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一般意思2.0

佐々木敦さんの「ニッポンの思想」で、「ゼロ年代一人勝ち」と称された東浩紀さんの最新の著作です。

東さんは、思想家であり批評家であり、近年では作家でもあるわけですが、この本は思想と社会システムについての本です。近年は「文化系トークラジオLife」や「ゼロアカ道場」、「シノドス」などを足がかりに若い世代の批評家や哲学者、社会学者が紹介をされていますが、この本を読むと「現状に対する興味深い考察」を越えた真にわくわくするような知的興奮をもたらす思想を提示してくれる東さんは、ひとつ別のレベルにいるなと思えます。それほどまでにこの本は霧が晴れて今まで見えていなかったものがあたかも当たり前にそこにあったかのように新しいことを見せてくれると同時に、とても過激で、まるで面白いSFを読んだかのような読書体験を与えてくれます。

この本ではタイトルの通り、「一般意思2.0」について語っています。「一般意思」とは遥か昔に高校生だったころ倫理の授業で習ったルソーの「社会契約論」のアレです。「2.0」とついているのは、おそらく「Web2.0」という数年前にIT業界で流行った言葉からの類推で、要するに「次のバージョン」とか「新世代の」ぐらいの意味です。この本では、「情報技術の進化という環境変化に対応した」という意味で、「一般意思2.0」や「民主主義2.0」、「国家2.0」などという言葉が出てきます。

で、これまでの東さんの発言などを多少知っている人などがよく誤解しているのが、この「一般意思2.0」や「国家2.0」は「情報技術とかWeb2.0的な集合知を使うことによって、必要悪である代議士制なんかを取らなくても世論の統合とか政策決定とかできんじゃね?」という話だということ。ただ、どっちの方向に誤解かといえばその2つは逆の方向で、「一般意思2.0」は「そもそも世論とかそんなもん必要としませんから。議論?しちゃダメでしょ」的なもっと過激な存在で、「政府2.0」は元も子もない書き方をすれば国会が進化した「ニコニコ生放送」になることだとしてます。

東さんはまず、ルソーの「社会契約論」を読み直すところから始めるのですが、ルソーの「一般意思」とは「世論」ではなく、我々の意思や欲求のベクトル的総和として「勝手に」立ち上がってくるもので、議論により形成したりするものではありません。ルソーは一般意思が健全に生成されるための条件として「市民一人一人に判断の元となる情報が提示されていること」と同時に「お互いが意見の交換をしないで、一人一人が判断すること」としているのです。つまり、ルソーは全然民主主義の人じゃないんですね。ルソーはこの総和つまり数学的演繹の結果である一般意思に主権が存在し、政府は一般意思に従って政治を行えといってます。つまり、独裁を全然否定してません。一般意思は選挙や投票の結果によるものじゃないので明確に形にできませんから、そこで首尾よく一般意思とチャネっちゃったスーパーマンが現れたならその人が政治をするのがベストです。

一般意思の存在が明確でない以上、独裁者の「言ったもん勝ち」的なルソーのこの思想は後の世代の思想家によって批判されるわけですが、東さんはここに注目します。そりゃ、現代数学も存在しない時代には一般意思は想像上の産物だったかもしれない。しかし、それが計算で求まるものであるならば、今、我々には過去に人類が想像もしなかったような計算能力があり、そして、日々の人々の意思や欲望の発露はtwitterのDBや、GoogleのDBや、AmazonのDBの上に存在するのだと。そう、一般意思2.0とは人々の無意識が集積し集計されたデータベースなのだと。あー、そうかも。となると民主主義オワタ・・・?

とはいえ、ルソーの時代から200年の積み重ねをおじゃんにしてしまうのは無理がある。かといって、ハーバーマスのいうような理想的な公共が今、構築可能とは思えない。世の中見渡す限り失敗しまくっとる。東さんは可視化された無意識のデータベースと熟議を通した小さな公共の形成する意思の双方が政府2.0に必要であると議論を展開します。ここが大変に誤解されているところです。要するに今は一般意思2.0が政治に関与する割合が小さすぎると。結果、熟議に重きが置かれているんですが、そちらはそちらで機能マヒしている現状がある。しかし、実際のところ一般意思2.0は物理的な制約として存在してしまっている。それは日本的な「空気」の形成に似ていて、例えば、今はそれをそのまま政治に取り込む政治回路はないわけですが「原発はオワコン」という空気は確認するまでもなく形成されています。そういう「空気」を可視化できますよと。どちらにせよそれを無視することなどできないのだから取り込もうという発想なわけです。ふむふむ。議論の展開が地に足がついたように思えてきました。

で、なんで最後が「ニコ生」になってしまうのかはぜひこの本をお読みください。議論が散漫にならない程度にいろんな話題が大きく吸い込まれていて、しかも、ものすごく平易な文章で読みやすい。こんなに素晴らしい知的興奮を与えてくれる本はなかなかありません。何より、夢があります。

「増税をするために、定数是正をする」というどう考えてもまったく筋の通らない議論が激しくやり取りされている国会に皆さんも絶望してることと思いますが、そんなときにはこの本を読んで夢を語るのもいいじゃないですか。

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