人間をお休みしてヤギになってみた結果/トーマス・トウェイツ

その昔、トースターを作るのに鉄鉱石を入手するところから始めるプロジェクトで人々を感心させ、そして呆れさせた彼の新しいプロジェクトが届きました。知らない人は、彼のTEDを見れば10分でおおよそ理解できます。

いや、すいません。前作の「ゼロからトースターを作ってみた結果」の方は読んでないんですけど。面白い試みだと思いましたが、1つずつのトピックとしては、まあ、だいたいは知ってるかなと思ったので。

このトーマス・トウェイツさんは、一言で言えば現代芸術家です。彼が研究者やノンフィクション作家だったなら、例えば「トースターはすごく安く買えるが、それは21世紀の文明ありきで、それなしに作るとしたらどうなるのか」ということを調べたら、それについて本を書けば仕事は完了です。数年前に話題になった「この世界が消えたあとの科学文明のつくりかた」はそういう本です。しかし、彼は芸術家なのでモノを作らないと意味がありません。

言うなれば、明和電機さんと同じカテゴリーの人ですね。ある思想やテーゼをマシーンとして形にして、人を感心させたり、笑わせたり、呆れさせたりするのが、明和電機。絵画・彫刻に限りませんが、何らかの造形物やパフォーマンスの形まで作り上げるのが、彼らの仕事です。あのトロけたトースターは博物館入りしたそうですよ。

しかしながら、現代芸術家の生活はそんなに楽ではありません。学生時代にトースタープロジェクトがヒットしたこともあって、デザイナーとしてひとまず食うには困らないだけの仕事はもらえているものの、定職もなく、姪っ子の犬を散歩させながら通勤ラッシュの人々をカフェから眺める33歳の男。このままでいいのだろうか。将来が不安だ。この苦しみから逃れたい。

「そうだ、人間をお休みしよう。動物になろう」

いやいやいや、何言ってんのトーマス。しかし、新しいプロジェクトを思いついちゃったから企画書書いてみます。「四足歩行を可能にする外骨格を作成し、草食を可能にする人工胃腸をつくり、脳内の記憶中枢と言語中枢をカットして、<ゾウ>になってアルプスを越える」って、そんなプロジェクトに誰が・・・なんと医学研究支援団体から資金提供が。やるんですか。書いてあることのどれ1つ取っても第1線級の研究テーマだと思いますが・・・。

しかし、そこは芸術家ですからね。やるしかない。芸術家だから、そこに科学的な正しさや新規性、検証可能性などは必要ない。でも、実際に自分でやらないと芸術にはならないわけです。

というわけで、到達しているポイントが表紙の写真です。だいぶ仲良くなってます(笑)。

まあ、申請書に書いちゃったからしょーがないってのもありますけど、相当いろいろやってます。章立てを見ると、彼の真剣さがよくわかります。

  1. 思考
  2. 内蔵
  3. ヤギの暮らし

1章でシャーマンに会いにコペンハーゲンに行き(ゾウなんて馴染みない動物じゃなくてヤギになりなよというこの本のコンセプトに関わる助言をもらう)、2章で神経学者に会いに行き(側頭葉に強磁場をかけてもらう)、3章で動物学者兼義足装具士に会いに行き(延長前肢とハイソールを作ってもらう)、4章で草食動物の胃腸の研究者に会いに行き(ヤギの体内微生物を自分に移植するのは絶対やめたほうがいいという助言をもらう)、最後にスイスのヤギ農家のところに行きます。

行った先で全員に「無理だろ」「死ぬなよ」「取り返しの付かないことになりますよ」と言われながらも、死にたくはないのでなんとか妥協点を探り、粘り強くプロジェクトを進めるトーマス。すごいなあ。彼の学際的な知識欲と実行力はホントに素晴らしい。こんな有能な彼がなんでこんな役に立たないことをやっているのかとちょっと残念に思う気持ちがないでもないけれども(笑)、でも、芸術家として世界中の人々を感心させて、そして笑わせているんだからとっても有意義なことです。

もちろん、四つん這いになってヤギと一緒に草喰んでみても、それ自体から得られることはあんまりないわけです。でも、そこまでたどり着くまでの真剣なリサーチは非常にためになります。哲学的でもあり、科学的でもあり、医学的でもあり、ものすごくプラクティカルな学び(ファンドから資金提供されたプロジェクトを変更する、例えば象からヤギに目的を変えるなどというときには、ちゃんと説明しないとヤバいとか。そりゃそうだろ)もあり。思いのほか、ためになっちゃう本です。全編、彼の軽妙なユーモアたっぷりの文章が続き、ゲラゲラ笑いながら楽しめます。オススメです。

トースターの方も読んでみることにしよっと。


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アルテミス/アンディ・ウィアー

処女作「火星の人」でスマッシュヒットを飛ばしたアンディ・ウィアー待望の2作目。待ってました!

