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生命と非生命のあいだ―NASAの地球外生命研究/ピーター D.ウォード

先日、NASAの宇宙生命科学者が重要な発見について報告するとわざわざ予告し、「すわ、宇宙人から連絡来たのか!」と変な期待を頭の悪い一般大衆に持たせたあげく、「アメリカの砂漠の水たまりに変な微生物が居た」と発表して、みんなをとってもがっかりさせたという出来事がありました。

で、その発表というのが「リンがなくて代わりにヒ素がある環境で生きている生物を発見した」というものでした。

・・・これ、大発見ですよ?

高校生レベルの生物学の知識しかない私でも、リンが地球上の生命にとって無くてはならない元素であることは判ります。もちろんCHONは別格としても、その次ぐらいに必須の元素です。だって、リンがないとリン酸が作れないわけですから、DNAやRNAの材料が作れません。ATPのPだってリンなんですから、エネルギーだって運べません。そもそも細胞を包んでいる脂質二重膜だってリンがないと作れません。

DNAを使わず、ATPを使わず、脂質二重膜に包まれていないとしたら・・・確かにそれはエイリアンですぜ?

まあ、リンがある状況下ではリンを使用するので、DNAもATPも脂質二重膜も普通にあるんだと思いますが・・・研究の続報が気になります。

この発表内容を発表者の過去の業績から予測したブログを書いていた方がいらっしゃいまして、その方が参考文献に上げていたのがこの「生命と非生命のあいだ」です。しかし、この邦題はないわー。このタイトルだと書店で見かけても素通りしてしまいそう。原題は"Life As We Do Not Know it"(知られざるが、生命)で、地球上の生命を分析して生命の定義をし、では、我々が地球外で生命を探すとしたら何を手がかりにどこを探すべきなのかと論考しています。これは面白い。大変にスリリングな科学啓蒙書です。

というわけで、すごく面白い内容でしたが、すぐに忘れてしまいそうなので読書メモを残しておきます。

あ、その前に。これは私が検索して見つけたこの本の感想を書いたサイトで、代わる代わる批判されていましたが、やっぱりこの本の邦題は酷い。アシモフの短編に同じタイトルがあるそうですし、ベストセラーになったあの本に似ているのもあさましい。そして、これも多くのサイトで批判されてましたが翻訳の質がイマイチ。まあ、そんなに売れる本でもないし、ここういう本は駄目な翻訳でも出ないよりは100倍マシだし、訳者の方がこんな難しい本の翻訳に見合う報酬を得てるとも思えませんが、それにしてもちょっとね。

例えば、頭を抱えたのは以下の部分。RNAが自然の状態で合成されるのは難しいという話である「RNA調理の問題点」という節の冒頭です。

驚いたことには、RNA生命体への主要な批判のうちの一つとして前章で紹介した、代替的な生命形態の一つの場合には、DNA生命全体のこの仮説上の共通祖先はおそらく存在し無かっただろうという。なぜなら通常の化学的な過程では、RNAを構築することは不可能だったはずだという理由による。

じぇんじぇん意味判りません。

さて、気をとりなおして。

まず、第1章「生命とは何か」。まずは生命の条件を探りますが、この章では結論は出しません。しかし、著者はまずここで通常の生物学では「生きていない」とされるウィルスとプリオンも生命に含むことを宣言します。これは、かなり大胆な立場ですが地球外生命体を想定しようとしている立場を考えれば納得いく話です。

第2章「地球の生命とは何か」では、1章で拡張した生命の定義の為に、この章では新たな分類と名称を提案します。まず、1章で拡張する以前の現在の生物学で保守的に扱う生命、つまり、「遺伝子をDNAにもち、3文字のヌクレオチドでコードされた20種類のアミノ酸から構成され、リン脂質膜で外界と区切られている」生命体の分類名を代表的な地球型生命という意味でテロア(Terroa)と呼びます。そこに属する生命はテロアンと呼びます。

さて、地球上にはテロアンしかいないかというと、第1章で述べたようにウィルスも考える必要がありますし、そもそも、生命誕生の瞬間を考えるとこんなに複雑なシステムがいきなりできたとは思えません。今では様々な証拠から、DNAよりもRNAの方が先に存在したのではないかと考えられています。そこで、テロアをカテゴリーとして持つ、上位の分類をいきなり定義します。

生物学では、分類が定義され、それが載っかった刊行物が出版されればそのカテゴリーが正式のものとなるそうで、「この本に書いたからこれ正式なカテゴリーね」とウォードさんは宣言します。えっ?そういうもの?

地球上の真正細菌、古細菌、真核生物という一番大きい生物の分類(これをドメインといいます。動物界とか植物界とかの界はその下の分類)の上位カテゴリーとして、ドミニオン(上ドメイン)を定義して、上の3つを併せてドミニオン・テロアというわけ。ほえー

さて、1章でテロアンではない生物が地球上にいるとした以上、生物学上の分類にのせなければいけません。まず、テロアンより以前から地球上にいたと考えられるRNAウィルスとなぜか今は居なくなってしまった(見つかってないだけかも)のRNA生命体を併せて、ドミニオン・リボザとします。うーん・・・、すごい話になってきました。

さて、第3章「われわれが知らない生命」ではいよいよ議論は地球上の生命を離れます。CHONの元素を入れ替えた生命は存在可能か。化学変化の媒質として水以外の液体を利用した生物は可能か(そして、それはどんな気候条件(温度・圧力など)で実現可能か)。アミノ酸コードが異なる生命は可能か。最初に出てきたP-As交換可能生命体は、このレベルの話です。

アンモニア生命、酸生命体、タンパク質生命体(遺伝物質にタンパク質を使う)、ケイ素(シラン)生命、炭素粘土生命(結晶成長が生きているとする考え方)、黄鉄鉱生命・・・胸が熱くなるな!

