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ベストセラー・ライトノベルのしくみ/飯田一史

この本は、ここ数年のライトノベルの売れ筋について、それが「なぜ売れているのか」を「内容が優れているから」だと主張し、それらがどう優れているのか、ユーザーは何を求めていて、それにベストセラー・ライトノベルはどう応えているのかを分析した本です。

ライトノベルは大きな市場に成長したにも関わらず、このような分析はそれほど行われていません。特に、この本では他でほとんどされていない仕事(私が知らないだけかも?)である「涼宮ハルヒ以後」を中心として分析しているのが注目点です。

「涼宮ハルヒの憂鬱」が多くのメディアを巻き込んで大ヒットをし、ライトノベルの存在を広く世に知らしめたのは間違いありませんし、「涼宮ハルヒの驚愕」発売時の大騒ぎをみても、今も大きな力を持ったタイトルであることは間違いありません。しかし、「驚愕」を読んでみればわかる通り、これはいつもの「涼宮ハルヒシリーズ」であったことと同時にどう読んでもこの本が今のラノベのメインストリームではないことははっきりとしています。「ハルヒ」はガチハードSFですからね。

筆者は、この本の中で「涼宮ハルヒ」の前後でオタクの世代が分かれていると主張しています。「涼宮ハルヒ」以前がオタク第3世代、以後が第4世代です。オタクの第1世代と第2世代はどこに行ったのかといえば、この分類は岡田斗司夫さんの「オタクはすでに死んでいる」に従っているのでそちらを参照のこと。岡田さんの本が出たのが2008年、元となったイベントが開催されたのが2006年。あれから6年が経過しているのですから、岡田さんが最も新しい世代として定義したオタク第3世代に続く、第4世代が産まれていても不思議はないわけです。

自らは第3世代であるという筆者は、「ハルヒ」は時代の境目に第3世代と第4世代のどちらにも受け入れられたから大ヒットになったんだと分析しています。オタク第2世代のばりばり「教養主義」の私は諸手を上げて賛同はできません(「長門有希の100冊」なんて教養主義以外の何物でもないですからね。ハルヒは俺らのもんだ!^^;;)。が、「ハルヒちゃん」を受け入れないのが第3世代、受け入れるのが第4世代といわれると、なんだか妙にしっくり来ます。あー、そうですね。そこでフェイズチェンジが起きているわけですね。うん、私も「ハルヒちゃん」だめです。

てな情勢をふまえて、第1世代が「趣味と祭」の世代、第2世代が「教養と選民」の世代、第3世代が「自意識」の世代とすれば、新世代の求めるコンテンツとは何か。それをベストセラー・ライトノベルを分析することにより明らかにしているのが本書です。

ただし、岡田斗司夫さんの「オタクはすでに死んでいる」のような文化論・社会論的なアプローチではなく、また東浩紀さんの「ゲーム的リアリズムの誕生」のような文芸論的アプローチでもなく、あくまで「売れるラノベが売れるのは何故か」というマーケティングのアプローチで分析がされます。それは、この本が元ラノベ編集者が書いた本である商売っ気まるだしの本だからというだけではなく、著者の分析に従うならばオタク第4世代が社会的あるいは文芸的なアプローチでは分析しづらい対象だからでしょう。

オタク第3世代は、作品に自分を投影していました。オタクであること自体が自分を支える主体になっていました。それを称して「自意識」の世代と呼んでいるのですが、そのことにより、オタクであることの連帯意識はなくなりました。エヴァのキャラに自分を投影して内面をつくり、「○○萌えー」と叫んで「オタク」のような振る舞いをすることにより自分自身を「キャラ化」していったオタク第3世代によってオタクの連帯は崩れ去り、それをして岡田さんは涙を流してオタクの死(第1世代の興した「祭」の終了)を宣言したわけですが、第4世代のオタクはすでにただの普通の人です。世の中には「AKBのファン」というもっとおかしな人達がいっぱいいることですし、アニメが好きなぐらいでは別にどうということもなく、ただの趣味のひとつのジャンルになってしまいました。この本のなかで文化論的な議論に近い「第IV章 環境分析」の中で筆者はこう言っています。

オタク第3世代の消費行動を指して東浩紀は「動物化」していると形容したが、第4世代は「動物」というより単に「素直」である。

(中略)

また、第3世代を評した「動物」は、「ニート」「ひきこもり」同様に社会退行的な印象がつきまとう表現だが、『俺妹』の高坂京介や『禁書』の上条当麻を指示する「素直」な第4世代は、家族や仲間、社会のために何かするのがいいという社会意識を素朴に持っているように見える。

これは日本だけでなく、社会がゆたかになったのちに経済危機に瀕している先進国に共通した、集団心理の変化も反映されているのかもしれない。たとえばジョン・ガーズマとマイケル・ダントニオ『スペンド・シフト <希望>をもたらす消費』では、2008年のリーマンショック後のアメリカ、なかでも若い世代では「富裕層向け」「お高くとまった」「感性に訴える」ものへの関心は減退し、「親切で思いやりがある」「親しみのある」「社会的責任のある」ものを好む傾向が高まっていると論じている。ベストセラー・ライトノベルの特徴は前者ではなく、後者に合致する。

確かに、今のニコニコ動画などはかなり「政治」的な雰囲気をまとってますし、オタクといえども、3.11以後の世界でただ萌え悶えているんじゃあ居心地が悪いわけです。その世界背景を背に出てくるオタクカルチャーの消費者の姿がただ普通に「素直」な人だった。なんだか寂しいような、ほっとするような不思議な結論です。

というわけで、ここ数年のライトノベルの傾向と対策がさくっとまとまっている点、オタク第4世代たるライトノベルの主要ユーザー(=今の中高生)が何を好み何を求めているか理解できる点、業界構造(例えばアニメとの関係は抜きには語れませんよね?)なども基本的なことがちゃんとまとめてある点で非常に優れたビジネス書(基本的にはマーケティングの本です)で、ライトノベルに関わる人および目を肥やしたいと思っている読者はすべからく読むべき本です。

しかし、私の目にはその点をさらに越えて、オタク文化を2012年の地平から俯瞰した良書を書いた、岡田斗司夫や東浩紀に継ぐ仕事をする力を持った書き手が彗星のごとく現れたと見えています。いやあ、楽しみです。とりあえず、「文化系トークラジオ Life」の番外編とかで呼ばれそうですなあ。たぶん、とっくに目はつけられてるんじゃないかしら?(笑)


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