「火星の人」はものすごく面白くて、大好きで、何度も読み返した小説です。特に好きなのが、NASA側のチームが、ワトニーがパスファインダーを回収に向かっていると気付くシーン。他にも好きなシーンはたくさんあるけど、パスファインダーがあること自体はフィクションじゃなくて事実だからあれはこの小説のための仕掛けじゃないですよね。それをあのように上手く使うというのは凄いなと、すごく感心しました。

一方の今作「アルテミス」は、ちょっと未来に月面に建設された都市アルテミスが舞台。となると、その架空の都市自体はすべて著者が考えることになります。主人公は様々な問題を月面都市という舞台を活かして立ち向かっていくことになりますが、そこで「そうか、そうくるのか!」と思わせるためには、そこまで舞台をちゃんと説明しておかなければなりません。いろいろな施設、制度、生活習慣、キャラクターなど、基本的に物語で使うものだけを事前に登場させておくことになりますから、そのあたりはとても大変。

で、その大変な世界設定はすごく魅力的。この月面都市がどうやって成立しているのか。なぜナイロビ時間なのか。なぜ通貨単位が重さなのか。ワクワクします。そして、それらがすべてちゃんとストーリーに結びついてます。さすが宇宙オタクなウィアー。素晴らしい。まあ、ただそれゆえの多少の飲み込みづらさはあって、昨今のラノベなどはそれを避けるために異世界に飛ばされても女の子がセーラー服を着ているような世界を平気で作っちゃうわけですけども、いいじゃないですか。こういう迎合しないきちんとした地球外技術も異世界文明もない世界設定。むしろ、嬉しい。異世界も好きだけどね。

一方、キャラクターの方では難しさがあって、今作の主人公は不良の女の子(といっても26歳。アラサー?)。前作では主人公のワトニーを始め、登場人物のほとんどはNASA職員なのでエリートだったわけですが、今作ではアルテミスがちゃんとした政府の管理をされていない西部劇みたいな世界ってこともあって、わりとみんなならずもので開拓者精神に溢れてます。そんななかで主人公のジャスミンちゃんは、敬虔なイスラム教徒のお父さんに反発して家出中(といっても26歳)の貞操観念緩めな元非行少女で、今はポーター兼密輸業。仁義に固いところと、技術者として頭が切れるところは周囲から認められてますが、いつも「くたばれ」を連発して周囲の大人の眉をひそめさせてます。

前作のファンにはどうもこのキャラのウケがよくなかったようですが、まあ、感情移入しにくいですよね、そりゃ。このジャズちゃんが大金持ちにたぶらかされて、犯罪に手を染める辺りまでは確かに読みづらいです。

ところが、その犯罪行為が思わぬことに・・・と、ここからの展開がまあ、面白い。最後はもうえらいことになります。えらいことになるんですが、そんなえらいことになってもあんまり気にしないアルテミスの人々もなんだか可笑しい。最後の200ページは一気に読み切りました。堪能した!

というわけで、前作が好きな方には文句なくオススメ。可愛い女の子が大活躍するライトノベル好きにだって楽しく読めちゃう・・・と思うよ、たぶん!


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横浜駅SF/柞刈湯葉

日本SF大賞の候補作が発表になりましたけど、どれも読んでませんでした。これはイカン。

というわけで、今年話題になったといえば、これかなってことで「横浜駅SF」を買ってきました。読みました。これは面白い。

「日本で初めての鉄道駅として生まれて以来、ずーっと工事をしている横浜駅は、このままずっと新陳代謝として拡張・成長し、日本を飲み込むのではないか」という思いつきから、「日本中が横浜駅に飲み込まれた世界」を妄想。「横浜駅ディストピア」世界観をしゃくしゃくと組み上げてしまうSF的教養の高さはお見事で、お話自体も「そんな世界での日常系」にはしないで、ちゃんとこの世界の終焉を描こうとするところもすっごく好印象。やー、ご立派です。何だろうね、SFファンがSFファンを喜ばすために「こういうのが書きたい」って思うタイプの作品です。

