トヨタの必死さと、それでも届かないル・マンのトロフィー

2012年から復帰したトヨタのル・マン挑戦。早くも6年目。しかし、年に一度しかないル・マン24時間レースですから、当然6回目。

その6回のうち、マシンのアドバンテージがあった年もあり、まったく叶わない年もあり。それは莫大な費用をかけて毎年、毎戦新しいマシンを持ち込むF1とは違い、ニューマシンをいれるタイミングがそれぞれなので当然起こりえることです。逆に言えば、F1並みの資金を思い切りつぎ込んでしまえば、有利になれる世界で、それはトヨタほどの大企業なら不可能ではありません。しかし、世界的な大企業であるということは、それだけの資金をつぎ込んでしまったら経営的に明確なリターンを求められてしまうという意味でもあります。それは、メルセデス、フェラーリ、ポルシェなどの「ブランドイメージこそが命であり、経営の資産」であるスポーツカーブランドにはない、トヨタの枷でもあります。

その枷をトヨタチームは言い訳にはしませんでしたが、確実に存在するようでした。マシンの開発費もライバルに比べ決して十分ではないという話は良く聞きましたし、ライバルが3台のマシンを持ち込む中、2台しかマシンを持ち込まず、ライバルが2台のマシンをトラブルで失いながらも3台目で優勝するのを横目に見ながら、手痛い敗退を繰り返してきました。

モータースポーツファンにはその辛さはよくわかったし、見ていられないものでした。レースは勝たなくては意味が無いのです。全て勝つ必要はないけど、勝ちたい、勝つんだという思いがあり、それを実現しなければならない。負け続けるトヨタに、生放送の実況中にコメンテイターから「3台目を出さないってことは、勝つ気がないということだ。勝つ気がないなら出ない方が良い」とまで言われました。しかし、それだけの予算は得られなかったのでしょう。

2015年に「マシン開発目標を低く見積過ぎる」という大失敗をして惨敗し、2016年を戦うには飛躍的なマシンの向上が必要でした。しかし、それだけのリソースはない。そんな状況の昨年のトヨタチームは、マシンの洗練を行うと同時に2016年の目標を「ル・マンを勝つ」だけに絞り込みます。WECのシリーズ戦を捨て、ル・マンという年1回の特殊なサーキットで勝つことだけに絞り込む。第1戦、第2戦、そして第3戦ル・マンの予選。トヨタはぱっとしない成績に留まります。

しかし、決勝では安定したスピードと、他チームより少しだけよいタイヤ特性と燃費で僅差のリードを維持することに成功。こんな勝ち方もある。2014年、圧倒的な速さを見せながら勝てなかったときにもアウディが見せたような戦いで、初挑戦から30年近く経ってはじめて見せるトヨタの「強い」レースでした。日本を代表する自動車会社が、自国内の研究施設で開発した技術を用い、自国出身のF1ドライバーがステアリングを操るマシンに、トップチェッカーを受けさせる。限られたリソースでやってきたトヨタチームのこれまでの努力がついに報われるんだ。バブルの頃のような、なりふり構わないやり方ではなく、今の日本のやり方でもちゃんとやれるんだ。みんながそう感じて、胸が祝福と誇りに充たされていました。

あの瞬間までは。あまりに残酷な、あの悪夢の瞬間がやってくるまでは。

2017年のトヨタは、その枷を緩めることにしました。衝撃の敗戦から速やかに2017年の参戦継続を発表し、3台にマシンで挑むことを決めました。今までのやり方をかなぐり捨てて、2017年にまず1つ勝つんだ。ル・マンの優勝者リストに、まずトヨタの名前を刻むことが必要なんだ。そう叫んでいるようでした。

折しも、2016年の秋に衝撃のニュースが発せられます。アウディが急遽撤退することとなったのです。もちろんフォルクスワーゲン(VW)の燃費不正問題で、大きなダメージを負っていたことは知っていました。VWグループとして、2社をWECに参戦させている今の状況が厳しいだろうことも想像に難くないし、実際、WRCではVWが撤退することはすでに発表済みでした。

しかし、2017年マシンの開発をしているという噂でしたし、何より、21世紀のル・マン24時間レースは常にアウディという存在がありきでしたから、アウディがル・マンからいなくなるということを想像出来なくなっていましたし、フォルクスワーゲンもそれはしないんじゃないかと思い込んでいました。まさに、衝撃でした。しかも、ポルシェも2017年は2台での参戦になるといいます。

ライバルの撤退は参戦の意義に関わることであり、トヨタにとっても喜ばしいことではありません。しかし、極短期的に考えれば2017年は大きなチャンスです。総合優勝のチャンスがあるマシンは、LMP1-Hというカテゴリーの車に限られ、2017年はそこにポルシェとトヨタの計5台しか出ないんですから。確率的に考えて、トヨタの勝つ確率は60%です。やったね。

さらに、2017年はマシン開発も力をいれました。トヨタがいかに予算を増額したからといって、いきなりマシンが速くなるというものでもありません。使えるお金は増えたんでしょうが、その分、現場の負担は増えたかもしれません。村田さんが「若い奴には恨まれているだろうと思う」とコメントしていましたが、苛烈な開発だったことが伺えます。

努力は実り、2017年のWECは第1戦、第2戦とトヨタが連勝。第3戦ル・マンの予選でも小林可夢偉が驚異のラップを刻み、ポルシェを圧倒します。速さはもう、申し分ない。トヨタは広報にも力を入れ、J-SPORTSの中継のスポンサー額も増やしたんでしょう。ついに24時間フル中継が実現し、さらにはトヨタのサイトからそのJ-SPORTSの中継がタダで見られてしまう太っ腹。豊田章男社長ことモリゾウ選手(逆だろ)も現地入り。準備は万端整った。今年はいただきだ・・・とは思うんですが、なんせル・マン24時間はまずは走りきらないとどうにもならないわけで、こればっかりは壊れなかったとしてもぶつけられたりとか、いろんなことが起こりますから。表彰台独占の可能性すらあり得ると思っていますが、とにかく、1台生き残ってくれれば。せっかく、どの1台が優勝しても日本人の優勝になるように3人のドライバーを割り振ってるんですから。一貴でも可夢偉でも国本でも、どのドライバーでもいいじゃないですか。3台出したんだから、1台生き残ってくれれば。

残念です・・・。私たちの考えるようなことは全てやった上でのこの結果なんでしょうから、仕方ないんですけど、落ち込むなあ。

結局、5台のLMP1-Hマシンは全台にトラブルがでて、3台がリタイア。1台は1時間以下の修復時間で済んだのでなんとかLMP2マシンに総合優勝を奪われるようなことは防ぎましたが、もう1台は2時間以上の修復時間が必要で総合9位(後に失格マシンがでて8位に繰り上げ)。この2台のどちらがポルシェでどちらがトヨタでもあり得たとは思うんですが、結果としては、トヨタは総合順位の表彰台に上がることすら出来ないという結果に終わりました。がっかりです。

