ヤキトリ1 一銭五厘の軌道降下/カルロ・ゼン

「幼女戦記」のカルロ・ゼンが早川へやってきた!

評判はなかなか良いですよね、「幼女戦記」。でも、無駄に狙ったタイトルと、無駄にでかい判型でエンタブレインから出てるってことで敬遠してまた。アニメも1話は観たんだけど、これ、主役を幼女にして転生ものにしてる意味、ないよね。書きたいのはえげつない戦記物ってことよね・・・という感想で、続きは観ませんでした。好みじゃないんだよなー。

で、そのカルロ・ゼンさんがハヤカワJAから新しいシリーズを出すということで、こっちの方が読みやすそうかなと思い、買ってみました。

うん、面白かったです。

まず、世界観がいいですね。宇宙人がやってきて地球は制圧されちゃうんだけど、やってきた宇宙人の方は、あんまり地球に興味が無い。なんか知的生命体はいるみたいだけど惑星ワイドの政府組織はないレベルの発展しかしてないから貿易相手にもなりゃしないし、別段、資源があるわけでもないし、まあ、管理しとく?ぐらいの感じ。一方の地球側は衝撃もいろいろあって文明が崩壊しかかってます。で、宇宙人が他国と戦争するときに地球人の貧しい連中を集めて、即席栽培して投入するんだけど、まあ、「組み立てる必要のないドローン」ぐらいの認識でバカバカと投入するので、死ぬ死ぬ。バンバン消耗する。宇宙人サイドはそれでもまあ、別に安いからいいかなと思っているんだけど、もうすこしどうにかなんないかなとも考えている・・・といった状況。

表紙の主人公は食い詰めたあげくにその傭兵部隊に雇われた人なんですが、実は雇った側に思惑が・・・というのが1巻の内容です。

お話は基本、この新兵くんの視点で展開するんですが、管理者(地球人)の視点と、スポンサー(宇宙人)の視点もちょいちょい挟まれて、割といろいろな思惑で物事が動いていることがわかります。凝ってる。

まあ、もの凄く画期的な設定かというとそんなこともないですけど、いろいろと考えられている感じで楽しめるし、基本は新兵がシゴかれて、徐々に強くなっていって・・・という王道の「部活もの」感もあるし、チームのメンバーもいがみ合いながら徐々にチームとしてまとまっていく感じも楽しいです。

あとは、ヤキトリ、調理師、キッチン、大満足といった用語の使い方が面白かったり、なぜかこの世界ではマクドナルドが至高の食べ物の代表として扱われるのがおかしかったり、いろいろと楽しませてくれるワザを持った著者だなあと感じました。思ったよりも技巧派?

しかし、1巻は結局、実戦にでないまま終わっちゃうんだけど、2巻はどうなるのかなあ。宇宙人の本国配属になっちゃったから、もっと宇宙人サイドの状況が書かれるのかも。楽しみ。やー、これなら「幼女戦記」も読んでみようかなー。


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あとは野となれ大和撫子/宮内 悠介

デビュー作「盤上の夜」でSFの賞を取って出てきたことから、勝手にSF作家と認識して応援している宮内悠介さんの、直木賞候補作「あとは野となれ大和撫子」です。

旧ソ連の中央アジアの国、アラルスタン(※架空の国です)。大国の思惑に揺さぶられながらも独立を維持してきたこの国の、現大統領が暗殺される。この機に乗じて周辺の国や組織が政体を乗っ取ろうと企む。政治家達は国を捨てて逃げていった。かつての後宮では、戦乱やテロで身寄りをなくした女性が、国家を支える人材として教育を受けていた。逃げる場所のない彼女たちは、自分たちで国を動かすことにするが・・・

というのがあらすじ。異世界ものっぽくもあり、戦記物っぽくもあり、女子校ものっぽくもあり。要するにラノベっぽい。というか、10年前のラノベブームのときは、このレベルの本がラノベのレーベルからバカスカ出版され、だからこそ本読みが一斉にラノベに注目したわけです。

今はもうラノベに色が付き過ぎちゃって、ラノベで面白いことは出来なくなってしまいました。しかし、面白い本がなくなったわけではなく・・・単価が上がったと(笑)。元に戻っただけかもしれないけども。

というわけで、完全にラノベ感覚で楽しく読めるし、登場人物は女の子も男の子もおっさんもばーちゃんもイカしてるし、痛快に読み終えられて、かつ、国家とか戦争とかそういうものにもちょっと思いを馳せて、いいお話であります。面白かった。

それにしても、これがラノベならここから10巻ぐらいは続くと思うんですけど・・・こんなに愛おしい登場人物たちがわんさかいるのに、続きないの?