第4章「生命のレシピ」では、生命誕生にどのような条件が必要かを議論します。アミノ酸だけなら放電で出来るのですが、安定的にRNAが自然に合成させる環境を考えるのは非常に困難です。RNAはすぐに分解されてしまう分子なので。著者はRNA生命の誕生のシナリオを提案しています。

第5章「生命の人工的合成」では、生命を合成する可能性について論じています。ここではウィルスを含むので原始的なウィルス(RNAがタンパク質の殻にくるまれているだけ)のようなものなら技術的には遠い話ではありません。ただし、倫理的にやっていいかどうかは別問題(作ったウィルスが漏れて毒性を持ったりしたら!)ですし、この章は分量的にもちょろっとだけですね。

第6章「地球には、すでにエイリアンがいる?」も十数ページの短い章ですが、地球上にはRNA生命やその他のテロアに分類されない生物がいるのではないかという話です。ここで注目なのは微生物学者のジョシュア・レダーバーグが非DNA生命を探すために放射性のリン酸塩(取り込まれるとDNAが破壊される)環境やまったくリン酸塩がない環境で細菌を培養する実験を企てているという話が出ていることです。初っぱなの話題に繋がる話ですね。

第7章「パンスペルミア」は、生命は惑星を越えて伝搬するという意味。これはかなりビックリしました。まず、惑星間で物質のやりとりがそれなりにあるということを知りませんでした。吹き上げられた岩石がまき散らされ、まれではあるが他の惑星に降り注ぐことがある。知ってました?では、これに乗って生命が移動することはあるか。・・・やあ、なんとなく余裕のような気がします(笑)。

そして、話題はここから地球生命の起源は火星ではないかという話になります。4章でRNAが合成される可能性のある環境を考えましたが、実は太古の地球でそのような場所(陸地じゃないとダメなんです)があったとは考えにくい。しかし、火星にはあっただろうと。マジカ!

第8章「水星と金星」。この章から、太陽系の地球以外の場所に生命の可能性を探っていきます・・・が、まあ、大抵は「無理じゃないかな」という話になるんですが(笑)。水星は重力が小さすぎて液体の物質がないために無理。金星も難しいようですが、強酸の雲の中に微生物が生存する余地はなくはないようです。

第9章「月の化石」では、月に注目します。しかし、月に生命がいないのはよく知られたことです。では、なぜ月に着目するか。月には火山活動や気象現象がないために地球では残らない太古の記録が残ります。パンスペルミアのベースになる惑星間の物質移動を考えると、火星や地球の太古の情報が月に残っている可能性があるわけです。

第10章はいよいよ「火星」。火星にはスピリットとオポチュニティというローバーが着陸し、水の痕跡の発見など様々な情報を送ってくれています。まあ、その結果、現在の火星に生命は居ないだろうというのも判ってきていますが。ただし、大昔に生命が存在した可能性は大いにありますし、今もメタン生命体がいても不思議ではない兆候はあるんだそうです。

第11章は「エウロパ」。ここからは太陽の光もわずかにしか届かない極寒の世界になります。エウロパには海があることが判っています。しかし、エウロパには生命が利用出来そうなエネルギーはあるのか。無ければ生命は生きながらえることはできません。ありそうなのは、巨大な木星の重力からくる潮汐力のエネルギーです。

第12章「タイタン」は唯一の大気を持つ衛星の話。炭化水素溶媒で油っぽいこの星には地球と根本的に違う生命がいても不思議ではありませんが、まだまだ謎が多いです。この章はたっぷりと考察が披露されているので楽しい章です。

第13章「意味合い、倫理、危険」では、他の惑星に地球の生命を持ち込んでしまうこと、他の惑星の生命体が我々の病原体になる可能性、人口生命体が兵器として利用される危険などについて警鐘を鳴らしています。

第14章「宣言」は最終章。ここで著者はこれまでの議論を総括して、「古生物学者を火星に、生化学者をタイタンに送れ」と提案しています。今の技術ではおそらく片道切符になってしまいますが、それでも行きたいという人は少なからずいるでしょうね。

さて、長々と内容を紹介しましたが、繰り返して言えばこれはかなり面白い本です。高校で習う生物の基礎はあった方がいいですが、無くても十分にエッセンスは判ります。地球外生命体と聞いて、すぐに知的生命体を想像してしまうのではなく、もっと根本的に「我々とは何か」を突き詰めていく意味で、「生命とは何か」「生命体の満たすべき条件とは何か」「どのような生命がありうるのか」を問うことほど素晴らしい知的探求はありません。ぜひ最新の科学における「生きているとは何か」という探求の興奮をこの本で味わってみてください。

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