もっとも、それが故にかなり内輪ウケな雰囲気もあって、各章のタイトルが有名SF作品のもじりだったりするところに象徴されますけど、SFファンじゃないと面白さは2割減ってところもあるだろうし、「SUICA生体認証システムを体に埋め込んでない人はエキナカから自動改札によって追い出される。ただし、6歳未満は対象外」とか「デフレが進行した結果、通貨単位はミリエンに移行。SUICA生体認証システムを体に入れるには、50万ミリエンという大金が必要(つまり、未だにSUICAのデポジットは500円なのねw)」なんてところのネタの面白がり方がすごくSFファンっぽいので、普通の人には「なんじゃこりゃ」ってなる可能性もなくはないかな。

ともかく、戦争とそれによる技術の暴走によりロストテクノロジーしたディストピアって面白い設定ですね。読んでいるとどんどんこの世界に何があったのかおぼろげにわかってくる辺り、貴志祐介さんの「新世界より」を読んでいるような楽しさがありました。うん、「新世界より」からダークを抜いて、バカを足したような感じです(笑)。

SFファンの与太話が最高に盛り上がったような世界観で、きっちりお話を簡潔させた手腕が素晴らしいし、あとがきを読むだけでこの著者のセンスの良さは間違いないわけで、こりゃ、楽しみな人が現れたものですな。おすすめです。

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ヤキトリ1 一銭五厘の軌道降下/カルロ・ゼン

「幼女戦記」のカルロ・ゼンが早川へやってきた!

評判はなかなか良いですよね、「幼女戦記」。でも、無駄に狙ったタイトルと、無駄にでかい判型でエンタブレインから出てるってことで敬遠してまた。アニメも1話は観たんだけど、これ、主役を幼女にして転生ものにしてる意味、ないよね。書きたいのはえげつない戦記物ってことよね・・・という感想で、続きは観ませんでした。好みじゃないんだよなー。

で、そのカルロ・ゼンさんがハヤカワJAから新しいシリーズを出すということで、こっちの方が読みやすそうかなと思い、買ってみました。

うん、面白かったです。

まず、世界観がいいですね。宇宙人がやってきて地球は制圧されちゃうんだけど、やってきた宇宙人の方は、あんまり地球に興味が無い。なんか知的生命体はいるみたいだけど惑星ワイドの政府組織はないレベルの発展しかしてないから貿易相手にもなりゃしないし、別段、資源があるわけでもないし、まあ、管理しとく?ぐらいの感じ。一方の地球側は衝撃もいろいろあって文明が崩壊しかかってます。で、宇宙人が他国と戦争するときに地球人の貧しい連中を集めて、即席栽培して投入するんだけど、まあ、「組み立てる必要のないドローン」ぐらいの認識でバカバカと投入するので、死ぬ死ぬ。バンバン消耗する。宇宙人サイドはそれでもまあ、別に安いからいいかなと思っているんだけど、もうすこしどうにかなんないかなとも考えている・・・といった状況。

表紙の主人公は食い詰めたあげくにその傭兵部隊に雇われた人なんですが、実は雇った側に思惑が・・・というのが1巻の内容です。

お話は基本、この新兵くんの視点で展開するんですが、管理者(地球人)の視点と、スポンサー(宇宙人)の視点もちょいちょい挟まれて、割といろいろな思惑で物事が動いていることがわかります。凝ってる。

まあ、もの凄く画期的な設定かというとそんなこともないですけど、いろいろと考えられている感じで楽しめるし、基本は新兵がシゴかれて、徐々に強くなっていって・・・という王道の「部活もの」感もあるし、チームのメンバーもいがみ合いながら徐々にチームとしてまとまっていく感じも楽しいです。

あとは、ヤキトリ、調理師、キッチン、大満足といった用語の使い方が面白かったり、なぜかこの世界ではマクドナルドが至高の食べ物の代表として扱われるのがおかしかったり、いろいろと楽しませてくれるワザを持った著者だなあと感じました。思ったよりも技巧派?