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いちばんおいしい家カレーをつくる/水野 仁輔

糸井重里に「カレースター」という肩書きを叙されたことで知られ、日本一カレーを愛している男である水野仁輔さんが、cakesというコラムサイトの主催者であり「もしドラ」を手がけた編集者である加藤貞顕さんに、こう尋ねられたのだそうです。

「そういうややこしい話はいいので、お家で普通の材料でつくれる、一番おいしいレシピってありえるじゃないですか? 水野さん、みんなのおいしいの最大公約数を本当はわかってるんじゃないですか」

ということで、水野さんは持つカレーテクニックを1つのレシピに詰め込んだ究極のご家庭用カレーレシピを開発し、cakesに「ファイナルカレー」の連載を始め、その連載をまとめたのがこの本、「いちばんおいしい家カレーをつくる」です。

この連載では、3つのレシピが紹介されます。まず、究極の「欧風カレー」、そしてルーを使わずにスパイスだけで作る「インドカレー」、そしてその2つのレシピに隠された水野さんのテクニックをいいとこ取りして作られる「ファイナルカレー」です。

これがねー、どれも旨いんですよね。まず、欧風カレーを作った段階で度肝を抜かれるほど旨かった。すりおろした生姜がたっぷり入っていて、蜂蜜で甘みをぐっと強いんですが、カレーからこの2つの味がするとこんなに旨いのかと。でも、考えてみれば牛肉と生姜を甘辛く味付けしたらそれは日本人が好きな味に決まってるじゃないかという気はしますわな。なるほど、欧風カレー(=ジャパニーズカレー)が日本料理だと言われる所以はよくわかります。

そして、インドカレー。スパイスでマリネした鶏肉(焼いたらタンドリーチキンになる状態のもの)を煮込んで作るんですが、ルーでつくるカレーとは全然違うんだけど、これもびっくりするほど旨いんですよ。やったことない人にとっては、「ルーもカレー粉も使わずにカレーを作る」ってかなりハードルが高く聞こえると思うんですが、作業工程自体は単純で、わりとさらっと出来ます。びっくり。で、その工程の中に「味付け」という作業がなく、ぶっちゃけスパイス以外は塩とヨーグルトしか入れない(日本料理のようにダシ+酒+醤油/味噌のようにアミノ酸を重ねていくことがない)ので、マズくなりようがない(焦げたとかはありえるけどもね)のも素晴らしい。

そして、ファイナルカレーときたら・・・ただ、ファイナルカレーの存在意義は、前2つのまったく異なるカレーの工程自体を理解していないとわからないという憎い構成なんですよ。いや、こんな面白い料理の本はひさしぶりです。

という連載が本になり、もちろん買いましたし、実家にも送りつけました。この本は日本の家庭のカレーをまったく変えてしまうポテンシャルを持った恐るべき本ですし、「度を過ぎてるカレー好きが、完全に道を踏み外した結果としてたどり着いてしまった地点」を知るタモリ倶楽部的な楽しみにも溢れていて、読み物としてもかなり面白いです。ともかく、「月に1度は家でカレーを作る」という家庭には、すべからく1冊置いておきたい本。是非とも。

そして、この連載を読んで以来、水野さんの活動が気になりまくり。NHK「趣味どきっ!」も楽しく観ましたし、AIR SPICEから毎月送られてくるスパイスセットも楽しみに待っています。そして、「幻の黒船カレーを追え」も買って読ん・・・だ感想は別に書くことにします。