考えてみればですね。

いやあ、アウディが出てたらアウディが勝ってましたわ。アウディは偉大だな・・・

しかし、まあ、LMP1-Hマシンで挑戦し始めてまだたったの6回じゃないですか。18年の長きにわたってライバルがいないときもル・マンのグリッドをきっちりと占めて、ル・マン24時間レースのプレゼンス維持に貢献していたからこそアウディは尊敬を集めたし、ライバル不在だったときのアウディの総合優勝の価値を毀損する声も上がらないわけです。

今年は確かに千載一遇のチャンスでした。来年以降も今年と同じような体制をつくることは難しいと思います。でも、続けて欲しい。幸いにして強敵ポルシェはまだいてくれます。ハイブリッドを運用するのは難しいかもしれないですが車体だけでも提供して、チーム郷のようにLMP1のカスタマーチームを作っても良いかもしれない。また、GTEクラスへ参加できるだけの車はあるわけですから、ニュルのようにGTマシンでもポルシェと争えばいい。平川のようにLMP2クラスにもっとトヨタのドライバーが参加するのもいい。

とにかく、ル・マンでトヨタが見せたパフォーマンスは着実に世界のモータースポーツファンの心に残っていますから、ヨーロッパでのトヨタのプレゼンス、モータスポーツ界でのトヨタのプレゼンスを高めるために、「トヨタがいないとル・マンが成立しないよ」と言われるぐらい、ル・マンを愛し続け、ル・マンに愛されて欲しいなと思います。ル・マンに愛されたとき、トヨタの栄冠は訪れることでしょう。

いやー、それにしても悔しいなあ。可夢偉とロッテラーがコース上でマシンを止める光景を見るとはなあ・・・

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佐藤琢磨が第101回インディ500マイルレースを制覇!

やってくれちゃったよ・・・凄いよ、琢磨。

こんなことが起きるんですね。日本人がインディ500に勝つなんて。私が死ぬまでに実現するかどうかもわからないと思ってました。もう、最後の10周は絶叫しながら見てました。

今年はフェルナンド・アロンソがF1モナコGPを休んで出場するということで、アメリカだけじゃなくヨーロッパでも注目を集めた1戦。折しも、去年まで苦戦続きだったホンダエンジンも今年はコンペティティブ。昨年、(元F1ドライバーとはいえ)ルーキーのアレキサンダー・ロッシを驚きのストラテジーで優勝に導いているアンドレッティ・オートスポートの6台目としての参戦であれば、優勝争いも目じゃない。チームメイトには経験豊富なドライバーがそろっているし、今年は琢磨もアンドレッティに移籍して、F1ドライバーがインディのオーバルレースに挑戦するときのアドバイスをたっぷりとしてくれるはず。どんな走りを見せてくれるのか、大注目でした。

しかし、インディカーでのオーバルのレースは、過去に多くのF1ドライバーの競技人生を危機に陥れてもいるのです。両足を切断し、後にパラリンピックで金メダリストとなるアレッサンドロ・ザナルディのことはみんな覚えているでしょうし、ネルソン・ピケも大クラッシュで大けがを負っています。インディはF1に比べても死亡事故は多いです。おととしのジャスティン・ウィルソンの事故や、少し前になりますがダン・ウェルドンの事故など、レースファンは悲しい記憶を忘れることはありません。今年もインディ500の予選でF1でも活躍したセバスチャン・ブルデーが複数箇所を骨折する大クラッシュに見舞われています。

期待もあり、心配もありの予選。なんとファスト9に入って予選5番手。ホントにアロンソは凄い。

さて、その隣のグリッド。相手があのフェルナンド・アロンソとはいえ、ルーキーには違いありません。ルーキーに負けていられませんよね、我らが琢磨さん。予選4位通過。いまだかつてこんなに前からインディ500に望む日本人を見たことがあるか。期待に胸膨らみます・・・が、そうは言っても当日に速さがあれば、予選最下位からでも勝てるのがインディ500。逆に言えば、運悪く他と違うタイミングでアンダーグリーンのピットをすれば、トップを走っていてもあっという間に周回遅れになりかねないのがインディ500。「うん、琢磨とアンドレッティチームは調子がいいぞ」ということは間違いないんだけど、予選順位はそれほど大事ではありません。でも、調子悪ければ4位にはなれないしね。期待していいんだよね?ね?

というわけで、モナコGPが終わってすぐに寝て、朝5時に起床。家を出るまでの3時間でなんとか見ました。いやー、毎年のことだけどもインディ500の中継はスタートするまでが長い。1周40秒のコースを200周するので、それだけで2時間強。事故でフルコースコーションになれば速度はぐっと落ちるのでだいたい3時間のレースが行われます。それでも十分に長いけど、中継は0時から6時までの6時間(笑)。ライブでは見てられないわー。

セレモニーは飛ばし飛ばし、コーション中も飛ばし、赤旗中断中も飛ばし・・・と家を出るまでの時間と逆算しながら見るわけですが、ポールポジションのスコット・ディクソンは華麗に空を舞うし(死んでてもおかしくなかった・・・)、車列のどこでもバトルしてるし、リードチェンジも多いし、アロンソはいきなりトップ周回を経験して、しかも、レース中の初めてのリスタートがトップからになったにもかかわらず無難にこなしたし、いや、なかなか飛ばすところなくて。

アロンソはホントに素晴らしい走行で、解説の松浦孝亮選手も「僕らの見てなかったときに、もう2回ぐらいインディ500を勝ってるんじゃないの?」と冗談で言うほど。さすがだなー。ところが、レースの中盤からホンダエンジンの何台かが煙をぼふーっと吐いて壊れてしまう症状が。F1から気分を変えにきているインディでもエンジントラブルになったら可哀想だなあと思っていたら、あえなく3台目のエンジントラブルとして、アロンソのエンジンからぼふー・・・。なんなんでしょう。そういう星のもとなんでしょうか。

さて、200周も走っていればピットタイミングもばらばらになって、最後のピットストップをどのタイミングでやったかとコーションのタイミングだけで優勝の権利が決まってしまうというのがインディ500あるある。インディは運ゲーです。しかし、今年はどういうわけかほとんどの(といっても半分ぐらいリタイアしたんだけど)ドライバーのタイミングがそろって盛り上がる展開に。

全員の最後のピットストップが終わった残り20周の段階で、タイミングよくリードしていたのがマックス・チルトン。そして、すぐ後を琢磨が追いかける。この時点でトップ5ぐらいにいれば優勝はぐっと近づきます。おいおいおい、これは久しぶりに琢磨にもチャンスがきたんじゃないの?マシンで大きく劣っていないことは確かだし、琢磨ならやってくれる。