しかし、1巻は結局、実戦にでないまま終わっちゃうんだけど、2巻はどうなるのかなあ。宇宙人の本国配属になっちゃったから、もっと宇宙人サイドの状況が書かれるのかも。楽しみ。やー、これなら「幼女戦記」も読んでみようかなー。


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あとは野となれ大和撫子/宮内 悠介

デビュー作「盤上の夜」でSFの賞を取って出てきたことから、勝手にSF作家と認識して応援している宮内悠介さんの、直木賞候補作「あとは野となれ大和撫子」です。

旧ソ連の中央アジアの国、アラルスタン(※架空の国です)。大国の思惑に揺さぶられながらも独立を維持してきたこの国の、現大統領が暗殺される。この機に乗じて周辺の国や組織が政体を乗っ取ろうと企む。政治家達は国を捨てて逃げていった。かつての後宮では、戦乱やテロで身寄りをなくした女性が、国家を支える人材として教育を受けていた。逃げる場所のない彼女たちは、自分たちで国を動かすことにするが・・・

というのがあらすじ。異世界ものっぽくもあり、戦記物っぽくもあり、女子校ものっぽくもあり。要するにラノベっぽい。というか、10年前のラノベブームのときは、このレベルの本がラノベのレーベルからバカスカ出版され、だからこそ本読みが一斉にラノベに注目したわけです。

今はもうラノベに色が付き過ぎちゃって、ラノベで面白いことは出来なくなってしまいました。しかし、面白い本がなくなったわけではなく・・・単価が上がったと(笑)。元に戻っただけかもしれないけども。

というわけで、完全にラノベ感覚で楽しく読めるし、登場人物は女の子も男の子もおっさんもばーちゃんもイカしてるし、痛快に読み終えられて、かつ、国家とか戦争とかそういうものにもちょっと思いを馳せて、いいお話であります。面白かった。

それにしても、これがラノベならここから10巻ぐらいは続くと思うんですけど・・・こんなに愛おしい登場人物たちがわんさかいるのに、続きないの?

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いちばんおいしい家カレーをつくる/水野 仁輔

糸井重里に「カレースター」という肩書きを叙されたことで知られ、日本一カレーを愛している男である水野仁輔さんが、cakesというコラムサイトの主催者であり「もしドラ」を手がけた編集者である加藤貞顕さんに、こう尋ねられたのだそうです。

「そういうややこしい話はいいので、お家で普通の材料でつくれる、一番おいしいレシピってありえるじゃないですか? 水野さん、みんなのおいしいの最大公約数を本当はわかってるんじゃないですか」

ということで、水野さんは持つカレーテクニックを1つのレシピに詰め込んだ究極のご家庭用カレーレシピを開発し、cakesに「ファイナルカレー」の連載を始め、その連載をまとめたのがこの本、「いちばんおいしい家カレーをつくる」です。

この連載では、3つのレシピが紹介されます。まず、究極の「欧風カレー」、そしてルーを使わずにスパイスだけで作る「インドカレー」、そしてその2つのレシピに隠された水野さんのテクニックをいいとこ取りして作られる「ファイナルカレー」です。

これがねー、どれも旨いんですよね。まず、欧風カレーを作った段階で度肝を抜かれるほど旨かった。すりおろした生姜がたっぷり入っていて、蜂蜜で甘みをぐっと強いんですが、カレーからこの2つの味がするとこんなに旨いのかと。でも、考えてみれば牛肉と生姜を甘辛く味付けしたらそれは日本人が好きな味に決まってるじゃないかという気はしますわな。なるほど、欧風カレー(=ジャパニーズカレー)が日本料理だと言われる所以はよくわかります。

そして、インドカレー。スパイスでマリネした鶏肉(焼いたらタンドリーチキンになる状態のもの)を煮込んで作るんですが、ルーでつくるカレーとは全然違うんだけど、これもびっくりするほど旨いんですよ。やったことない人にとっては、「ルーもカレー粉も使わずにカレーを作る」ってかなりハードルが高く聞こえると思うんですが、作業工程自体は単純で、わりとさらっと出来ます。びっくり。で、その工程の中に「味付け」という作業がなく、ぶっちゃけスパイス以外は塩とヨーグルトしか入れない(日本料理のようにダシ+酒+醤油/味噌のようにアミノ酸を重ねていくことがない)ので、マズくなりようがない(焦げたとかはありえるけどもね)のも素晴らしい。

そして、ファイナルカレーときたら・・・ただ、ファイナルカレーの存在意義は、前2つのまったく異なるカレーの工程自体を理解していないとわからないという憎い構成なんですよ。いや、こんな面白い料理の本はひさしぶりです。