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ゲーマーズ!/葵せきな

「生徒会の一存」シリーズの葵せきなさんの新シリーズ。出ているのは知ってましたけど、様子見してました。

ちょっと様子見が長すぎたようで、既刊はすでに8巻。今クールにはアニメも始まってます。1話は見ました。何だろうね、この古くさい素敵な演出は。ぴったりだわ(笑)。

というわけで、このシリーズ。「生徒会の一存」はキャラの口を借りたネタトークが魅力で、ゲラゲラ笑って楽しめるものの、バックストーリーが意味不明にシリアスになってノリについていけないというようなところがありましたが、今回は本人達は深刻でも所詮高校生の恋愛模様なのでそんな深刻になることもなく、おバカな会話の応酬と誤解が誤解を生むコントのようなストーリー展開を十二分に楽しめます。1巻からその時に出ていた7巻まで、ゲラゲラ笑いながら一気に読んじゃいました。

いやー、どの子も可愛い(男も含めて^^;)し、「めんどくさいオタクたち」の描写が上手いなあ。この筆者の魅力を出すには、変に奇をてらった設定とか要らないです。いや、それじゃ売れないってのはわかるんですけど。今のラノベ業界で「ゲーマーズ!」なんてタイトルで本を平積みしてもらえるのは「生徒会の一存」の実績あってこそだと思いますしね。でも・・・嫌な言い方すれば、この人って2次創作で一番栄えるというか、「普段はこういうこと言わない○○ってキャラが、こんなこと言い出したら面白い」というようなものを書かせたら日本一ってタイプなんで、安心してゲラゲラ笑えるネタを書いてくれたら嬉しいなと思います。

というか、1巻の人物配置は凄く面白かったと思うんです。けど、主人公達が良い子ばっかりで、途中から人間関係が動かなくなってきていて、7巻はすごくトリッキーなことになっちゃってます。最新刊の8巻はそのお片付けなんですが、無理してやりたかった方向へなんとか持って行けていて、やれやれって感じですか。こういう、「いつまで続けて良いかわからない話」ってのも大変だと思うんですよね。突然「次巻で終わりです」って言われるかもしれないし、あと10冊書かないといけないかもしれないし。ま、とにかく8巻も掛け合い漫才は超面白かったので、大満足です。

しかし、この8巻、校正が・・・。読んでいて、結構な勢いでミスに当たるんですよ。

  • P51 花憐のモノローグで「雨野」と呼び捨てにしてる
  • P162 「サービスをした強要した」→「サービスを強要した」
  • P201「ゲーム部に影響を受けた天道の影響」→「ゲーム同好会に影響を受けた天道の影響」
  • P239「ゲーム同好会五人に、コノハさんが加わって、五人ですね」雨野、算数は大丈夫か。
  • P268「ぐいっと彼の腕に絡みつき・・・」からの6行。「・・・歩き始めるあたし。センパイは・・・並んで歩き始めた。・・・あたしを引きはがしにかかるセンパイ。あたしは・・・隣を歩き始める。センパイは・・・歩き始めた。・・・二人、・・・無言で歩き続ける」何だこの2人、何回歩き始めるんだ?(笑)

たまたまなのかもしれませんけど、こういうのって結局お金のかけ方に依るところもあるんで、やっぱラノベ界厳しいんだろうなと思ったり。担当編集は今頃たぶん落ち込んでると思うので、たくさん売れて増刷がかかって直せたらいいですね(笑)

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森橋ビンゴさんの「この恋と、その未来。」が打ち切りになってしまった

ラノベの感想を書くのもなんだか久しぶりです。

というのも、最近の作品は全然読んでいないからです。ラノベのレーベルから出る本をまったく読んでいないわけではないですが、以前から読んでいるシリーズを買っているだけで。

ところが、「文学少女」シリーズが代表作であるヒット作家の野村美月さんの「吸血鬼になったキミは永遠の愛をはじめる」が打ち切りになってしまったんですね。ありゃまー。後に、書かれなかった話のフォローとして番外編がでたんですが単行本で1000円以上する価格になりました。うーん、まあ、わからんこともないですが、残念な結果です。