しかし、なかなか簡単には行かず・・・順位を各所で入れ替えつつ、最終的に上がってきたのは、あのエリオ・カストロネベス。そして、琢磨が挑む。最後はこの2人の行き詰まる一騎打ちになりました。最終盤は琢磨がリーダー、後ろにエリオ。しかし、ドラフティングがよく効くオーバルコースのレースでは、基本的に真後ろに入られたら追い抜きを防ぐ手段はありません。最後の最後、一番良いタイミングでトップの真後ろに付けるのが最も有利。この時点では、エリオがベストのポジションにいるようにみえました。さすがです。

そして、ラスト3周でエリオが琢磨に並びかけ、サイド・バイ・サイド。しかし、ここで守る琢磨。もうすぐホワイトフラッグという裏ストレートで、琢磨とエリオの差は1車身半。解説の松田さん、松浦さんが「いける、これならいける!」と叫ぶ。あとは琢磨のエンジンがあと1分だけ持ってくれれば、あの2012年。ファイナルラップでトップのダリオ・フランキッティのインに飛び込んでバランスを崩し、壁にクラッシュしたときに置いてきた忘れ物を取り返すことが出来ます。あとは、ただ、「いけーっ」と叫ぶのみ。

チェッカーを受けたあと、テレビの中継では無線で歓喜に絶叫する琢磨の声が流れました。そして、たぶんスポッターのロジャーさんだと思いますが、「おめでとう」という日本語の声。じーんときました。

パレードラップ。ビクトリーレーン。頭からミルクを浴びる琢磨の顔。琢磨よりずっと長い期間この瞬間に立ち会うために毎週全米を旅しているジャーナリスト、天野さんの顔。松本カメラマンの顔。マイケル・アンドレッティの顔。ホンダのスタッフ達の顔。日の丸を持ってマイケルとオープンカーでパレード。チーム全員でブリックヤードにキス。

いやー、良いもの見せてもらいました。うれしいなあ。ホントにうれしいなあ。日本人にとっては忘れられない第101回大会になりました。

これでもう、来月、一貴か可夢偉がルマンで勝っちゃったりしたら、もう2017年は大変な年なんだけど、そうそう甘くはないかな(笑)。でも、十分に期待できますからね。うわー、楽しみだなあ。

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マクラーレン・ホンダに未来はあるか

今週、いよいよ2017年のF1シーズンが始まります。

今年はマシンの大幅なレギュレーション変更がありました。マシンの空力に大きく変更を与える変更としては、ルールの隙間を突いたダブルディフューザーでブラウンGPが見事チャンピオンを取った2009年以来の大きな変更です。あのときのような大番狂わせがあるかもしれないと期待をされていましたが、テストを見る限りはそれはなさそうです。というよりは、未だ勢力図は混沌としているというの状態です。

そんな混沌状態から悪い意味で抜け出してしまっているのが、我らがマクラーレン・ホンダ。2年前を彷彿とさせる(とは言ってもだいぶあのときよりはマシだと思いますけど)トラブル続きで、テストの走破距離は完全に低迷。信頼性がないのも痛いですが、パフォーマンスもからっきしということで早くも両者は「別れる/別れない」なんて騒がれてしまっています。

F1だけでなく、日本のSuperFormulaとSuperGT、はてはWTCCでもインディカーでもライバルにすっかりやられちゃっているホンダは本当に残念な感じです。ただまあ、ホンダの場合、何が何でも勝ちたいのかよくわからないところもあります。いや、やっている人たちが勝ちたいと思っていることは間違いないんですけど、それが「何が何でも」なのかというと疑問です。例えば、メルセデスのエンジン部門から人を引き抜くとか、レギュレーションのギリギリを突いた隠し球をぶち込んでくるとか、そういう感じはしません。「面白い問題があるから、解いてみる」という感じに近いんじゃないかなと。

確かに今のエンジンのレギュレーションは、ターボと熱回生、リーンバーン、モーター回生と電池、それらを制御するソフトウェアなどなど次世代に向けて自動車メーカーが本気で考えなければならないテーマの宝庫です。これに正面から取り組むにはF1は格好のテーマでしょう。だからこそ、復帰を決めたわけですし。

それにホンダも今やF1で勝てばドンドコ車が売れるなんて企業ではありません。逆に今のようなていたらくを晒していたとしても、販売にたいした影響もないのかもしれません。ルノー、ダイムラー、フィアットに比べてしまえばそれほどお金があるようにも思えませんし、実際のところ、こんなもんかもしれません。

というわけで、ホンダは非常に危機的だと言われ、まあ、それはそうかなという気もしますが、冷静に考えてみるとホンダにはあんまり失うモノは無いワケです。別に勝っても負けても使うお金に変わりがあるわけでもなし、業績に影響するわけでもなし。であれば、出せるだけのお金で(といっても年間100億円ぐらいは余裕で使っているんでしょうけど)、出せるだけの成果を出せばいい。今回の参戦は長期であると明言してしまっていますから、短期的な勝利を目指して大金をつぎ込んでもいないでしょうし、(できるかといえば、できないでしょうけど)ボロ勝ちしてもだめなわけですし。

今や評判はダダ下りですが、それが気にならないんならあんまり実のところは困ってないかもしれないホンダとは裏腹に、いよいよ困っているのがマクラーレンです。一部の報道では、マクラーレンがメルセデスに乗り換えようとしているなんて報道されていますが、そもそもなんでマクラーレンがメルセデスから海のものとも山のものともつかぬホンダエンジンにスイッチしたのかという理由を考えれば、それは完全に後退を意味する選択肢です。

マクラーレンがチャンピオン奪還を目標に置くのであれば、メルセデスエンジンを積んでは無理です。メルセデスワークスチームが存在する限り。それがマクラーレンがメルセデスと決別した理由です。カスタマーエンジンでワークスを倒すことは出来ない。なぜならば、いざとなればメルセデスはカスタマーエンジンとワークスエンジンの間に差を付けることが出来てしまうからです。マクラーレン・メルセデスとフェラーリあるいはレッドブルがチャンピオンを争っているならばいざ知らず、メルセデスワークスチームとチャンピオンを争っているならば、メルセデスは躊躇なくマクラーレンのエンジンパワーを絞るでしょう。それはそういうものです。

メルセデスワークスがチャンピオンを争える車である限り、メルセデスエンジンを積んでいてはチャンピオンにはなれない。フェラーリエンジンでも同じこと。ルノーワークスはまだまだチャンピオンを争える状態ではないのでルノーエンジンを積んでチャンピオンを目指すことは出来るかもしれませんが、今のマクラーレンがレッドブルよりも良い車を作れるとは思えません。

