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アニメに学べ

大塚康夫さんのインタビュー本の感想でも書いたことなんですが、システム開発(SI)の仕事とアニメ製作の仕事というのは似ています。もしかしたら、どんなプロジェクトでもある程度は共通した側面があるのかも知れませんが、私が聞いたことがあるのはこの2つの業界だけなのです(笑)

さて、非人間的な労働が日常化し、低賃金で搾取され、労働は海外へ流出し、スケジュール管理が崩壊し、若者が次々に辞めている両業界(言っててつらくなってくるな)ですが、それでもアニメは毎週放送されていて、SIプロジェクトはサービスインがディレイしまくってます。

一つの理由には、システム開発の場合は横にクライアントがいるので簡単にダメだし、手直し、修正、ディレイの判断が出せてしまうという点があります。

ですが、システム開発のプロジェクトがまだまだ未熟だということもあるんじゃないでしょうか。我々がアニメの現場から学べることってたくさんあると思います。そんな話を昨日の夕方、後輩のBANGとしていたので、ここにまとめておきます。以下、SIプロジェクトの問題点です。

ディレクターとプロデューサーが分かれていない

アニメの現場では、作品に責任を負うディレクター(監督)と、資金的な管理をするプロデューサーは分離しています。同人作品でもない限り、これを兼ねることは有り得ません。更に言えば、「制作」プロデューサーと「製作」プロデューサーと2つのロールがあるのがふつうです。ですが、恐ろしいことに、SIではこれらすべてがプロジェクトマネジャー(PM)の仕事です。

今のSIではPMの仕事が大きくなりすぎてます。基本的にリーダーがいっぱいいっぱいになるというのは危険な兆候です。リーダーの仕事はあくまで「判断」であるべきだからです。

制作進行がいない

制作進行とは、すべてのカットの進捗を管理し、各工程の摺り合わせをし、遅れてたらせっつく人のことです。詳しくはWikipediaでもどうぞ。または、業界内輪受けアニメ「アニメーション制作進行 くろみちゃん」を見てください(笑)

要するに、進捗管理をそれ専門の人が行うということです。SIではこれは通常、アプリケーションリーダーの仕事とされます。確かに、PMやお客様に報告するのはアプリリーダーの仕事でしょう。でも、いちいち一個ずつのプログラムの進捗を把握し、担当者に電話かけるなんてのは、明らかにリーダーのするべき仕事ではありませんし、中にはExcelの表をファイルサーバに置いて、「出来たら、自分のところに丸をつけて」と言うだけの人もいます。そんなのは進捗管理じゃありません。

できるリーダーは自分にひとりサポートする人間を付けて、「おい、あれどうなってる?」と聞きまくります。偉そうに見えますがそれが正しいやり方です。リーダーが忙しいのは一番よくないのです。それに、このサポートにリーダーが厳しくあたっていれば、このサポート役は催促するときに「やってもらえないと、ボクが怒られるんです」と言えるわけです。これは、サポート役を相手にナメさせない簡単な方法です

ですが、もっといい方法もあります。それは、プロジェクトで進捗管理のポジションを作って、専任チームをつくることです。それが、制作進行です。

作画監督がいない

作画監督の仕事は現場によって様々のようですが、基本的には複数人で書いた絵を一本のアニメーションとして動かしたときに違和感がないように修正する人のことです。例えば、同じキャラクターを書いたとしても、どうしてもアニメーターによってクセが出てしまい、ともすればカットごとにキャラの顔が違って見えるなんてことになります。それを統一させるのが作画監督の仕事です。なので、キャラクター設定担当が作画監督もやるパターンも多いです。

また、原画、動画の出来をチェックするのも作画監督の仕事です。出来が悪いものは差し戻します。また、海外へ発注している場合には、送られてきた動画があまりにも酷いがリテイクさせる時間がないので、泣きながら作画監督が描き直すなんてこともあるようです。

この様に、1本のアニメとして見たときに、個々のパーツの絵に対して責任を負うのが作画監督の仕事です。ま、アニメーターの親分ですな

こう書いてみるととても重要なポジションであることがわかります。これをSIに当てはめてみるとどうでしょう?各ソースコードの体裁を整え、各モジュールごとのつながりを確認し、品質の悪いコードはリテイクし、どーしようもなければ書き直す。

どうみても必要ですね。こういう人が力を発揮してくれたらプロジェクトは順風満帆でしょう。現実に、大きなSIerから発注がいく小規模のソフトハウスなんかでは、配下のプログラマーを束ねて品質を管理する兄貴的なスーパープログラマーがいて、うまくやっているところが結構あります。ところが、通常のプロジェクトにはこういう人がいません。いや、自然発生的に居るプロジェクトもあるでしょうが、こういうポジションとかロールがありません。だから、私も何て呼んだらいいかわかりません。プログラマーのリーダーかな?