そして、「東雲侑子」シリーズの森橋ビンゴさんの「この恋と、その未来。」も打ち切りになってしまいました。あちゃー。「東雲侑子」も好きだけど、このシリーズも好きだったんだけどなあ。

お二人とも、事前に編集者から「構想通りの巻数は出せなさそうだから、短縮して欲しい」という依頼を断って、未完のまま完結ということにしています。ビンゴさんもあとがきで書いていますが、今の時代、本という形で出版されなくてもユーザーの元に届ける方法はいくらでもありますから、そういう選択になるのはよくわかります。

それはそれとして、好きで読んでいるシリーズが立て続けに打ち切りになるというのは、何かが起きている予感がしますよね。まあ、言うまでもなく今のラノベレーベルのラインナップには違和感満載です。ラノベブームのころはブームが故に実験的なものや、挑戦的なものがたくさん出ていて、それがラノベの豊かさだったんですが、ブームが終わるとどうしても売れ線のものに集中していってしまいます。

で、今、集中しているものがかなり偏ってしまっているんですよね。異世界転生もの、ヴァーチャルゲームもの、謎の文化部or生徒会もの・・・。もういいよって感じです。ただし、集中しているだけあって、売れているものはさすがにレベルが高い。またか・・・と思いながら実際に読んでみるとやはり「そうきたか」という新しい視点があるし、それなりに面白い。ただ、ファンが先鋭化してしまうとジャンルとして衰退するのはやむを得ないです。

そんなわけで、今の書店のラノベ売り場に平積みされている本は、眺めているとものすごくIQが下がっていきそうな感じで、「面白ければラノベでも読むよ。むしろ、ラノベって自由で面白い」とラノベブームのころのに獲得した読者を完全に裏切っています。各社、もちろんそれはよくわかっていて、ここ最近は、「ラノベじゃないラノベレーベル」の新設が盛んです。なんじゃそりゃって感じですが、要するにラノベの棚に並べて欲しくないってことですね。

もっとも早く出来たのがメディアワークス文庫。2015年の新刊のラインナップを観ていただけば、「これのどこがラノベじゃないの?」と思われる方が多いでしょうが、今のラノベの表紙って・・・例えば2016年5月のGA文庫はこんな感じですからね。ちょっと一緒に並べづらいです。

続いて新潮文庫nex、講談社タイガが設立されました。野村美月さんや、「とらドラ!」の竹宮ゆゆこさんは新潮文庫nexで本を出してます。今月は竹宮ゆゆこさんの新刊がでてます。今、この記事を書くためにAmazonで新刊の「砕け散るところを見せてあげる」のページを表示すると

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はいはいはい。そうですよ、私がこの3冊をまとめて買っていく層です(笑)。文芸書とか純文学ってすでにジャンル小説になっていて(詳しくは佐々木敦さんの「ニッポンの文学」を参照)、普通の本好きはジャンルを横断して面白そうな本を何でも読んでいるんですが、そういう人がブームの時に読んでいたようなラノベがこれらの新しいレーベルで出て行くという流れになるのならそれはそれでいいと思います。が、これらはまとめて棚が作られないので、レーベルを分けている意味がイマイチ・・・。ともかく、すこしアンテナの感度をあげて注目していきたいと思ってます。

ふぅ、この流れだと支倉凍砂さんの「マグダラで眠れ」シリーズが途中で終わらないか心配になりますなあ。


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毒味師イレーナ/マリア・V スナイダー

cakesで翻訳した渡辺由佳里さんと堺三保さんの対談してまして、そこで紹介されていて興味を持ちました。「あのハーパーコリンズが日本上陸のために用意した決戦兵器!」的な扱いなのかな。なんのこっちゃわからない人は、cakesに150円払ってこの記事読んでください(笑)

いわゆるヤングアダルト(YA)というジャンルで、日本で言えばその役割はライトノベルが担っている中高生向けの小説です。だからといって、おっさんが読んじゃいけないということはないので、気軽な読み物として楽しみましょう。