というわけで、マクラーレンとしてはどうしても「第4のエンジン」が必要で、ホンダはぴったりの選択肢だったというわけ。だから、今からホンダと手を切るということは、さらに別のエンジンを見つけてくるか、「ウィリアムズとコンストラクター選手権4位を争うぞ」に方針転換するかということを意味しています。その選択肢は本当にあり得るのでしょうか。いや、2013年のマクラーレンにとっては、それは「このままいくとなってしまいそうな未来」だったので、それを拒否してホンダと組んだんですが、その選択の結果である現状がそれより悪いわけですから、それを取り返しに行こうとするのはあり得ますけども。

そして、車を何百万台と売ったお金で未来への技術投資をしているホンダと違って、マクラーレンチームはスポンサーからもらったお金で運営しています。ところが、マクラーレンときたら、ここのところのチーム運営はガタガタといっても良い状態です。

メルセデスがブラウンGPを手に入れてワークスチームとして参戦し始めたのが2010年から。マクラーレンはワークスのポジションを失ってからただひたすらに凋落してきました。かつて、ウィリアムズがBMWのワークスエンジンを失ったのと同じ状態です。ウィリアムズの前例を見るまでもなく、ワークスエンジンなしでトップチームのポジションを維持することは大変に難しい。成績の低迷はある意味仕方がないことではあります。

ところが、マクラーレンは自分たちがトップチームであることに頑なにこだわりました。メルセデスワークスを失ったにもかかわらずマシンのカラーリングはシルバーを維持し、なんとホンダエンジンに変わってからもしばらくはそれを維持し続けました。まるで「シルバーは自分たちのカラーだ」と言わんばかりです。そこに、マルボロのスポンサーを失った後、Westのスポンサーカラーをあえてシルバーとして身に纏ったしたたかなマクラーレンの姿はありませんでした。

メルセデスワークスを失ってからというもの、サンタンデールを失った後のメインスポンサーを未だに得られていません。その間にもジョニーウォーカーを失い、タグホイヤーを失い、モービルを失って来ました。少々の間ならメインスポンサーなしでも平気だよ、マクラーレンにはそれに相応しいビッグなメインスポンサーが必要なんだと大口を叩いていましたが、おそらくは大きな割合でホンダに支えられているのだろうというのがもっぱらの噂です。どこのチームも苦労はしていますし、ウィリアムズが纏っているマルティニもさほどの大きな額を持ち込んでいないらしいですが、数年にわたってメインスポンサーが不在というのは酷い有様です。まさか、名乗り出るスポンサーが全くいなかったわけではないと思いますが、何か内部の運営が上手く行っていないのでしょう。ロン・デニスがスポンサー探しを期待してザク・ブラウンを連れてきたことが、何よりの証拠です。

その間、アロンソとバトンのヘルメットのバイザー上のリングは真っ白、レーシングスーツの背中も真っ白。マシンは真っ黒。チームユニフォームも真っ黒。マクラーレン・ホンダを応援する身としては、マシンが速くないならせめて格好良くあって欲しい。チームグッズなどを買って応援したいと思っていても、全く食指の動かないものばかりです。チームカラーとしてマクラーレンと言えばオレンジが知られているんだから、せめてオレンジのカラーリングにすれば少しは格好いいのに。

・・・と思いきや、今年のカラーリングはさらにがっかり。なんで黒を諦められないんですか。黒とオレンジの間に白のラインが入る今年のカラーリングはとてもかっこわるい。オレンジに白抜きのロゴはスポンサーロゴも目立たなく、魅力に欠けます。あれならせめてホンダのロゴの中だけでも赤に塗れば差し色として見た目が派手になると思うのですが・・・。マクラーレンにはコマーシャル部門にデザイナーはいないんでしょうか。

スポンサーがつかない、イメージ戦略が立てられない・・・というチーム運営が欠如した状態で、良いマシンが作れるはずもありません。ホンダが復帰し、マクラーレンと組むと決めたときはマーティン・ウィットマーシュがマクラーレンをリードしていて、「ウィットマーシュに任せておいて、ホンダはエンジンのことだけ考えいれば安心」と感じましたが、そのウィットマーシュがいなくなり、ロン・デニスがいなくなり、ヨースト・カピートは何もしないままいなくなり・・・と人事が安定しないこと甚だしく、人材の流出も止まらないようです。2013年にタッグを組むと決めたときとはチームはすっかり変わってしまったといってもいいでしょう。そんなマクラーレンを事実上引っ張っているのが、エリック・ブーリエですが・・・この人がルノー/ロータスに何をもたらしたかを考えれば、私にはとても期待が持てません。

とりあえず、マクラーレンからリーダーシップが失われた状態にある以上、ホンダから見ればマクラーレンと組んでいるメリットはほとんどないように思います。このまま強引に乗っ取ってしまうのならばそれも良いですが、さすがにマクラーレンはその対象としてはビッグネームすぎるでしょう。ここはペーター・ザウバーの手を離れたザウバーチームあたりをざくっと買い取って、誰か良い外人に運営を任せて(ウィットマーシュ呼び戻せば良いw)、のびのびとF1に長期スパンで取り組んでいけば良いんじゃないかと思いますね。

というわけで、「マクラーレン・ホンダに未来はあるか」というタイトルを付けましたが、今のままでは「ない」が結論となります。そして、それはホンダにも大いに原因はありますが、マクラーレンというチームの寿命が尽きたということでもあるんじゃないでしょうか。正直言って、ロン・デニスがいなくなった後のマクラーレンを継ぐ可能性があったのはウィットマーシュだけだったんでしょう。ロン・デニスがウィットマーシュと仲違いした瞬間に、この未来は決まっていたのかもしれません。

ホンダ、早く手を切った方が良いよ。

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F1GP 2016#21 アブダビGP

ついに2016年のチャンピオンが決定しました。ニコ・ロズベルグ、おめでとう!

