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さよならジョブズ

スティーブ・ジョブズが昨日、亡くなりました。

波瀾万丈の人生だし、この業界の有名人はみんなそうですがみんなから好かれていた人ではありませんでしたが、間違いなく偉大な人でした。この業界で言えば、ビル・ゲイツが死んだとしても、こんな気持ちにならないかも知れません。

今もしゲイツが死んだとしても彼の為に残念だとは思いますが、社会の損失だとは思いません。しかし、ジョブズがこんなに若くして死んだことは大きな影響を与えると思います。ジョブズが2011年に死んだ世界と2021年まで生き延びた世界ではその差は大きいんじゃないか、そう思わせるだけの活動を2001年からのジョブズとアップルはしていました。

Windowsがまだ16bitだったころ、きだあきらさんの「API散歩道」というプログラミングに関する物語仕立ての連載がありました。

君は覚えているか、Windows APIを解説したホラムズとワタソンのことを!!

もうこの本は無くしてしまったのでうろ覚えになってしまいますが、この本の中で指南役のホラムズというキャラクターが「新しく書かれるプログラムには、ライフスタイルへの提案がなくてはならない」と言います。小さなツールだとしても、そのツールがあることによりユーザーの生活がどう変わるのか。技術の為の技術ではなく、それを考えてプログラムを書くことが大事だと。bitblt関数の話や、win32のもたらす広大なメモリ空間の話の合間に。

この台詞はずっと心に残っています。いろいろなプログラム、ツール、アプリケーション、サービス、ガジェット。あれから15年以上が過ぎ、様々なものが出てきましたが、私にとって「それが価値あるものか」の基準は常に「ユーザーのライフスタイルへの提案があるかどうか」でした。「技術的にできるからやった」「カッコいいあれを真似した」「今あるこれをデジタルに置き換えた」「半年経ったからモデルチェンジした」・・・そんな理由で出てくる様々なダメ製品やダメサービスは、この一言のもとに切り捨てることが出来ました。

しかし、スティーブ・ジョブズの作るものには常にそれがありました。

コンピューティングによるライフスタイルの変更を提案する。それが集まったのがMacでした。しかし、21世紀になってその提案はコンピューティングの枠をはみ出しました。

ソニーのウォークマンは「自分だけの音楽を身につけて外出する」というライフスタイルへの提案であり、小さいカセットデッキと言うだけではありませんでした。だからこそ、素晴らしい製品でした。カセットはMDになり、シリコンオーディオになっていきましたが、メディアの変更だけで、新たな提案はありませんでした。そこへiPodが登場しました。

言うまでもなく、素晴らしかったのはiTunesです。PCの中に自分だけの音楽ライブラリを簡単に構築し、そしてそれを持ち歩くというキチンとした提案がありました。iTunesの登場から10年が経ちましたが、ライバルは皆無と言っていいでしょう。それも、すべて当たり前のことを当たり前にやっているからです。まるで新しいウォークマンを買ったらCDをテープを全部ダビングし直すというようなことばかりを他のメーカーはやってますが、10年後もちゃんとiTunesは存在し、私が10年前にリッピングしたCDはまだ聞けて、最新のiPodで聞くことができると期待できます。

ジョブズが出してくるアップルの製品は単体でみると斬新だったり、画期的だったりしますが、その裏の提案をひもとくと実に素直で理にかなっています。決して斬新だったり画期的だったりすることが目的化しません。だから、Mac OS Xはどんどん機能追加されていますが、UIはほとんど変わらず、スクリーンショットからバージョンを言い当てられる人はよほどのMacファンだけです。逆に、Windows2000とXP、Vista, 7をスクリーンショットから見分けるのは容易です。それがどれだけ利用する企業の導入コストを上げているか。

常にそれを使うユーザーの姿がある。iPadはiPhoneという下地がありながらそれでも大きなジャンプをユーザーに期待した製品でしたから、iPadの発表時のプレゼンテーションにはそれをリビングのソファーで利用するユーザーの姿を出していました。それ以後に出てきたiPadフォローなタブレット端末に、具体的に「こう使って欲しい」という提案が含まれた製品があったでしょうか。「これができます」という発表は聞きました。iPadとの比較もたくさん観ました。しかし、提案がない。「どう使うのもお客様の自由です」。いや、それは単にサボっているに過ぎません。新しいカテゴリーの製品を出すということはライフスタイルへの提案をすることなのです。

アップルはこの10年で本当にたくさんの提案をしてくれました。そして、その結果、私の生活は大きく変わったと言っても言い過ぎではありません。そんな会社は他にありません。PS Vitaの発表の記事でプレイしているユーザーの姿って出てきましたっけ?例えば、PS Vitaでskypeが出来ますと。でも、ユーザーがPS Vitaでskypeをする利用シーンってどんな場合なんですか?なぜユーザーはPCでskypeするのでもなく、ケータイで電話するのでもなく、PS Vitaでskypeするんですか?使っているユーザーはどう見えるんですか?・・・それ要るんですか?

世の中、アップルのまねごとばかりです。歴代iMacのまねっこ筐体、アイソレーションタイプのキーボード・・・Mac miniの筐体も真似されましたね。ウォークマンはどんどんiPodにそっくりの形に。Androidを作った人ってあのiPhoneそっくりのUIがホントにいいと思って採用してるんですか?アップルが「こうあるべきだ」と考えて作ったそれらのデザインを特に考えなく使い回して。「うちなら同じものをアップルよりよく作れる」だって?そんな時代はとっくに終わっているのに。ライフスタイルへの提案。それは、今風に言えば、イノベーションという言葉になるんでしょう。

私たちの生活をほんのすこしでも愉快にしてくれる、そんな会社がもっとたくさんあればいいのに。私の周りの人がみんなMac Book Air 11インチを使っているので、区別のためにステッカーを貼る必要があるなんて世の中つまらないです。しかし、今、アップルを失うのはもっと悲しい。

8年前にガンを患って以来、ジョブズは自分がいなくてもアップルがそうしたイノベーションを続ける企業であるために動いているように見えました。死ぬ前に8/25の引退発表を出来たのは、それがぎりぎり間に合ったということなのか、どうなのか。私たちはもう「ジョブズの作品」を手にすることは出来ませんが、ジョブズの最後の作品はアップルそのもの。

アップルはまだある。ソニーだって任天堂だって常にではなくても素敵なガジェットで私たちをわくわくさせてくれる。Googleのようなネット企業も日々私の生活を変えるサービスを提案してくれています。私だって微力ながら個人としても、組織の一員としてもがんばりますよ。何もかもやってしまったわけじゃない。手遅れって訳じゃないし、素敵な22世紀が待っています。

だとしても、ジョブズのいない今日からはあり得たあの世界とはもう違う世界かもしれない。私にとって、スティーブ・ジョブズという名前はそんな名前でした。ただただ、残念です。残念でなりません。これまでありがとう。

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