という連載が本になり、もちろん買いましたし、実家にも送りつけました。この本は日本の家庭のカレーをまったく変えてしまうポテンシャルを持った恐るべき本ですし、「度を過ぎてるカレー好きが、完全に道を踏み外した結果としてたどり着いてしまった地点」を知るタモリ倶楽部的な楽しみにも溢れていて、読み物としてもかなり面白いです。ともかく、「月に1度は家でカレーを作る」という家庭には、すべからく1冊置いておきたい本。是非とも。

そして、この連載を読んで以来、水野さんの活動が気になりまくり。NHK「趣味どきっ!」も楽しく観ましたし、AIR SPICEから毎月送られてくるスパイスセットも楽しみに待っています。そして、「幻の黒船カレーを追え」も買って読ん・・・だ感想は別に書くことにします。


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ゲーマーズ!/葵せきな

「生徒会の一存」シリーズの葵せきなさんの新シリーズ。出ているのは知ってましたけど、様子見してました。

ちょっと様子見が長すぎたようで、既刊はすでに8巻。今クールにはアニメも始まってます。1話は見ました。何だろうね、この古くさい素敵な演出は。ぴったりだわ(笑)。

というわけで、このシリーズ。「生徒会の一存」はキャラの口を借りたネタトークが魅力で、ゲラゲラ笑って楽しめるものの、バックストーリーが意味不明にシリアスになってノリについていけないというようなところがありましたが、今回は本人達は深刻でも所詮高校生の恋愛模様なのでそんな深刻になることもなく、おバカな会話の応酬と誤解が誤解を生むコントのようなストーリー展開を十二分に楽しめます。1巻からその時に出ていた7巻まで、ゲラゲラ笑いながら一気に読んじゃいました。

いやー、どの子も可愛い(男も含めて^^;)し、「めんどくさいオタクたち」の描写が上手いなあ。この筆者の魅力を出すには、変に奇をてらった設定とか要らないです。いや、それじゃ売れないってのはわかるんですけど。今のラノベ業界で「ゲーマーズ!」なんてタイトルで本を平積みしてもらえるのは「生徒会の一存」の実績あってこそだと思いますしね。でも・・・嫌な言い方すれば、この人って2次創作で一番栄えるというか、「普段はこういうこと言わない○○ってキャラが、こんなこと言い出したら面白い」というようなものを書かせたら日本一ってタイプなんで、安心してゲラゲラ笑えるネタを書いてくれたら嬉しいなと思います。

というか、1巻の人物配置は凄く面白かったと思うんです。けど、主人公達が良い子ばっかりで、途中から人間関係が動かなくなってきていて、7巻はすごくトリッキーなことになっちゃってます。最新刊の8巻はそのお片付けなんですが、無理してやりたかった方向へなんとか持って行けていて、やれやれって感じですか。こういう、「いつまで続けて良いかわからない話」ってのも大変だと思うんですよね。突然「次巻で終わりです」って言われるかもしれないし、あと10冊書かないといけないかもしれないし。ま、とにかく8巻も掛け合い漫才は超面白かったので、大満足です。

しかし、この8巻、校正が・・・。読んでいて、結構な勢いでミスに当たるんですよ。

  • P51 花憐のモノローグで「雨野」と呼び捨てにしてる
  • P162 「サービスをした強要した」→「サービスを強要した」
  • P201「ゲーム部に影響を受けた天道の影響」→「ゲーム同好会に影響を受けた天道の影響」
  • P239「ゲーム同好会五人に、コノハさんが加わって、五人ですね」雨野、算数は大丈夫か。
  • P268「ぐいっと彼の腕に絡みつき・・・」からの6行。「・・・歩き始めるあたし。センパイは・・・並んで歩き始めた。・・・あたしを引きはがしにかかるセンパイ。あたしは・・・隣を歩き始める。センパイは・・・歩き始めた。・・・二人、・・・無言で歩き続ける」何だこの2人、何回歩き始めるんだ?(笑)

たまたまなのかもしれませんけど、こういうのって結局お金のかけ方に依るところもあるんで、やっぱラノベ界厳しいんだろうなと思ったり。担当編集は今頃たぶん落ち込んでると思うので、たくさん売れて増刷がかかって直せたらいいですね(笑)

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森橋ビンゴさんの「この恋と、その未来。」が打ち切りになってしまった