とはいえ、やはりハミルトンは凄いなと印象づけられる終盤戦でした。マレーシアGPで絶望的なエンジンブローがあって、ハミルトンはいったんはチャンピオンシップを失うことを受け入れたんだと思います。しかし、その状態から「それでもできることはすべてやるんだ」と思いを新たにして最後の4戦。すべて勝つ以外にチャンスはない状況でほんとにすべて勝つというのは並大抵のことではありません。やはり、この人は凄い。

そしてそれができてしまうチームメイトに対して、「すべて2位ならチャンピオン」という条件を成し遂げるロズベルグの精神力も十分にチャンピオンに値します。ハミルトンとロズベルグではやはりハミルトンの方が抜きん出た力を持っていることはもう証明されたことです。しかし、純粋な能力で劣るからといってチャンピオンになってはいけないわけではありません。むしろ、能力で劣るにも関わらず、訪れた千載一遇のチャンスを逃さずに栄冠を勝ち取ったなら、そんなに素敵なドラマはでしょう?もちろん、年間21戦も戦っているのだから、1度や2度の幸運ではダメなわけです。フロックでのチャンピオンはありえない。ロズベルグはF1で歴代2位の優勝回数を誇るグレートドライバーとまったく同じクルマに乗って、3回に1回はチャンピオンになれるほど凄いドライバーです。これは皮肉でもなんでもなく。

そして、この最終戦の終盤に2位でついてくるロズベルグの順位を下げるべく故意のペースダウンをするハミルトンの走りを見て、「ああ、やはり、チャンピオンになるドライバーは違うなあ」と思いました。自分が勝つためならばたとえチームからの信頼を失おうとも、子供の頃からの友情を失おうとも何とも思わない。勝つことが人生の目的になっているんです。アイルトン・セナもミハエル・シューマッハもそうでした。そう思っているからこそ、すべてを捧げて非人間的なまでの努力もでき、無類の強さを身につけることが出来たわけですから。

そもそも、全く同じ状況で後ろを走っているのがロズベルグではなく、セナやシューマッハ、ハミルトン自身だったらどうなっていたか。簡単です。このような戦いを仕掛けられたらすぐに頭のモードが切り替わり、もっともスローなコーナーでまったく曲がれない速度で強引にインに飛び込み、もろともリタイアしてチャンピオンを決めていたでしょう。そんなシーンを何度も見ました!だから、ハミルトンのスローダウン戦略はロズベルグ相手だから成立しているだけで、本来はあり得ない戦い方なのです。

ロズベルグのチャンピオンは、そんなことをしないまともな男がまともじゃない男から奪ったという意味で価値があります。デイビット・クルサードやマーク・ウェバー、ルーベンス・バリチェロやジャン・アレジといった複数回優勝するだけの力があり評価も得ていながらチャンピオンになれなかった偉大なドライバーたちは、みんな真っ当な人間でした。F1のファンは伝説のチャンピオンたちももちろん好きですが、速く勇気があり素敵な1流ドライバーたちももちろん尊敬しています。その中の一人が、いろいろありましたが現役でありながらすでに伝説のドライバーとなった男を同じマシンで破ったんだから、こんなに痛快なことはないのです。

よくやったぞ、ロズベルグ。あなたは偉大なドライバーの中でも、最速の男の一人であり、最高にナイスガイだ。賞賛に値する。おめでとう!

そして、ハミルトン。あなたは本当に伝説のチャンピオンに相応しいドライバーへと成長した。現役最強ドライバーは、アロンソでも無くベッテルでも無く、ルイス・ハミルトン。この男、おそるべし。

さて、来年は長かった09規定マシンががらっと姿を変えます。あんまりレースが面白くなる方向だとも思えないんですが、変わることは間違いない。さて、どこのチームが真っ先に新しい環境の正解の位置を突き止めるのか。2009年のホンダ/ブラウンGPのような番狂わせはあり得るのか。エイドリアン・ニューウェイはいまだに魔法使いなのか。お家騒動のマクラーレンにホンダを満足させる車は作れるのか。フェラーリはまたお家騒動なのか。長かったエクレストン時代はいよいよ終わりを告げるのか。

2月のテスト開始まで、短いシーズンオフですが、皆様、お疲れ様でした。

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F1GP 2016#17 日本GP

あれあれあれ・・・

シルバーストーンが終わった段階で今期のチャンピオンがハミルトンに決まりましたと当確を出しましたが、ここにきて大きく変わってきました。

とはいえ、夏休み明けからハミルトンは勝てずロズベルグの優勝が続いていても、まだ前戦のマレーシアGPまではまだ結局のところハミルトンが最終的にはチャンピオンになるんでしょと思ってました。ハミルトンが勝てていないのも、ロズベルグの速さに敗れたというよりはトラブルであったり、スタートプロシージャーの失敗(実際のところ、今のF1のスタートはドライバーの上手い下手とあまり関係しません)であったりで、どうにもツイてないなという感じでした。

そして、マレーシアGPのエンジンブローが仮になかったら。おそらく、2016年のチャンピオンはハミルトンのものだったでしょう。ハミルトンがマレーシアGPを優勝して290ポイント、一方のロズベルグは285ポイント。この状態で残り5戦としての鈴鹿。もう去年の再現しかありえない感じ。

ところが、セパンでのエンジンブローはそうとうハミルトンを精神的に痛めつけてしまったようで、鈴鹿に現れたハミルトンはすっかり毒気が抜けたような感じになっていました。木曜日の記者会見ではすっかり拗ねて質問に答えず、日本メディア向けのインタビューでは「日本に住みたい」などと見ている日本人が全員「嘘つけ」とツッこむような回答をし、イベントもリラックスして「僕は昔、空手をやっていたから日本語で10まで数えられるよ」とサービスしたりしてました。機嫌は良さそうだけど、ちょっと違和感を感じました。あれ?もしかして、ハミルトン諦めちゃった?

というわけで、今でも速さはともかく強さではロズベルグはハミルトンに全くかなわないと思っているので、ハミルトンのモチベーションと二人の運勢次第ではハミルトンにもチャンピオンの可能性は十分あると思います。しかし、どうやらハミルトンの中では今年は終わっちゃったっぽい。まさかの当確からの逆転になってしまいそうです。まあ、あれだけ壊れればしょうがないかな。

さて、鈴鹿でのもう一つの話題といえば、ホンダのまさかの惨敗です。雑誌に掲載された長谷川さんのコメントによると、シミュレーターで出ていたタイムがまるで出なかったらしく、イニシャルのセットアップが大外れで、そこから戻せないまま終わってしまったご様子。鈴鹿はセットアップの妥協点を見つけるのが難しいサーキットとして知られていますが、その鈴鹿に持ってきた途端に他のサーキットよりガクッと戦闘力が落ちるということは、よほどセットアップの幅がないマシンだということなのでしょう。こういうキャラクターは意外にずーっとチームは引きずるものなので、来年のマシンも心配です。

さて、最後におまけ。WEC富士でのトヨタの優勝おめでとうございます。他では勝てないけど富士では勝てたということは、トヨタが正にサルテサーキットに照準を絞っていた証拠で、ル・マンでのあわやの優勝が決して運のなせる業ではなく、狙って取りに行ったものだったという証明になったのではないでしょうか。しかし、最終スティントに新品タイヤを履いてペースに勝るアウディの、それも日本育ちのロイック・デュバルを抑えてトップを守り切った小林可夢偉は素晴らしかった。なんだろうな、このホンダとトヨタの明暗は。