・・・てなところですが、いやー、面白い。面白いだけなんだけど、止められないぐらい面白い。仕事の合間に読み始め、休憩の度にちらちら読み、仕事帰りに夜道を歩きながら読み(自炊してiPhone6+で読んでます)、自宅で寝っ転がって夜中までかかって一気に読み切りました。

中世っぽい世界観で、主人公イレーナは死刑囚。孤児で自分を引き取ってくれた領主様から虐待を受け、領主の息子を殺した罪で捕らわれてます。牢から引っ立てられたイレーナに、死刑の代わりに最高司令官の毒味役がオファーされます。そりゃ、死刑よりはいいよね・・・と言いたいところですが、なんせこの革命政府は謀略と暗殺で出来てるので命狙われまくり。毒味役の前任者・候補者は死にまくり(笑)。ハッピーとはいきません。

そんな中、様々な人に出会い、脅され、嫌がらせされ、裏切られまくり。油断するとさっくり殺されるスリリングな日々。ずっーとピンチなイレーナちゃんの未来は如何に!

というようなお話。ひじょーにサツバツとしてます。そんな中にも友情あり、冒険あり、ロマンスあり、魔法あり(えっ?)。いや、途中から魔術師が出てきちゃって、急にファンタジーっぽくなるんですが、魔術師がいるからこその伏線やトリックもあるのでいいんですけど、ちょっとアレ?っとは思いました。そういえば読んでる感じは、SFだと思ったらコバルト文庫だったという「ティンカー」に近いかも知れない。むこうのYAってこんな感じなんでしょうね。

あと、面白いのがイレーナが遣える最高司令官がなかなかの人物だと描かれるんですが、やっていることは共産主義独裁国家の元首ってところかな。腐敗した王政を妥当して革命政府を築くんですが、政策が「国民全員に、仕事と制服を」。制服着ない奴は裸で2日間野ざらしにするっていう、それどんな苛烈政治?なんですけど、こっちのほうが味方なんでだんだんよく見えてくるっていう・・・いや、そんなことないかな(笑)。

続編もあるみたいなんで、早く読めると良いですね。

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ゲームウォーズ/アーネスト・クライン

没入型のオンラインゲームが普及してほぼインフラとして機能している社会。その一方でリアルは活力をネットに奪われ、重ねてエネルギー不足により荒廃の一途をたどっている社会。

そんな社会の創始者である大富豪の天才ゲームクリエイターが死ぬ間際に言った。「このゲームにしこんだイースターエッグを見つけた人に、全財産あげる」

しかし、この大富豪さんは超オタクだったので、オタクしか手がかりを見つけられない。かくして、財宝探しをする人達はこぞって80年代ギークカルチャを学ぶのだった。

・・・えーっと、没入型ゲームの世界で命や富、そして世界の謎をかけて戦う話というと、もう日本では割とありふれた設定ではあります。「.hackシリーズ」や「ソードアート・オンライン」、「サマーウォーズ」なんかも近いですよね。

それらの日本の作品とこの「ゲームウォーズ」(原題は"Ready Player One")の違いは、このゲームありきの世界がどうなっているのか、そのディストピア感をちゃんと作っているところと、なによりもその「オタクぶり」。バンバンに過去の作品を出してきます。でも、最初の頃はアタリのゲームだったり、B級映画だったりで、私はあんまりなじみがない作品ばかりなんですけど、最後はもう、なんだかえらいことになります。

クライマックスのバトルなんて、「ガンダムVSメカゴジラ」だったと思ったら、「ウルトラマンVSメカゴジラ」になりますからね(ネタバレご容赦。まあ、読んでみてよ!)。スピルバーグで映画化とか言われてますけど、円プロとサンライズと東に版権取りにいくんですかね。富野さんが悔しくて絶叫するんじゃないですかね?(笑)

悪役がホントにワルかったり、最後に仲間が集まってくるシーンはかなり熱かったり、読み応えもばっちりです。表紙はなんだかよくわからないSF風ですが、これはもうむしろ電撃文庫とかファミ通文庫みたいな装丁がぴったりの作品なんで、気軽に読んでみよう!