ラノベの感想を書くのもなんだか久しぶりです。

というのも、最近の作品は全然読んでいないからです。ラノベのレーベルから出る本をまったく読んでいないわけではないですが、以前から読んでいるシリーズを買っているだけで。

ところが、「文学少女」シリーズが代表作であるヒット作家の野村美月さんの「吸血鬼になったキミは永遠の愛をはじめる」が打ち切りになってしまったんですね。ありゃまー。後に、書かれなかった話のフォローとして番外編がでたんですが単行本で1000円以上する価格になりました。うーん、まあ、わからんこともないですが、残念な結果です。

そして、「東雲侑子」シリーズの森橋ビンゴさんの「この恋と、その未来。」も打ち切りになってしまいました。あちゃー。「東雲侑子」も好きだけど、このシリーズも好きだったんだけどなあ。

お二人とも、事前に編集者から「構想通りの巻数は出せなさそうだから、短縮して欲しい」という依頼を断って、未完のまま完結ということにしています。ビンゴさんもあとがきで書いていますが、今の時代、本という形で出版されなくてもユーザーの元に届ける方法はいくらでもありますから、そういう選択になるのはよくわかります。

それはそれとして、好きで読んでいるシリーズが立て続けに打ち切りになるというのは、何かが起きている予感がしますよね。まあ、言うまでもなく今のラノベレーベルのラインナップには違和感満載です。ラノベブームのころはブームが故に実験的なものや、挑戦的なものがたくさん出ていて、それがラノベの豊かさだったんですが、ブームが終わるとどうしても売れ線のものに集中していってしまいます。

で、今、集中しているものがかなり偏ってしまっているんですよね。異世界転生もの、ヴァーチャルゲームもの、謎の文化部or生徒会もの・・・。もういいよって感じです。ただし、集中しているだけあって、売れているものはさすがにレベルが高い。またか・・・と思いながら実際に読んでみるとやはり「そうきたか」という新しい視点があるし、それなりに面白い。ただ、ファンが先鋭化してしまうとジャンルとして衰退するのはやむを得ないです。

そんなわけで、今の書店のラノベ売り場に平積みされている本は、眺めているとものすごくIQが下がっていきそうな感じで、「面白ければラノベでも読むよ。むしろ、ラノベって自由で面白い」とラノベブームのころのに獲得した読者を完全に裏切っています。各社、もちろんそれはよくわかっていて、ここ最近は、「ラノベじゃないラノベレーベル」の新設が盛んです。なんじゃそりゃって感じですが、要するにラノベの棚に並べて欲しくないってことですね。

もっとも早く出来たのがメディアワークス文庫。2015年の新刊のラインナップを観ていただけば、「これのどこがラノベじゃないの?」と思われる方が多いでしょうが、今のラノベの表紙って・・・例えば2016年5月のGA文庫はこんな感じですからね。ちょっと一緒に並べづらいです。

続いて新潮文庫nex、講談社タイガが設立されました。野村美月さんや、「とらドラ!」の竹宮ゆゆこさんは新潮文庫nexで本を出してます。今月は竹宮ゆゆこさんの新刊がでてます。今、この記事を書くためにAmazonで新刊の「砕け散るところを見せてあげる」のページを表示すると

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はいはいはい。そうですよ、私がこの3冊をまとめて買っていく層です(笑)。文芸書とか純文学ってすでにジャンル小説になっていて(詳しくは佐々木敦さんの「ニッポンの文学」を参照)、普通の本好きはジャンルを横断して面白そうな本を何でも読んでいるんですが、そういう人がブームの時に読んでいたようなラノベがこれらの新しいレーベルで出て行くという流れになるのならそれはそれでいいと思います。が、これらはまとめて棚が作られないので、レーベルを分けている意味がイマイチ・・・。ともかく、すこしアンテナの感度をあげて注目していきたいと思ってます。

ふぅ、この流れだと支倉凍砂さんの「マグダラで眠れ」シリーズが途中で終わらないか心配になりますなあ。


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毒味師イレーナ/マリア・V スナイダー

cakesで翻訳した渡辺由佳里さんと堺三保さんの対談してまして、そこで紹介されていて興味を持ちました。「あのハーパーコリンズが日本上陸のために用意した決戦兵器!」的な扱いなのかな。なんのこっちゃわからない人は、cakesに150円払ってこの記事読んでください(笑)