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F12016#10 イギリスGP

今年は全然F1の感想を書いてませんけど、楽しく観てはいます。

まあ、もうF1はオワコンだというのは変わらないですが、それと私が好きで観ているのは別の話ですから。今年も例年と変わりなくF1は面白いです。

とはいえ、今年はインディ500マリルもル・マン24時間も、歴史に残るとんでもないレースになってしまい、そっちの感想を書けよって感じですけど。インディはラスト3周になっても誰が勝つのかワケがわからないという超ドキドキのレースで「おもしろかった!」しかないです。ほんと、インディは運ゲー。

ル・マンは、あの衝撃のラストから立ち直るのに1週間ぐらいかかりました。25年以上モータースポーツを観てますけど、あんな可哀想なレースはみたことないです。まだシリーズ戦ならあんなことがあっても次にがんばろうって言えますけど、ル・マンは本気で1年に1回しかないですから。WECの次戦で勝っても、たぶんなんの慰めにもならないでしょうね。心が痛すぎて、何にも言えません。

さて、前置きはそのぐらいにしてF1ですが、皆様にお知らせです。

今年のチャンピオンが決定しました。ルイス・ハミルトン、三連覇おめでとう。

思えば私、去年は開幕戦で当選確実を出しましたから、今年のロズベルグはずいぶんと頑張った方です。ハミルトン11勝、ロズベルグ5勝でその他のチームが3勝と予想してますね。実際は10-6-3だったので、おおよそ予想通りだったといえるでしょう。

ところが、昨年の最終戦以降、今年の開幕4戦目まででロズベルグは7連勝。F1を長く観ていますが、7連勝してチャンピオンになれないドライバーがいるとか考えられません。考えられないんですが・・・どうも「今年はロズベルグだね」とは言えない感じ。そして、第9戦の最終ラップで無様にトップを奪われるロズベルグを観て、ああ、今年も結局はハミルトンなんだねと悟りました。

あんな負け方するドライバーはチャンピオンになっちゃいけません。チャンピオンたるもの、ポイントリードをしているときにあのようにアウトからチャレンジされたら、がつんとクラッシュして2台まとめてリタイアするぐらいのスピリットがないとだめ。ポイントリードされているドライバーはクラッシュしてノーポイントに終わるのが一番痛いんですから、あそこでアウトから並んでくるなんていうのは舐められている証拠です。あれはダメだ。

というわけで、ホントのところはオーストリアGP終了時点での当確です。イギリスGPはもうロズベルグはまったくいいとこなしでした。ありゃりゃ。

ロズベルグは残り11戦で2つか3つぐらい勝つかもしれませんが、もうハミルトンでキマリです。今年は面白くなるかと思ったのに、ホントにがっかりです。

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F1が死んでいく

トヨタが撤退したときに、「トヨタは真っ当な企業だから、F1は相応しくないなあ」と感じました。前年にホンダが撤退したときには非常に残念に感じたんですが(ホンダは良くも悪くも真っ当じゃ無い感じが魅力の企業なんで)、トヨタの判断は正しいと思った。モリゾウ社長は、F1にWECやWRCなどのトップカテゴリーでのトヨタの活動を大きく推進しながらF1には目もくれません。もっとも、ケルンのトヨタの風洞は多くのF1チームが使用していますから、車体だけなら今でもできるレベルにはいるんでしょうけど、しないでしょうね。

その時点で世界で最もF1を愛していると世界が認める数%を除いた日本人にとってのF1は終わりました。日本はF1を見放しました。だって、理不尽で不可解でつまらない世界だから。

レースファンにとっても、もうすでにF1が無くても日本にはSFとSGTという2つの大きな自動車レースのシリーズがあり、年間15戦程度はレースが楽しめます。あまり人気が上がってこないと言われてはいますが、野球とサッカーを除いた他のスポーツで比較すれば、誰もが学生時代に接したことがあるテニス、バレーボール、バスケットボールや世界では熱狂的なファンがいるラグビー、アメフトと大差なく固定的なファンがいて、まあ、リーグを続けて行くには問題ないレベルで運営されています。

ただ、本来であればトヨタの撤退と共にシートを失うはずであった小林可夢偉が奇跡的な幸運をつかみ取ってそれから数年活躍してくれたおかげで、少しだけ日本とF1のつながりは維持されました。その間にもF1は緩やかに死んでいきました。

誰のためかわからない思いつきのようなレギュレーションによって、ノーズには変な段差がついたり、へんな突起が付いたりするようになりました。これまでさまざまな奇妙なマシンが開発されましたが、それらは何らかの機能に基づくデザインでした。しかし、ここ数年のマシンの変化はただレギュレーションを満たすだけで、それも意味があるんだかないんだかわからない物でした。機能に基づかないデザインは醜い。シンプルな理由でF1マシンは魅力的な外見を失っていきました。

そして、F1はどんどんとファンがいないところで開催されるようになりました。開催権料を稼ぐため、F1開催という権威を求めてそもそも自動車レースのファンがいないようなところでF1が開催されています。がらがらのスタンドが移る度に、F1が魅力のないものであることをアピールしているようです。一方で4年連続でチャンピオンになったドライバーと、2年連続でダントツのコンストラクターズチャンピオンになったチームの母国であるドイツでF1は開催されなくなりました。開催権料が高くなりすぎて、チケットが高額化し、ファンの心を失ったからです。

私はF1を25年見続けてきたものとして、F1はまだまだ魅力的だと思います。マシンデザインにおける創意工夫をみる楽しみ、レース戦略、個性的なドライバー達。何も変わっていないとさえ思います。

しかし、F1という興業の運営には疑問を抱かざるをえません。

現地のことをまったく考えない開催時間は毎回のようにスコールで中断されるGPを産みだし、別のGPではヨーロッパ時間にあわせて午後遅く始まったレース終盤、薄暗くなった中の雨のグランプリで20年ぶりの死亡事故を招きました。

テストを制限し走行時間が減らされて露出が管理されたことにより、F1マシンが走っている姿をレース中継以外でみることはなくなりました。マシンの走行映像をCMですら使えないことにより、スポンサーは減りました。

複雑に絡み合ったお金の問題は、F1へのステップアップの道を閉ざしました。ダントツでGP2のチャンピオンになったドライバーがシートを得られず、何の実績も無いチームの育成ドライバーがデビューするようになりました。日本の若いドライバー達はF1という言葉を口にしなくなりましたが、それは世界的な傾向かもしれません。努力が報われないF1はレーシングドライバーがみる夢の世界ではなくなりつつあります。