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知らない映画のサントラを聴く/竹宮ゆゆこ

ひとつのシリーズが長くなる傾向にあるラノベの場合は特にそうですが、好きなシリーズの作家さんが別のシリーズをはじめたとき、期待と不安が胸をよぎります。

前のシリーズの雰囲気そのまんまで新しさがなくてもガッカリだし、変化した結果、その作家さんの良さ・・・というか自分として好きだったところがまるでなくなってしまっていたらそれももちろんガッカリです。

竹宮ゆゆこさんの作品はこれまで「とらドラ!」、「ゴールデンタイム」とどちらも大好きな作品でしたが、どちらも読み始めたきっかけはアニメを観たから。「とらドラ!」は初ゆゆこでした。アニメから入って、アニメの放送中に夜明かしで読み切ってしまいました。それほどハマった作品でありながら、次の作品の「ゴールデンタイム」は記憶喪失ものという噂でちょっと引いてしまったこともあって、アニメになるまで読んでませんでした。アニメが面白かったので、結局楽しく読みました。アニメのラストはちょっと涙ぐんでしまったなあ。

で、この本。ラノベのようでラノベではない新レーベル、新潮文庫nexの看板(?)として盛大に平積みにされてました。気になります。でもねー、電撃文庫から移って、ちょっと作風変えちゃったのカシラーとか、いろいろ考えちゃいますよね。というわけで、しばし放置。でも、結局、「ゴールデンタイム」も読んでよかったじゃんということで、読んでみました。

いやあ、ゆゆこ。ラノベじゃなくてもしっかりゆゆこだわ。

お話自体は、親友の死(それも自殺)を機会に人生を見失っちゃってる主人公がいろいろあって立ち直るって話で、プロット自体はたいしたことはないです。で、「ラノベじゃないのよ、nex」はキャラ小説のレーベルってことで、この主人公のキャラや他の登場人物のキャラはちょっとカリカチュアされていて、そこは魅力。そこにゆゆこらしいリズムのあるモノローグ、そしてダイアログが重なって楽しい。竹宮さんのこれまでの魅力は全然失われてません。

そして、ラストに朝日がさっと差してくるような、救いの場面に疾走感と開放感のある文章。そのためにこれまでの作品にはなかったような鬱々とした展開が序盤から中盤を覆ってます。そんな暗いわけではないけど、これまでの作品なら主人公の友人達が絡んできて無理矢理に馬鹿馬鹿しくなっちゃってたようなところで、ちゃんと暗くなります。あー、主人公が学校に行っていない(23歳のニートだから)ってこういうことなのかも。それだけにラストが素晴らしい。いや、なんてことないんです。何も起きてないと言ってもいい。でも、ラストの開放感は素晴らしかった。これはいままでの竹宮作品になかった味わいかも。

というわけで、今までの魅力も失わず、新たな味わいもあり。でも、すぐにでも電撃文庫に舞い戻れそうなフットワークももちろんあり。つまり何が言いたいかというと、これまでのゆゆこファンも安心して読んでよってことでした。まる。

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火星の人/アンディ・ウィアー

あまり本が読めなかった2014年ですけど、一番面白かったのはコレ。

NASAの有人火星探査がすでに行われている今よりほんのちょっと未来で、主人公は第3次計画のメンバー。しかし、この「アレス3」ミッションは火星での6日目に想定以上の猛烈な嵐のために中止になります。予定を大幅に繰り上げての帰還命令に従って打ち上げロケットまで向かう途中、マーク・ワトニーは嵐で飛ばされてきたアンテナが体に突き刺さり、飛ばされていきます。宇宙服の生命反応は途絶え、他のクルーは辛くも火星を脱出、地球への長い旅に入ります。

ところが、どっこい生きてたよワトニー。丈夫な人。しかし状況は絶望的です。体には穴が空いてるし、食料はミッションに必要な分があって数ヶ月は問題ないもののアレス4が到着する数年先までは望むべくもない。体に突き刺さったぐらいですから、アンテナは吹っ飛ばされて地球と連絡する方法はない。そもそも、みんな自分が生きているとは思ってもみないだろう。わかったところで、救助には数年かかるのでそれまでには餓死するしかない。

