っているし、なら別にかまわないじゃないかという事になります。

Beyondさんは「いや、みんながみんなそうじゃないよ。Rubyの作者がモルモン教徒だっていうだけで嫌がる人はいるんだから、わかんないようにしとこうよ」って言ってるわけですが、それは要するに、上の「優しい独裁者」とまつもと氏を見ていない人のことを指して心配している訳ですね。

一人のRuby愛好者として、Rubyをもっと多くの人に使って欲しいという気持ちは常にあるんですが、まつもとゆきひろ氏や他のRubyist達が、「まつもとはカルト宗教の手先だから、Rubyを使うのはやめておこう」と思うような人(ここにはBeyondさんは含まれないのです。念のため)にまで、Rubyを使って欲しいかどうかは疑問です。

でも、例えばLinuxはそういうことを心配するレベルになってるかもしれません。Rubyにそうなって欲しいかは、複雑な気持ちですね

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Comments

> RubyがどうあるべきかはすべてMatzが決め、コミュニティはその独裁の下で活動するが、それはMatzは知性と理性のもとに物事を判断すると全員が信頼するというのが、「優しい独裁者」というモデルです。

これには前提があって、それはRubyがオープンソースだということです。たとえMatzが何か思い違いをしたとしても、その時点でRuby++が(理論的には)作れるというのが「優しい独裁者」コミュニティとなれるポイントだと思います。

以上、話の主題とは外れていますが一言だけ。

Posted by: nac | May 24, 2006 05:16 PM

Yes.現実として、forkしたオープンソースのプロジェクトもいくつかあるけど、あんまりいい話は聞かないよな。ただ、forkしないコツも、誰かのキャラクターを全面に押し立てる「優しい独裁者」にあるんではないかとも思う

Posted by: Tambourine | May 24, 2006 05:58 PM

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