コスト削減が叫ばれる中、マシンの耐久性はどんどんと引き上げられました。レース順位間のポイント差が小さくなったため、リタイアのリスクが高まり、マシンはどんどん壊れなくなりました。その結果、下位チームが番狂わせで活躍することは難しくなり、毎回、同じメンバーが上位に来るようになりました。接触でポイントを失うリスクは高まり、バトルは敬遠されるようになりました。

そうやって、F1は少しずつ熱を失っていき、世界的に視聴率は低下しています。日本が見放したF1は、同じように世界的にも見放されつつあります。

そして、今年、ついに日本ではF1のレース中継が無料では観られなくなりました。地上波のF1中継はなくなっていましたが、BSフジに移ったことでむしろ全国的には見やすくなっていたかもしれないぐらいでした。しかし、今年は中継がありません。伝え聞くところによると、フジは放送したかったのですがアジアのF1放送権をFOXが押さえ、そこから権利を買うことになった今年は、契約上、無料放送ができないのだそうです。

これも、F1のプレミア感を高めたいF1の興行側の思惑なんでしょうが、これで日本のF1はとどめを刺されたといってよいでしょう。F1に興味を持ちだしたのは、みなさんたいてい、中学・高校のころなんじゃないですか。その頃に、もし有料放送でしかF1を観られなかったなら、F1のファンになっていたと思いますか?もう日本では新しいファンの拡大は望めません。そんなスポーツにお金をだそうという人もますますいなくなるでしょう。さようならです。

人気低迷を受けて行われる来年のレギュレーション変更では、F1のスピードアップが図られるそうです。今のF1は遅いので人気がないと思っているらしい。馬鹿な・・・。フォーミュラEのレース中継をみたことがないんでしょうか。テレビ中継で観ている人にとって、どんなにストレートで速かろうがカメラが追いかけて画面の中央にマシンが移り続けている限り絶対的な速度はわかるはずがありません。

また、遅かろうが、相応に運転の難しい車、技量の試される車、体力の要求される車は作れます。速いだけの車なんていくらでも作ることが出来ます。F1マシンの数十分の一の価格のSFマシンで、F1の予選最下位には勝てるんですから。このレギュレーションを作成したテクニカルチーム自身が、「言われたからやったけど、これでレースはたぶん面白くなくなる」と言ってはばかりません。何をやっているんだ!

大好きだったF1 PODCAST、「F1のすくつ」は昨年お休みしていました。今年は復活してくれたんですが、パーソナリティからまさかの「今年はレース中継を観られない人が多くなる。じゃあ、私も観ない」宣言が。うー・・・、わかるよ。わかるんだけど、なあ。

しかし、死んでいくものは仕方が無い。どんなエンターテインメントにも寿命はある。死んでいくF1を今年も看取っていきたいと思います。F1GP 2016シーズンは、明日開幕です。

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F1GP #16 アメリカGP

ハミルトン、3度目のチャンピオンおめでとう!

・・・まあ、開幕戦直後からこの結果はわかってたわけですけども(笑)、やっている本人にとってはものすごいプレッシャーと戦いながら苦しんで得た結果なのは間違いないわけで、今日は存分に飲んだくれていただきたい。

それにしても、結局、ミスしてトップを奪われてしまうロズベルグが、今シーズンを象徴してました。役者の違いなんですかねぇ・・・。もちろん、ハミルトンがまったくミスをしないってわけではないですけど、「ここぞ」という場面でやっちゃうかどうかの差なんですよね。

表彰台の控え室でも、表彰式でもハミルトンは大はしゃぎ。一方のロズベルグは本当に落ち込んでいてかわいそうでした。無邪気に2位のキャップを投げてきたハミルトンに、不機嫌そうに投げ返したり、号令より先にシャンパンを開けちゃったハミルトンに対して、ロズベルグはシャンパンを開ける気にもならずにパディ・ロウに手渡したり。本当に辛いんだろうな。

その他の見所は・・・えーっと、ライコネンはそろそろ引退した方が良いかもしんないっすね。

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F1GP2015 #14 日本GP

日本GPはいいですね。現地に行くのはとても楽しいけど、行かなくても毎日CSの放送を見たり(現地に行っているとこれが観られないのが辛い)、現地組のツイッターを眺めたり、すごくお祭り感があります。

というわけで、今年は自宅観戦。またLuminusとKurumicsを呼んで、わいわい言いながら観戦しました。日常的に(といっても、年に1度なんだけども^^;)遊ぶ友達って、今となってはこの2人とnacしかいないわけで、改めて自分の交友関係の狭さを感じます。うはは。

さて、ベルギー以来、感想を書いてなかったわけですが・・・まあ、もう書くことないです。チャンピオン争いはもう、オーストラリアの時点でハミルトンにおめでとうって書いちゃったしね(笑)。そして、毎戦、ホンダのパフォーマンスは叩かれて、「今回もダメだった」って言われ、なんだかどんどんとエスカレートしているみたいです。けど、そんなのベルギーでダメだったらもう今期はダメなのは自明なことであって、良くなるはずなんてないんだから。

マクラーレンは本気で苦しんでいるみたいなんですけど、でも、そんなことわかっていたわけです。何を夢観ていたんだか。でも、1年前のマクラーレンに他にどんな選択肢があったかというと、メルセデスを積み続けることだけだったわけです。

仮にその選択肢を選んでいたらどうなっていたか。一番良くて、今のウィリアムズの様にメルセデスにダブルスコアの差を付けられての3位。妥当なところは、一昨年と同じく、フォースインディアとロータスを相手にコンストラクター5位争いをしていたことでしょう。往年のウィリアムズを知るものからすれば、今のウィリアムズはエンジニアリングもタクティクスも2流になっちまったなあと思いますが、マクラーレンはもっと酷くて、ろくなマシンも作れずにハミルトンに愛想を尽かされるようなチームなんです。

ハミルトンが移籍したとき、あの時点でメルセデスに移籍するのは思い切ったなーと思いました。あの当時のメルセデスチームは決して一流とは言えないチーム状態でしたから。ただ、その時点でもマクラーレンが徐々に凋落していることは容易にわかったからこそ、出て行くこと自体に違和感はなかったんですよね。

そんなマクラーレンが去年の時点でホンダと組むと決めたとき、今の状況を打破するためにワークスエンジンを求めるのはマクラーレンにとって妥当なことだと感じました。逆に、ホンダにとっては苦難の道です。ホンダとしては、どうせダメな初年度は中堅以下のチームと組んでじっくりやりたかったはずです。実際、第3期はティレル改めBARと組んでました。もっとも、トップチームがいきなり新しいエンジンを積もうとする方が珍しいわけですけど。