物語は、そんな悲惨なワトニーのミッションログの形で綴られます。彼がどう絶望して、自らの死と対面するのか。そんな悲痛で心に刺さる物語が・・・展開しません。

ワトニーは宇宙飛行士で、宇宙飛行士というのは絶望からもっとも遠い人種です。「うん、まあ、絶望的だけど、死ぬのは今日じゃないし。食料はまだ300日は食べられるほどたっぷりあるし、EVAスーツも予備が沢山ある。ローバーも動く。問題は1つずつ解決していこうか」とさっくりと立ち直ります。ユーモアに溢れたミッションログを読んでいると、ゲラゲラ笑ってしまいます。とにかくめげない。当然、何度も死ぬような目に遭うし、そのたびに「もうダメだー」と言うんだけど、次のログでは「事態は見た目ほどひどくはなさそうだ」・・・って立ち直り早っ!。宇宙飛行士ってすげえな。

そして、何とかワトニーを救おうとする人々、特に飛行士以外のNASAの面々も懸命に活躍します。この作者は完全に宇宙オタクで、架空のミッションを妄想して楽しむのが大好物。ミッションの構成やNASAの各セクションについてもよく知っています。さて、ワトニー救出作戦はいったいどんなプランで行われるのか。そもそも、アレスミッションの全貌からして興味深いんですが、この絶望的な状況からどんなアクロバットな手段を見つけ出してくれるのか。

早くも映画化決定らしいですが、たぶん本でしか楽しめない種類のネタが沢山ありますからとっとと読んで、映画は「ほう、この場面はこんなビジュアルになるのか」と観るのがよろしかろ。おすすめです。

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親指はなぜ太いのか/島 泰三

タイトルは、なんとなく「さおだけ」風でまた中身の薄い新書の様に見えます。が、この本は久しぶりに知的興奮をがんがん刺激する快作です。

いや、「さおだけ屋~」は難しい話を身近な話い引きつけて紹介するという意味でとても良い本だと思いますけど、この本はもっともっと硬派です。

著者は在野ながらサル学の専門家。マダガスカルでのフィールドワークでは多くの実績をのこしているとのこと。ちゃんとアカデミックなフィールドの人であることは、文章から伝わってきます。それと同時に、なるほどアカデミックの世界だけに縛られない自由な人であることも文体から伝わってきます。例えば、以下のような文章はあまり大学の先生は書かないかもしれません。以下、引用するのは、知人の協力を得てチンパンジーのフィールドワークのためにアフリカへ行ったときの一節です。

マハレまでの旅路は、ナイロビからチャーターした双発のプロペラ飛行機が、前後上下左右、完全に真っ白のホワイトアウトのなかを高度計と無線機だけを頼りに、湖畔の待ちキゴマまで3時間も飛び、キゴマから西田さん差し回しの船で出発したとたんに、タンザニア海軍の魚雷艇から機関砲を突きつけられて停船命令を受け、揺れ回る丸木船では小用も足せず、10時間以上の水日出しの航海の末に湖水に飛び込んで悩みを解消しようとする人が出たり、その鼻先にウォーターコブラが現れたり、闇夜のなかを進む船が燃料不足で止まってしまうなど、取り立てて問題になるようなこともなかったので(これがアフリカ!)、湖畔に迎えてくれた西田さんの姿が実に懐かしかった。翌朝、私たちはチンパンジーの群れのなかにいた。

難しいサルの分類の話があったり、何の断りもなく歯式が示されたり、観察結果はちゃんと数字で語られたりと堅い感じではあるものの、門外漢にも読みやすく進められるのは、このようなユーモアの感覚が文章からにじみまくっているからです。まあ、嫌がらずに読んでみて。

というわけで、基本的にはおサルさんの話がずっと続くわけですが、冒頭からこの本の筋道はきっちりと示されています。そこが明快なので、いろいろな話が出てきても読者が不安な気持ちになることはありません。そこがこの本の素晴らしいところですが、まあ、何よりもそこで示されている内容がエキサイティングなのですよ。こういうことです。