いわゆるヤングアダルト(YA)というジャンルで、日本で言えばその役割はライトノベルが担っている中高生向けの小説です。だからといって、おっさんが読んじゃいけないということはないので、気軽な読み物として楽しみましょう。

・・・てなところですが、いやー、面白い。面白いだけなんだけど、止められないぐらい面白い。仕事の合間に読み始め、休憩の度にちらちら読み、仕事帰りに夜道を歩きながら読み(自炊してiPhone6+で読んでます)、自宅で寝っ転がって夜中までかかって一気に読み切りました。

中世っぽい世界観で、主人公イレーナは死刑囚。孤児で自分を引き取ってくれた領主様から虐待を受け、領主の息子を殺した罪で捕らわれてます。牢から引っ立てられたイレーナに、死刑の代わりに最高司令官の毒味役がオファーされます。そりゃ、死刑よりはいいよね・・・と言いたいところですが、なんせこの革命政府は謀略と暗殺で出来てるので命狙われまくり。毒味役の前任者・候補者は死にまくり(笑)。ハッピーとはいきません。

そんな中、様々な人に出会い、脅され、嫌がらせされ、裏切られまくり。油断するとさっくり殺されるスリリングな日々。ずっーとピンチなイレーナちゃんの未来は如何に!

というようなお話。ひじょーにサツバツとしてます。そんな中にも友情あり、冒険あり、ロマンスあり、魔法あり(えっ?)。いや、途中から魔術師が出てきちゃって、急にファンタジーっぽくなるんですが、魔術師がいるからこその伏線やトリックもあるのでいいんですけど、ちょっとアレ?っとは思いました。そういえば読んでる感じは、SFだと思ったらコバルト文庫だったという「ティンカー」に近いかも知れない。むこうのYAってこんな感じなんでしょうね。

あと、面白いのがイレーナが遣える最高司令官がなかなかの人物だと描かれるんですが、やっていることは共産主義独裁国家の元首ってところかな。腐敗した王政を妥当して革命政府を築くんですが、政策が「国民全員に、仕事と制服を」。制服着ない奴は裸で2日間野ざらしにするっていう、それどんな苛烈政治?なんですけど、こっちのほうが味方なんでだんだんよく見えてくるっていう・・・いや、そんなことないかな(笑)。

続編もあるみたいなんで、早く読めると良いですね。

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ゲームウォーズ/アーネスト・クライン

没入型のオンラインゲームが普及してほぼインフラとして機能している社会。その一方でリアルは活力をネットに奪われ、重ねてエネルギー不足により荒廃の一途をたどっている社会。

そんな社会の創始者である大富豪の天才ゲームクリエイターが死ぬ間際に言った。「このゲームにしこんだイースターエッグを見つけた人に、全財産あげる」

しかし、この大富豪さんは超オタクだったので、オタクしか手がかりを見つけられない。かくして、財宝探しをする人達はこぞって80年代ギークカルチャを学ぶのだった。

・・・えーっと、没入型ゲームの世界で命や富、そして世界の謎をかけて戦う話というと、もう日本では割とありふれた設定ではあります。「.hackシリーズ」や「ソードアート・オンライン」、「サマーウォーズ」なんかも近いですよね。

それらの日本の作品とこの「ゲームウォーズ」(原題は"Ready Player One")の違いは、このゲームありきの世界がどうなっているのか、そのディストピア感をちゃんと作っているところと、なによりもその「オタクぶり」。バンバンに過去の作品を出してきます。でも、最初の頃はアタリのゲームだったり、B級映画だったりで、私はあんまりなじみがない作品ばかりなんですけど、最後はもう、なんだかえらいことになります。

クライマックスのバトルなんて、「ガンダムVSメカゴジラ」だったと思ったら、「ウルトラマンVSメカゴジラ」になりますからね(ネタバレご容赦。まあ、読んでみてよ!)。スピルバーグで映画化とか言われてますけど、円プロとサンライズと東に版権取りにいくんですかね。富野さんが悔しくて絶叫するんじゃないですかね?(笑)

悪役がホントにワルかったり、最後に仲間が集まってくるシーンはかなり熱かったり、読み応えもばっちりです。表紙はなんだかよくわからないSF風ですが、これはもうむしろ電撃文庫とかファミ通文庫みたいな装丁がぴったりの作品なんで、気軽に読んでみよう!

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