なので、マクラーレンとしては自業自得でしかないんです。ですが、では、もしホンダと組んでいなかったら長期的には何が起きたのかと言えば、今、まさにレッドブルに起きていることが起きたでしょう。つまり、エンジンの種類が足りません。ワークスエンジンを得なければチャンピオンにはなれないのだとしたら、マクラーレンはホンダを口説き落として新規参戦させてでもワークスエンジンを得なければならなかった。大コケするかもしれない。でも、やらないとチャンスはない。

もしかしたらレッドブルはフォルクスワーゲングループに対して同じことをしていたのかもしれないんですが、その試みがあったとしてもディーゼル問題でふっとんだハズ。来年のエンジンがどうなるのかを考えると、ちょっとF1全体として頭が痛いことですね。

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F1GP2015 #11 ベルギーGP

夏休み明けのスパ・フランコルシャン。伝統のサーキット。ここのレースは毎年、ただオー・ルージュを駆け上がるマシンを見るだけで興奮してきます。

とはいえ、今回の注目はただただホンダはどこまでくるのか、でした。メルセデスが勝つことと、ハミルトンが勝つことは、まあ知ってたし(笑)。で、結果は・・・何一つ良くなっていません。おーまいがー。

F1において、進歩しないことは後退を意味します。毎戦毎戦、少しずつマシンは速くなり、開幕戦と最終戦では大きな差ができます。ところが、中位から下位のチームは資金的な問題からシリーズ中盤以降開発が止まってしまうことがあります。よいマシンを設計して序盤には番狂わせを起こしていた中堅チームが、後半戦にはいつものポジションに戻ってしまうのはよくあることです。

で、ですよ。漏れ聞こえる限り財政的な問題から、フォースインディア、ザウバーそしてこのレース後にマシンが差し押さえられるかも(!)と言われているロータスなんて、大したアップデートがあるはずないわけです。一方、マクラーレンは(メインスポンサーがいないのは気になりますが)、初期コンセプトでダメダメな車を作ってもシリーズ中盤以降にはちゃんと競争力のあるマシンに仕上げてしまうほどの開発力のあるチームです。

なのに、後ろはマノー・マルシアだけってどーゆーことなのよー。

まあ、スパはちょっと変わったサーキットで、上で「ろくな開発がされてない」と書いたロータスのグロージャンが表彰台にあがり、フォースインディアのペレスが4位に来ちゃうような結果なのでこれがマシンの実力か?という感じもありますけど、それにしても・・・。開幕戦の結果は私は「まー、そんなものかも」と予想の範囲内でしたし、そこから数戦でなんとか(マノーは抜いて考えての)最下位、グループのどんじりまで持ってきたのはさすがだと思ってました。

しかし、いくら何でも11戦目でそのポジションとまったく変わらないとは思わなんだ。うーむ・・・。

新井さんがレース後のコメントで、「ここスパは、我々にとってエネルギー収支の厳しさが現実として予想以上であったと思います。」という発言をしていて、今回のマシンでトークンを入れたのがICUだということを考えると、KやHがまだまだ足りないという話なのか、パワーユニットのマネージメントがダメだという話なのか、そういうことなんだろうと思いますけど、それにしてもちょっとキツすぎやしませんかね。

というわけで、ここでこのポジションならもう今年は巻き返すのは無理でしょう。来年だぁ、来年!

とはいうものの、いじれる範囲は限られており・・・。シーズン中の開発を制限するのはまだわかりますが、来年もいじれるところが制限されているのはよくわからない。そんなのコンペティションじゃないと思いますけど。来年使うエンジンのホモロゲーション期限を設けて、そこまでの開発は無制限にしないと技術の発展を阻害しますよねぇ。なんだかなあ。どうなっちゃうんでしょう。

最後に。ポコノでのインディーカーレースの録画も観ました。インディーのオーバルのレースでは珍しくもないのですが、相変わらず身の毛もよだつような激しいクラッシュが幾度も起きたレースで、リスタートで7台の車が横に並ぶ(7ワイド!?)シーンまである、スリルとデッドヒートのふんだんな面白いレースでした。そんななか、ジャスティン・ウィルソンの死んだ瞬間はクラッシュしたマシンの破片の中をマシンが通過しただけの、ありふれたシーンにしか見えませんでした。マシンがウォールに激突して粉々になったわけでもなく、タイヤが接触して宙を舞ったわけでもなく。ただ、パーツがヘルメットに当たってしまった。それだけだったようです。

あの程度のことで、ドライバーが死ぬんだというのは、頭でわかっていてもショックでした。ダン・ウェルドンの事故のショックも和らぐ中、去年、そして新しいエアロパーツで挙動が不安定な方向に向かった今年のインディーカーは許容できるスピードとコントロール性から外へ出てしまっているのではないかという議論はありましたし、実際、大きな事故が起きる頻度も高まってしました。そういうことを鑑みればこの事故は、「予兆のあったもの」と言えなくもないのですが、それにしてもあっけない。あんなシーンなら毎週観ているよと言いたいレベルの事故です。それでも死亡事故になる可能性はあるのです。辛い。

あれがインディ特有の事故とは思えません。実際、F1ファンはみんなフェリペ・マッサの事故を頭に思い浮かべたはずです。前の車から脱落したスプリングがヘルメットに直撃したあの事故でマッサが命を落とさなかったは単なる偶然なのでしょうか。それとも、インディのスピードが事故を危険な領域にさせたのでしょうか。私にはわかりません。そもそも頭部をむき出しにしたフォーミュラのレースはやめるべきだという意見まであり、F1のオールドファン(と自分で思っているわけではないですが、25年も観ていればそう呼ばれてもしかたないんでしょうね)としては受け入れがたいことです。しかし、今回の事故を防ぐために何ができるのかを考えると、明確な対策も反論もなく「危険かもしれない。しかし、それがフォーミュラカーであり、究極の速く走る事だけに特化したマシンとレースで、みんなそれが好きなんだ」と言うしかありません。しかし、リスクを負っているのは観ている私ではないのだから、何も言う資格などないのですけど。

F1での事故ではないにせよ、最高のテクニックを持つはずのF1ドライバー達の事故死のニュースをこう立て続けに聞くと、たまらないものがあります。常にリスクはあり、いつか死亡事故は起こるものだとわかってはいても、F1、インディ、WEC、GP2、SF・・・その他のすべてのカテゴリーで、もうしばらくは死亡事故の話は聞きたくありません。今回のような事故を目にすると、我々はもちろん、実際にレースをしているドライバーもチームも興行主もFIAも、やれることはすべてやったとしても最後には幸運に頼らざるをえないのだと思い知ることになります。祈るしかないのであれば、祈りましょう。ジャスティン・ウィルソンのご冥福と、これ以上の死者が出ないためにためのほんの少しの幸運がすべての事故に伴いますことを。永遠に終わらないポコノのレースをまだ戦っているのかもしれないジャスティン。どうか安らかに眠って欲しい。

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