  1. ある程度の大きさの動物が種として存続するためには、他の動物が利用しない(できない)主食を開発する必要がある。それがニッチである。ニッチとは空間的な「棲み分け」ではなく、「食べ分け」のことである。
  2. サルにおいて、主たる食べ物がなにかということが、口(歯)と手の形態を決める。これを「口と手連合仮説」と呼ぶ。
  3. 人類は、他のサルとまったく違う口と手を持つ。ならば、同時期のサルと違う主食を得たハズである。では、それは何だったのか。

面白いですね。本の前半は、1と2を実証するために紹介されるいろんなサルの話です。この部分ももちろん面白いですし、このリアルな研究に関する部分がなければ後半はまったくの絵空事に聞こえてしまうと思いますが、それでもラストは非常に面白い。私だってこれまで初期人類に関する本は何冊も読んだことがありますが、まさか、こうくるとは。

3の答えを書いちゃうとネタバレになって、この記事を見て読もうと思った人の興を殺ぐことになるかなと思いましたが、まあ、学術書の類ですからいいでしょう。書いちゃいます。

まず、一般に思われているけど、よく考えるとそれを主食と考えるのはムリがあるというものが上げられています。

森のサル、ゴリラ・チンパンジー・オラウータンなどは草食や、果実食です。しかし、人類はそもそも乾燥化によって新たに生まれたアフリカのサバンナに適用した種です。果実はふんだんにはないでしょうし、草を食べるには人間の盲腸は極端に退化してます。

今の人類の主食は、小麦・米・芋などの穀類です。しかし、今、我々が小麦を大量に収獲することができるのは、品種改良により実っても穂に種子がとどまる種類を作り出してからです。自制していた小麦を選択による品種改良し、農耕種を作り出したのと人類が産まれたのはまったくタイムスケールが違います。そもそも、小麦や米が主食なら、人間の手はもっと小さいものをつまむのに最適化されているでしょうし、デンプンをそのまま消化出来るハズです。

人類は早い段階で肉食を可能にしたのではないかという説もあります。最初は大型肉食獣の食べ残しから初めて、ついには自ら狩りをするようになったと。しかし、肉食がメインであれば、人間の前歯と犬歯が平坦に一直線に並ぶ歯は不自然です。肉を切り裂く犬歯が存在するべき。この短くなった犬歯は平坦になることによって、上あごと下あごが水平にすりあわされる動きを可能にしています。あごの関節の動きも、他の類人猿ではすりあわせる動きはできないそうです。つまり、人間は何かをすりつぶして食べていたと考えられます。

しかし、同じようにすりつぶして食べる草食動物の臼歯と人間の臼歯もだいぶことなります。非常にエナメル質の分厚い臼歯を持つ人間は、かなり堅い食べ物をすりつぶして食べていたはずです。

サバンナに豊富にあり、人間の大きな体を指させられるだけ高カロリーで、堅くすりつぶして食べる必要のあるもの。そして、人類以外がそれを主な食用とするのは難しいもの。

それは、骨です。ええーっ?

骨の髄は非常に高い栄養を持ち、また、食べ残し肉食仮説で検討済みのように、サバンナには大型動物の死体は豊富にありました。食べ残しの肉もボーナスとして食べていたかもしれませんが、肉は早く腐ってしまいますし、豊富にあるとは言えません。人類は、その特徴である他の指に対抗する太い親指でしっかりと石を握り混み、骨にたたきつけて割ることで大きく栄養のある骨を口に入れられるようにし、すりつぶして食べられる様になったのです。そのことが、二足歩行して空いた手で石と骨を握って持ち運べるようになった人類を生み出したと、著者はそう考えています。

・・・とはいえ、ホンマかいなとは思います。そんなに人類が骨食に適用しているのなら、今でもおいしく頂いている人達がいても不思議ではないですよね。著者は中で「食べてみた。うまい」と書いているんだけど、いやいやいや、そんなことはないでしょう(笑)

まあ、事の真偽はどうあれ、非常に面白い論の展開であることは間違いなく、わくわくして読むことが出来ますよ。

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