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1Q84/村上春樹

発売直後に読み終わったんですが、予想外の大ベストセラーとなったので感想を書き損なっていました。

発売直後から大ヒットだったので読んだ人の評判が口コミで・・・という流れではないはず。私のような新作が出るたびにすぐ買うようなファンからみると、「海辺のカフカ」や「アフターダーク」と決定的に違う何かがあるようには思えません。このヒットは何を意味しているのでしょう?

ひとつには、イスラエルでのスピーチなのでしょう。選挙が近いこともあり、ニュースが政治家の「オトナ語」に溢れています。与党の議員も野党の議員もまったく自分の世界のジャーゴンに従って、嘘と虚言を繰り返します。そこに見え隠れする本音自体を我々は別に嫌悪していません。

志があって政治家になったんでしょうから、是が非でも選挙に勝ちたいのは当然のことでしょう。麻生さんが総裁のままで選挙に勝てるとは思えないのも事実なんでしょうから、誰か他の人に変わって欲しいと思うのも構いません。しかし、そこで「総括」であるとか「責任論」であるとか見え透いた嘘の言葉を使って欲しくない。「国民が納得しない」とか「国民の審判が」とか嘘の言葉を使わないで欲しい。

気に入らないのは、それを使う政治家たち、そしてその論理を当然の物言いで、実際にはこういってるんだよと解説し、偽善の正論を振りかざすニュースキャスター達が、だんだんそのまやかしの言葉に取り込まれていっているように思えることです。なんのかんのと難癖をあたかも正論のように振りかざして、貪欲に自分のやりたいことを実現していくというのもいいでしょう。それが政治力というものかもしれません。ただ、その言葉を濫用し、自分がまやかしの言葉を使っていることに鈍感になっていくがゆえ、あるいは、その言葉が一見、正論のように見えるがゆえに、そのまやかしの言葉を自分が信じそうになっているのではないか。「国民は怒っている」と言っている政治家には、自分の後ろに本当に自分の妄想している通りの怒れる国民の姿が見えているのではないかと思ってしまいます。その鈍感さこそが、私をイライラさせます。

そんなはっきりとものを言う人を見ることがなくなったこの日本で、村上春樹がイスラエルで行ったスピーチのすばらしさは、日本人に誇りを与えました。日本を代表する作家であり、全世界の人々をそのペンの力で感動させている村上春樹が日本人であることに明確なコミットを示した上で、声高に非難するのでもなく、権力に迎合するのでもなく、その鋭敏な言語感覚を持って意見を表明したことが我々日本人を奮い立たせたことが、この本のヒットの陰にはあるのかもしれません。

というわけで、ヒットしてる割にはそれほど「面白かった」とか「感動した」とかいう声を聞かないのでした。

みんなちゃんと読んだのか?(笑)

ただ、これまで名前は知っていたけど、読んだことないという人は多かったでしょうから、その中で少しでもこの村上春樹という特異な作家を知ることが出来たのは良かったのではないかと思います。「アフターダーク」でも書きましたが、とにかく小説というスタイルの芸術の技巧の粋を凝らしてあります。物凄く平易な文章で書かれてありますが、本を読み慣れてない人には、「面白くすらすら読めるんだけど、何がなんだかわからない」ということにもなりかねません。一種の不条理ものですから、ある程度の教養は必要とする気がします。

そして、様々な読みと分析に耐える作品になっています。長編を一本書くのにこれほどの労力を費やす作家はそうそういません。何度も書き直しを重ねたであろう文章のひとつひとつまで推敲が重ねられています。そして、膨大な読者による膨大な分析と書評、感想が連ねられるでしょうから、そこにあえて私が論を差し挟む必要もないでしょう。ググって好きなのを探して下さい(笑)

個人的な感想を記しておけば、「これは私の物語ではない」というところでした。

もちろんタイトルから判るとおり、私のように1975年に産まれて、1984年にはまだ洟垂れだった人の物語ではないのは当たり前です。が、過去の村上春樹の作品よりも、よりある時代に何かを感じた人へ向けた物語なのではないかという感覚を強く受けました。そういう意味では、私よりもっと若い読者にはどんどん遠く感じる世界なのではないかと思います。高度成長があり、学生運動があり、バブルがあり、失われた10年がありました。私の年齢では自分の体験として持っているのは最後だけですが、若い読者の中には震災やオウム事件を自分の体験として持っていない読者もいるでしょう。そういう日本が積み重ねてきた要素、自分の血肉になっている要素をふんだんに織り交ぜて書かれている小説です。

村上春樹の年齢なら青年期に強く影響を受けたのであろう学生運動が出てきます。芦屋出身の村上春樹が少なからずショックを受けたであろう震災の影響もみられます。自身が初のノンフィクション「アンダーグラウンド」の執筆の為に強くコミットしたオウムのようなカルトも出てきます。アスリートとしての自分が青豆には反映されているし、もちろん小説家志望の天吾はもう一人の著者の姿でしょう。また、青豆の言動にバブルの萌芽も感じられるでしょう。自身が日本を出るきっかけになった文壇批判も含まれていますし、壊れかけたシステムとしてのNHKも出てきます。風俗や料理、音楽もふんだんですし、特有の比喩のスタイルものびのびと使われています。まさに、集大成というにふさわしいですが、それらを使って組み上げているのは「フィクションとしての日本」であり、未来小説としての「1984」に対する意味で、想像の過去を書いた過去小説「1Q84」が存在する。

そういう意味でこれは日本がテーマの小説で、1984年から2009年までの25年のうちの10年強にしか日本と社会に関わってきていない自分には、「おそらく理解できても、ここで用意されている読書体験は与えられないのだ」と感じました。東浩紀さんはこれを著者が30代のふりをして書いた「コスプレ小説」だと評しましたが、これが今の30代の書く小説でないことは確かですし、今の30代がターゲットになる小説でないことも明らかです。だから、これを著者の意図のままに感じ取れる人のことを羨ましく思いますし、逆にこの小説は確かに素晴らしいですがベストセラーになるべき間口の広さは持っていないんではないかと感じました。

まあ、それを春樹さんに望むのは筋違いで、自分で書くか、同年代に書いてもらうしかないわけです。ロスジェネだってそれなりの体験をしてきているんだと思うんですから。いや、どうなんでしょうか?(笑)

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