ちなみに、アプリケーションリーダーはこの仕事をするべきではありません。作画監督はべらぼうに忙しい仕事です。リーダーは忙しくてはいけないのです。では、各サブシステムのアプリケーションリーダーは何をするか。それは、アニメの世界で言えば、演出、あるいは各話監督と呼ばれる仕事です。

演出がコンテをかかない

アニメの世界で演出といえば、ようするに絵コンテを描く人です。絵コンテというのはアニメの設計書です。例えば、「時をかける少女」の細田監督が描いた絵コンテはこんな感じです。細田監督は「アニメにするために必要な情報はコンテにすべてあるべきだ」という主義なのでかなり精緻なコンテですが、これも監督(アニメの世界では、基本的に監督=演出。あるいは、監督=演出のリーダー)の個性がでるようです。実際に作画に入るまで、アニメではコンテを少人数でひたすら描いています。テレビの1話であればまず1人が描きますし、劇場でも、数人(4~5人)で描くことが多いようです。そして、これを元に打ち合わせ(作打ちといいます)を持って、意思疎通した上で作画に入るわけです。

ここで注目すべきは、演出は絵が描けなくても構わないということです。細田監督はアニメーター出身の監督なので当然絵が描けるわけですが、アニメの世界ではアニメーター出身ではない監督もたくさんいます。ただし、そんな人でも必ず絵コンテは描くのです。

これをSIに当てはめると、演出はアプリリーダーにあたります。アプリリーダーがコードをまったく書けないなんてのは日常茶飯事ですし、仮に自分が書けない言語(何でも書ける人は、メッタにいませんし、言語は星の数ほどあります)で作られるアプリケーションであってもリーダーは問題なく務まります。ただし、絵コンテは書く必要があります。

つまり、仕様書を書くのはリーダーの仕事です。逆に言えば、自分一人で仕様書を書ける(まあ、もっと緩くして仕様が理解できる)範囲でしか、リーダーは務まらないのです。そして、仕様書なんてのはカンペキであるハズもありませんし、実際にコードを書いてみたら、ハードの制約、言語の制約、ミドルウェアの制約、お客様のワガママなどで、仕様を変更する必要がでるのは当たり前です。その時に、「じゃあ、こうすべ」と判断をするのがアプリリーダーの仕事なのです。そういう判断は、自分が仕様を全部書いていないと出来ませんよ。一番駄目なパターンは「じゃあ、お客に聞いてくるよ」といって、判断をしないリーダー。最終的な確認は居るかも知れませんが、仕様書を自分で書いていれば、お客様にとってそれが合理的な判断かどうかは普通わかります。

ところが実際はどうかというと、仕様書を自分で書いてるリーダーなんて見たことありません。酷いところになると、その部分のコーディングをする部分のプログラマが仕様書を書いているなんてことがあります。そんなの、うまくいくわけがありません。というよりも、それは「仕様書とプログラムが一致していれば正しい」という判断基準を捨てることですから、そんな恐ろしいことはありません・・・と言いたいところですが、世の中にはプログラムを見て、仕様書を作るなんてことが往々にしてあるわけで・・・とほほ。

ま、そういうバカなことは仕様書が納品物に含まれる(そして、実際には見られることもない)という変な事情も影響しているのですが。でも、それこそ細田監督の絵コンテ本のように、仕様書だって堂々と誇って出版できるぐらいにしたいものです。

これが、システム開発の現実です。それにしても、アニメ制作をしている人に「システム開発って、プロデューサーと監督が同じ人で、制作進行がいなくて、作画監督がいなくて、絵コンテをアニメーターが描きながらアニメつくるような感じ」と言ったら何と言われるんでしょうね。

「いや、こっちはもっと酷くてね・・・」とかだったりして!(笑)

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Comments

ああ、おれもその業界にいたときは、切り口はアニメではないけどおんなじこと考えてました。
兵隊でいえば、作戦本部やら、リーダーまでが鉄砲撃ってる状態では全く非効率ですね。
一見余分と思える人材を入れることで、作業効率が全然違うと思います。

Posted by: タコチン | February 03, 2007 at 08:03 PM

そうなんだよね。でも、人が足りない、足りないって言う時には、何をする人が足りないとか、どういうポジションの人が足りないとか、言わないといけないわけで、そういう意味できちんと「余分な人」に名前を付けてあげることが大事だと思うです

Posted by: Tambourine | February 04, 2007 at 10:59 AM

でも予算が決まってるからなぁ。。。
優秀なプロデューサー(営業?)が優秀なスポンサーを見つけてきて始めてその後の人員が決まるんですかね。

アニメの世界の一本あたりの値段って何によって決まってるんですか? コスト積み上げ?

Posted by: かに | February 06, 2007 at 10:26 AM

> 優秀なプロデューサー(営業?)が優秀なスポンサーを見つけてきて始めてその後の人員が決まるんですかね

劇場とかはそうでしょうね。シナリオの段階では予算がないと思います。最終的にはコンテまで出来てから決まるんじゃないかな

テレビだと最初に予算が決まってますね。企画が通って枠とスポンサーが決まったら、もうそれで決まりなんじゃないかな。いや、あんまり詳しいことは知りませんけど

Posted by: Tambourine | February 06, 2007 at 01:08 PM

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[Tamがおもろい比較をしていました。](http://tambourine.cocolog-nifty.com/dengon/2007/02/post_0d86.html) まー、うちの業界(コンピュター関係)なんて、まだモノができて半世紀ですからね、 ほかの業界に比べたら子供なのかもしれません。で、私の仕事は、 いわゆるSIプロジェクトではありませんが、 製作進行とその使いっぱしり がメインのはずです。が、ときどきディレクターとか作画監督とか演出もやってます。 救いはプロデューサーになって... [Read More]

Tracked on February 03, 2007 at 12:18 PM

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